【スペインGP】
アップデート後も強いブロウンGP
苦労人バトンの経験と技が開花
開幕4戦のフライ・アウェイを終えて、F1はヨーロッパに戻った。その緒戦となるスペインGPの開催地カタルーニャ・サーキットは、冬の間のテストに使われたところで、ほぼ全チームが2009年型マシンでの基礎データを持っている。そのため、開幕4戦ではっきりしたマシンの弱点を修正し、長所を伸ばすための改修を施したアップデート車を持ち込むには、絶好のコースだった。結果、ほぼ全チームが、何らかの改修を施したマシンを持ち込んできた。
スペインGPの舞台はカタルーニャ・サーキット | ヨーロッパ・ラウンドでは各チームがモーターホームを持ち込む |
■各チームがマシンをアップデート
マクラーレンは、スペインで投入する予定の改修を過去3戦の間に矢継ぎ早で実戦投入していたため、今回は他のチームほどの大きな改修はなかった。それでも、ディフューザーはダブルデッカー型と呼ばれる、中央部分の2段に開口した構造をより追及したものに変更していた。
フェラーリはフロントウイングや、部分的にダブルデッカー型に変更したディフューザーなど、空力を大きく見直した上、ライコネン車には軽量化したモノコックを採用。マクラーレンとともに、KERSの利点を活かす方向をとった。マシンは完全ではないにしても速さを取り戻した。
序盤戦で大苦戦をしたBMWザウバーは、ノーズ、前後のウイング、サイドポンツーンなど空力を大きく見直した。ノーズはより幅が広くなり、その下面の気流を車体の底に導くことでダウンフォースを増やしたいという意図がより明確な形になった。KERSは電池の形と搭載方法を見直したことで、今回は搭載しなかった。また、この搭載方法の見直しによって、ラジエーターがより車体中央寄りに配置でき、おかげでサイドポンツーン側面をより絞り込めるようになって、車体後方への気流改善が期待できるようになった。
ルノーはKERSを搭載せず、重量配分のよさと、信頼性の高さを得る方向に動いた。そのほか大きな変更なく、際立った性能向上は見られなかった。
トヨタはリアウイングに届くほど後ろまで伸ばしたカウル上のフィンを持ち込んだが、結局元に戻した |
トヨタは、フロントウイングとエンジンカウル上のフィンを変更してきたが、タイム向上につながらず、元の仕様に戻してしまった。
トロロッソは、アップデートパーツの導入で序盤戦のレッドブルと同等のボディーになった。
レッドブルは、次のモナコGP以降にアップデートを予定しているため、今回大きな変更はなかった。しかし、ブロウンGPに対抗できたのはやはりこのチームのRB5だった。
ウィリアムズは、空力にアップデートを盛り込んだ。
フォースインディアは、バーレーンで大幅なアップデートを済ませたため、今回は小規模な変更にとどまった。それでも、フロントウイングの可変式フラップを持ち込んだ。
ブロウンGPは、排気口まわりを改善することで、リアウイングやディフューザーの効果を上げようとしていた。また、ギアボックスや油圧装置などを中心に見直しをした結果、約7kgの軽量化も実現。これでBGP001は予選でも決勝でも、優位性を維持して見せた。
■KERSを活かしたマッサが壁に
スタートでバリチェロ、バトンの後ろにマッサが割り込んだ |
予選の結果、バトン、ベッテル、バリチェロ、マッサ、ウェバーと、ブロウンGPとレッドブルがトップ5を占め、6、7番手にグロックとトゥルーリのトヨタ勢がつけた。この時点で、決勝はまたしてもブロウンGPとレッドブルの戦いになると予想できた。予選後に発表された車両重量から換算すると、ブロウンGP勢の方がレッドブル勢よりも1~2周分燃料が少なく、レッドブルがやや有利にも見えた。また、マッサもレッドブル勢より1周分多い燃料搭載量で、あなどれない速さになったことを示していた。
決勝のスタートは、ブロウンGPがうまく飛び出したが、1周分燃料の重いバリチェロが前に出てバトンが2番手に付けた。その後ろには、ベッテルとウェバーを抑えて、マッサが3番手につけた。マッサはKERSによる加速の伸びをうまく利用していた。
1コーナー出口から2コーナーのところで、後続が多重衝突となり、トゥルーリ、ブエミ、ブルデー、スーティルがストップ。これらの車両と散らばった破片を撤去するために、セーフティーカーが4周終了まで入った。このセーフティーカー先導によるややスローな走行のおかげで、大部分が燃費をセーブできて、約2周ピットストップを遅らせることになった。
レースは5周目から再開となり、バリチェロ、バトンが逃げた。ここからブロウンGPにとって極めて有利な展開となった。3番手のマッサのペースがあまりよくなく、はからずもブロウンGP勢とレッドブル勢との差をひろげる役割を演じてくれるようになったからだ。
ベッテルにとって、スタートでマッサに先行を許してしまったのが痛手になった。本来ならブロウンGPと同等の速さで走れただけでなく、1回目のピットストップでトップに出ることも可能なはずだった。前を行くマッサよりもベッテルの方がコーナーでは速いのだが、そこでは追い抜きができない。しかも、抜きどころのメインストレートではマッサがKERSで加速することで、ベッテルは並ぶこともできない。マッサはKERSの威力を存分に使っていた。
結果、ブロウンGP勢が1分23秒台の前半で周回したのに対して、ベッテルはマッサの1分23秒台半ばから後半に付き合わされ、ピットストップでトップに出ることも不可能になってしまった。さらに、ピットストップのタイミングがやや後ろにずれたことで、マッサとベッテルは20周目に同時にピットに入ることになってしまった。しかも、燃料搭載量もほぼ同じで、またベッテルはマッサの後ろ。さらに次のピットストップのタイミングも同じとなり、最終的には66周のレースの63周目まで遅いペースにつきあってしまった。
■運も味方につけた絶好調のバトン
マッサのおかげで、ブロウンGP勢は余裕の1-2体制になった。しかも、BGP001はまたしても好ペースを連発。とくに、バトンは、最初にセーフティーカーが入ったことで、3回ストップの作戦を急きょ2回ストップに変更。これが功を奏した。しかも、2回目のピットストップでハードタイヤに換えても大きくペースを落とさずに済むほど、マシンもドラビングも絶好調だった。
一方、バリチェロは予定どおり3回ピットストップとして、より使いやすいソフトタイヤで走る周回数を多くとる作戦を採った。しかし、2回目のピットストップ後、ペースを落としてしまった。これで2番手は確保できても、トップはバトンのものになってしまった。バリチェロは、装着したソフトタイヤがうまくあわずペースが落ちてしまった。タイヤは、路面状態、タイヤの表面の状態、タイヤの空気圧、マシンの状態、ドライビングなど、ほんの些細な違いでグリップ力やフィーリングの違いにはっきり出てしまうこともある。バリチェロはこれに泣いたようだ。
ベッテルも不運だった。ウェバーが2回目のピットストップのタイミングを遅らせる戦略を採ったことで、50周目までソフトタイヤでハイペースを連発。マッサとその後ろのベッテルに対して、3位を確実なものにしてしまった。
だが、もっと不運だったのは、マッサだった。せっかくアップデートしたマシンで多少は速さを取り戻し、KERSの威力を利用してベッテルも抑え込み、4位は確実というところだった。ところが、残り10周のあたりでピットから燃料不足とペースダウンが指示された。チームの説明は燃料補給装置のトラブルによる燃料補給不足だったと言う。これでマッサは、4位の座をベッテルに明け渡した上、最終ラップにはアロンソにも抜かれて6位に転落してしまった。落胆したマッサは、レース後に今年のチャンピオン争いから脱落してしまったと語ったほどだった。
ハイドフェルドは、BMWザウバーの改修が足りず7位。8位はロズベルクだった。ハミルトンはバトンに周回遅れにされての9位ノーポイント。マクラーレンは改修を続けてきているのだが、まだ戦闘力が足りないことを露呈させてしまった。トヨタ勢は、トゥルーリがスタート直後の事故に遭ってストップ。グロックは、スタートからペースが上がらないまま、苦戦の連続だった。
■モナコもブロウンGP、レッドブル有利だが
打倒ブロウンGPや性能向上を目指して、大部分のチームがアップデート版マシンを持ち込んだが、結果はブロウンGP勢の独走で、それを追ったのはアップデートを次のモナコGP以降に予定しているレッドブルという皮肉な結果だった。
フェラーリは確かにペースが上がったが、ライコネンも17周で油圧のトラブルでストップしていた。マッサへの燃料補給問題はミスなのかトラブルなのかはっきりしないが、こうしたマイナーなトラブルで大きく結果に影響を及ぼしてしまうところに、かつての強いフェラーリの姿ではなく、それ以前の脆いフェラーリの時代が来ていることを予感させられてしまう。
結局、ブロウンGPは、アップデートでBGP001の素性をさらによくした上、ライバルの自滅や失敗や不運によって、より楽な戦いができてしまった。とくにバトンは、途中バリチェロのペースダウンもあって、2回ストップへの作戦変更が大成功に変わった。
ただし、このバトンの強さは、バトンの持ち前のドライビングの巧さのおかげであることも忘れてはないらないだろう。バトンは、2000年のF1デビュー以来、ウィリアムズBMW、ベネトン→ルノー、BARホンダ→ホンダと、戦闘力や信頼性に乏しいマシンで苦戦することが多かった。そこで、バトンは苦労しながらもマシンの性能の最大限を引き出し、ゴールさせる技をより高めてきた。華やかな私生活が目立ちがちなバトンだが、レースでは苦労人だった。この苦労人の培ってきた経験と技が、BGP001という戦闘力の高いマシンを得たことで、勝利として開花したといえるだろう。
絶好調な上、運も味方につけているバトンを誰が止めることができるのか? これができないと、今シーズンは秋前にチャンピオンが決定してしまいかねない。次のモナコGPは、公道を閉鎖した超低速サーキット。速度が遅くダウンフォースの効きが弱い分、タイヤの性能を活かせるよいサスペンションとシャシーが重要となる。こうなるとまたブロウンGPが有利に見える。
これに対抗できるのは、アップデート版投入が期待されるレッドブルになるだろう。ただし、マシンの性能差は小さく、追い抜きが難しいコースなので、予選結果とスタート位置しだいでは、うまい戦略で他がトップをとることも可能。また、天候も急変しやすいので、これで展開が大きく動く可能性もある。第67回モナコGPは、予選からこれまで以上に激しい争いになるだろう。
バトンとブロウンGPの独走を止められるのは誰か |
■URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/
■バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/
2009年5月18日