オグたん式「F1の読み方」

動き出した2013年マシン、好調そうな上位勢

 2月に入ってスペインのヘレスとバルセロナでF1のテストがはじまり、2013年用マシンが走り始めた。レッドブル、フェラーリ、マクラーレンの昨年の上位勢は好調のようだ。

 レッドブルの新型マシンRB9は段付きのノーズで現れた。ただし、その段の付き方は昨年のような急な段差ではなく、やや緩い勾配となるように成型されている。昨年のRB8ではこの段差のところに前向きの開口部を設けて、段差のところから空気を取り入れて、コクピットに流していた。これで、段差によってノーズ上の気流を急激にはね上げて乱すことを避けたようだった。

 一方、今年のRB9は正面を向いた開口部はなく、ノーズコーンの後ろ端近くに、後ろ向きの開口部が開いている。ここから後ろ向きに気流をノーズ上面に沿って流すことで、ノーズの段差ではね上げられようとする気流をノーズ上面に戻そうとしているようだ。また、この気流はノーズ下面から取り入れていると思われる。ノーズ下面に沿って流れる気流のうち、やや乱れた気流を吸い込んで利用することで、ノーズ上下面の気流を改善できるという一石二鳥の効果が期待できるはず。このRB9が採用した手法は、昨年のザウバーC31がやっていたのと同様で、今年のザウバーC32でもこの方法を採用している。

レッドブルの新型マシンRB9は段付きのノーズで現れた

 RB9は、RB8をより洗練させた外観で、サイドポンツーンなどはより小型に絞り込まれている。これは今年のF1マシンの技術トレンドのようで、サイドポンツーンから車体後部のリアウイングやディフューザー上面への気流をよりよいものにして、ダウンフォースを稼ぐという考え方だ。

 エンジンも合法な範囲内での制御を行い、排気ガスを空力に利用する方法をとっているようだ。RB9はテスト日程を着実にこなしていて、好タイムも出している。

 フェラーリの新型マシンF138は、ノーズに「美的カバー」を装着した段なしを選択した。このノーズの違いに目がいきそうになるが、昨年からのもっとも大きな変化はリアまわりにある。サイドポンツーンの後端は、エンジンの排気口部分は横に大きく張り出していて、排気ガスを空力性能に利用する方法をとっているが、その排気口の下の部分はかなり絞り込まれた形となった。これでサイドポンツーン側面の気流をよりまっすぐ勢いのあるままでリアタイヤの内側のエリアに流そうとしている。

 そのリアタイヤの内側のエリアでは、フロアの上に数枚の小型フェンスを建てて、気流をより効果的な方向に流れるように制御している。さらに、リアタイヤの向きを固定するトーコントロールアームをより大型の翼型にして、その中をドライブシャフトが通るようにしている。こうすることで、ドライブシャフトによって気流が乱されることを避けられる。この方法は、エイドリアン・ニューウィーが1994年のウィリアムズFW16でやったのと同様だ。

 リアウイングの翼端板も、後ろの部分に縦型のスリットを設けて、気流を内面から外面に抜かせている。これで翼端板から後ろへ向かう気流をより整えて、リアウイングはもとより、その下のディフューザーを抜ける気流にも好影響を及ぼそうとしている。

 こうしてF138は車体後部の気流を上手くコントロールして、リアウイングやディフューザーの性能を向上させ、ダウンフォースの増大を狙っていることが分かる。

 昨年はテスト開始から絶望的な状況になったフェラーリだったが、F138はテスト開始からよいタイムを出している。ヘレスでのテストではアロンソが出ず、マッサらに任せていた。フェラーリには昨年HRTで走っていたペドロ・デ・ラ・ロサも加入。デ・ラ・ロサはマクラーレンでの開発ドライバー経験も長く、テクニカルディレクターのパット・フライとの意思疎通もきわめてよい関係にある。テストやシミュレーターでのマシン開発でフェラーリは大きな戦力補強ができている。

フェラーリの新型マシンF138はノーズに「美的カバー」を装着した段なしを選択

 マクラーレンは、大きく方向性を変えてきた。昨年のMP4-27は段付きノーズにしていなかった。そのために、モノコックシャシーのノーズ付近を低く設計していた。だが、これではモノコック断面とコクピット内部の最低寸法を満たすためには、ノーズ下の空間が狭くなる設計にせざるを得なかった。そこで、シーズン序盤はノーズ下の空力デバイスを大きく変更するなど苦労し、これがシーズン前半でのポイト獲得不足にもつながった。

 今年のMP4-28はほかと同様な高いノーズのモノコックとし、美的カバーを装着する方法をとってきた。これでノーズ下の空間もより広くできている。ノーズをただ高くするだけだと、その内部のサスペンション部品などの位置も高くなってしまい、重心高もあがってしまう。すると、機敏な動きをするのに不利になってしまう。そこで、MP4-28ではフェラーリと同様にフロントサスペンションにもプルロッド式を採用した。これで、フロントサスペンションの部品の中でも比較的重いスプリングをノーズの下側に設置でき、重心高を下げる効果を狙っている。

 サイドポンツーンはやはり絞り込まれた形状となっている。昨年のMP4-27では、サイドポンツーン前端付近の上面に小型フェンスを数枚建てたり、横の整流フェンスを“「”のような形にして上面までまわり込ませたりしていた。これで、サイドポンツーン上面の気流を制御して、後方へ上手く流そうとしていたことが伺えた。だが、MP4-28ではこうした部品がなくなっている。小さなフェンスや整流装置は僅かでも空気の抵抗も増えるはずなので、本来はない方がよりよいはず。サイドポンツーン自体の設計見直しでこれを達成しているのなら、大きな進歩と言える。進歩では、車体重量もkg単位での大幅な軽量化をMP4-28では達成していると言う。

 昨年のマクラーレンチームは、タイヤにやや厳しいハミルトンと、タイヤに優しいバトンという両極端なドライビングスタイルのドライバーで、マシンの開発で苦労しているようにも見えた。だが、今年はバトンとペレスとなり、昨年ほどドライビングスタイルの違いがなさそうなので、開発方向を収れんさせることもできそうだ。

 テストではトップタイムを出すなど好調だが、バトンは「とてもよいけど、ときどき分からなくなるときがある」として、MP4-28には未知の不安要素があることもほのめかしている。

今年のMP4-28はほかと同様な高いノーズのモノコックとし、美的カバーを装着する方法をとる

意欲的なチームたち

 一昨年の前方排気、昨年のダブルDRSとロータスは常に意欲的な開発しているが、今年のE21も意欲的だ。

 E21は基本的には昨年のE20の発展改良型で、やはりサイドポンツーンの下側を大きく絞り込み、サイドポンツーン後端と排気管の処理などもより積極的に排気ガスを利用しようとしていることが分かる。

 ノーズは段付きのままで、これは美的カバーを着けることによる重量増加と重心高が上がることを避けたと言う。軽量化による効果を徹底的に追及している姿勢が現れている。

 昨年後半にダブルDRSという装置を利用して、エンジンカウル側面から取り入れた気流をリアウイングのところに導くことで、DRSの効果(=ストレートスピード向上)を高めるようにしようとしていた。今年はこのDRSと連動させるシステムは禁止となったが、ロータスではレギュレーションに抵触しない方法でダブルDRSをさらに追及するとしている。詳細は不明だが、これは一定以上の車速=気流の速度と風圧になると作動するもので、ドライバーの操作によるものではなくすことで規制の網目をくぐるものにするようだ。

 昨年後半に大きく躍進してきたロータスは、今年トップ3チームの一角に入るか要注目の存在だ。

 昨年やはり独自のダブルDRSを装着したメルセデスAMGは、今年のW04をより一般的なF1マシンにしてきた。昨年は独自の空力を追求する一方で、「コアンダ効果型」と呼ばれる排気ガスをリアまわりの空力向上に利用するボディー形状の導入に大きく遅れてしまった。だが、W04はそれも採用してきている。

 W04は、まず最新のF1マシンの基本に立ち返った堅実な開発のように見える。それはチームの姿勢にも通じている。メルセデス・ベンツのモータースポーツ部長のノルベルト・ハウクが昨年で引退し、その後任にウィリアムズの役員であるトト・ウルフが就任するなど、チーム上層部の体制がやや揺れ動き、今もまだ少し変更・立て直しへの余波も見える。ハミルトンを迎えて、チームは新たな時代へと向かうための足場固めの年としているようだ。

ザウバーのC32

 ザウバーは昨年のC31でとても先進的なところを見せていた。エンジンの排気口をサイドポンツーン後端に置いてその排気ガスを利用するという方法はC31が先べんをつけ、他のチームが次々と応用。これがコアンダ効果型ボディーと排気口のはじまりとなった。また、ノーズ上面の開口部から気流を後ろ向きに流す方法は、先述のようにレッドブルが今年のRB9でも採用している。

 今年のC32もこのノーズ開口部を継続採用している。そして、サイドポンツーンのコンパクト化では、他よりも大きなステップを踏んだ開発をしてきている。ザウバーチームは、昨年夏に現在のC32を開発する段階で、すでにこのコンセプトを打ち出していたと言う。この小型サイドポンツーンの実現には、一昨年のモナコGPでのペレスのクラッシュの検証が大きく役立ったとチームは言う。

 あのクラッシュはマシン側面からガードレールに衝突した、サイドインパクト(側方衝突)だった。それを受けてザウバーチームは、サイドインパクトストラクチャーの構造を見直した。結果、より小型でも充分な安全性能を発揮できるサイドインパクトストラクチャーを実現でき、FIAによりクラッシュテストも合格しながらより小型のサイドポンツーンが実現できた。

 小さなサイドポンツーンは、内部の冷却装置の性能に不安が予想されるが、少なくともテストではこうした部分によるトラブルは起きていないとチームはコメントしている。今年もザウバーは空力でトレンドセッターになりそうで、その性能と成績はとても気になる存在になりそうだ。ドライバーはヒュルケンベルグとグティエレスという若い2人になり、そのセットアップ能力も問われるところ。

ザウバーのドライバーはヒュルケンベルグとグティエレスという若い2人になり、そのセットアップ能力が問われる

差を埋めてきそうなチームたち

 昨年後半、フォースインディアは成績を大幅に向上させ、最終戦ではヒュルケンベルグがトップも走った。今年のマシンVJM06も、昨年後半戦のマシンを進化・発展させたものになっている。この方向性は正しいようで、今季も期待できるはずなのだが、チームは目下オーナーとメインスポンサーの財政難がとり沙汰されている。これを受けるように、ディ・レスタのチームメイトとなるドライバーもまだ正式発表できないでいる。テストのタイムでもマシンのできがよさそうなところを見せているので、こうした財務問題が改善できればというところだろう。

 トロロッソは、昨年テクニカルディレクターを変更し、以前ザウバーにいたジェームズ・キーを採用した。キーは限られた予算の中で上手くマシンをまとめる力がある。今年のSTR8も前年のマシンのよいところを残しながらリファインした造りになっている。まるで1992年のフェラーリF92Aのダブルフロア(二重底)のようにサイドポンツーン下側を大きくえぐったボディーは、そのままSTR8でも採用している。チームは技術体制をより強化中で、ドライバーのリカルドとヴェルニュは若いながらも実力があるので、技術体制強化がうまくいけばマシンの信頼性とセットアップ力が上がり、成績も上がるはず。

フォースインディアはディ・レスタのチームメイトに誰を起用するか
トロロッソは技術体制強化がうまくいけばマシンの信頼性とセットアップ力が上がり、成績も上がるだろう

 ウィリアムズはヘレステストで旧型マシンを走らせ、1回目のバルセロナテストの前に新型マシンを発表した。これが全チーム最後の新車発表となった。昨年のFW34から発展したFW35は独自の小型ギヤボックスを活かしたリアまわりの設計としている。走り出しから好感触だとドライバーはコメントしている。ドライバーは速さのあるマルドナドに、速さとマシンセットアップ力でも長けたボッタスも加わり、よい体制になっている。

 ケーターハムは、「こんなはずではなかった」という低迷を昨年経験した。それを受けるように、テクニカルディレクターのマイク・ガスコインがチームを離れ、後任にはマーク・スミスとジョン・イリーが加入。2人とも上位チームでの経験が豊富で、今後のマシン開発に活かされるはず。新型マシンCT03はかなり平均的な現代のF1マシンという仕上がりだが、エンジンの排気口に排気ガスの向きをより効果的な向きに変える板を着けてきた。同様のものがウィリアムズFW35でも見られる。両者とも、その装置は固定式なのだが、いずれにせよ規定違反として開幕戦までには外されるはず。ケーターハムはピック、ファン・デア・ガルデとF1での実戦経験が少ないドライバーなのが不安材料。その成長にチームの期待がかかる。

 マルシャは大きな進歩を遂げてきた。今年は元ルノーチームのパット・シモンズがテクニカルディレクターに就任。MR02は昨年のマシンをもとに、より堅実な開発姿勢で造られた。また、KERSを初めて搭載し、これでKERS未搭載のときの加速時の不利も解消されるだろう。ドライバーには若手のマックス・チルトンとルイス・ラジアを迎えた。とくにチルトンは豊富な資金力もあり、これも今後への期待となる。半面、経験豊富なグロックの契約を解除し、F1での実戦経験がない2人で戦うのはリスクでもある。テストではケーターハムとタイム競争もしていて、この2チームの戦いと成長も今季の見どころの1つになりそうだ。

 テストは3月にもう1回バルセロナで行われ、その後は開幕戦となる。テストはチームごとにそれぞれの開発プログラムをこなしているため、タイムだけでは開幕戦での実力を伺い知ることはできない。だが、少なくとも昨年のフェラーリの大不振はなく、ケーターハムとマルシャの実力向上も伺えるので、今年のF1がより少ないタイム差での接戦になることが期待できそうだ。

鈴鹿ファン感謝デー

モータースポーツファン感謝デーでデモ走行を行う予定の「ティレル019」

 アメリカではデイトナ24時間やデイトナ500などモータースポーツシーズンの開幕を迎えるイベントも始まっている。日本では3月2日、3日に鈴鹿サーキットで「モータースポーツファン感謝デー」(http://www.suzukacircuit.jp/msfan_s/)が開催され、2日間わたって盛りだくさんのイベントとなる。

 F1のデモランでは、ウィリアムズFW11・ホンダに星野一義、マクラーレンMP4/5・ホンダに佐藤琢磨が乗るほか、アンヘドラル(コルセア)ウイングと呼ばれた特徴的なフロントウイングを装着したティレル019・フォードに中嶋悟が乗る。F1では1990年日本GPで鈴木亜久里が3位に入ったラルースLC90・ランボルギーニ、1990年のミナルディM192に加えて、ロータスのF1マシンが72E、78、88B、97T、101と5台も走行する。鈴鹿サーキットでのF1デモ走行としては過去最大規模のものになる。また、日産のR-90CK、シルビアグループC(マーチ83G)など、スポーツプロトタイプカーなど多数が走行する。シルビアグループCには当時と同様に星野一義が搭乗する。

 2輪も多数のマシンが出走予定で、エディ・ローソンも参加する予定だ。

 鈴鹿サーキットのホームページではこの2日間の無料入場券や遊園地のパスポート券の優待チケットもダウンロードできるようになっているので、気軽に子供連れで楽しむには絶好でおすすめのイベントになる。遊園地では新たなシューティングアトラクション「バットのパワークリスタルハント」も増えて、家族や友人ともチームワークでより楽しめるようになっている。

モータースポーツ表彰

モータースポーツファン感謝デーで行われるモータースポーツ顕彰では、小林可夢偉が表彰される

 鈴鹿のモータースポーツファン感謝デーでは、モータースポーツ顕彰の表彰式も行われる。鈴鹿サーキットは1987年からモータースポーツの発展、新興、ファン拡大につながる顕著な活躍、活動、功績を残した個人、団体を対象にモータースポーツ顕彰を贈り、大きな活躍が期待される個人を対象にライジングアワードを贈っている。

 今回の2012年度の表彰は次のとおり。

・2012年モータースポーツ顕彰:小林可夢偉
・2012年モータースポーツ特別顕彰:MOLA、トリックスターレーシング
・2012年モータースポーツ功労顕彰:フィオレンティーナ470クラブ
・2013年ライジングアワード・4輪:石川京侍
・2013年ライジングアワード・2輪:山田誓己

 中でも、モータースポーツ功労顕彰をフィオレンティーナ470クラブに授けることはとても意義があると思った。

 フィオレンティーナ470クラブは、F1日本GP際のヒストリックカーによるドライバーズパレードの実現しているクラブである。長年このクラブはこのパレードの陰の主役として活躍しているほか、鈴鹿サーキットでのスーパーカーやヒストリックカーの展示などでも積極的に協力し、クルマのよさ、楽しさ、歴史、魅力を、多くの人たち、とくに子供たちに伝えてきている。この様子は、昨年の連載(http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/20121026_568677.html)でも紹介させていただいた。

 いつもボランティアとして鈴鹿サーキットのみならず日本の自動車とモータースポーツの文化の発展と伝承に協力してきたクラブの多年の貢献を讃えることは、自動車の魅力をこれからも伝えて行く意味でも大きな意義のあることだ。

新たなスタートをきるスーパーフォーミュラ

 鈴鹿のモータースポーツファン感謝デーでは、今年からはじまるスーパーフォーミュラのエキジビジョンレース「ラウンド0」も開催される。

 スーパーフォーミュラは、昨年までフォーミュラ・ニッポンとして知られた国内最高峰レースをもとにしている。今年から名称を新たに、韓国で建設中のインジェ・インターナショナルサーキットで8月24日、25日に1戦を行う予定とし、国際化へと踏み出そうとしている。このインジェ戦ではキム・ドンウンという韓国人ドライバーの参戦も決まった。

 スーパーフォーミュラは、日本の最高格式シリーズの伝統を残しながら、アジアでのトップフォーミュラも目指すものとなる。今年は従来型のフォーミュラ・ニッポンマシンだが、来年からはシャシーもエンジンも一新される。そのテクノロジーもかなり先進的で魅力的なものになるという。

 そのエンジンについては、3月1日の自動車技術会のシンポジウム「モータースポーツ技術と文化」(http://www.jsae.or.jp/calendar/?month=2013-3)でのトヨタ、日産、ホンダの開発担当者によるパネルディスカッションで語られることになっている。

 次回は、このディスカッションで明らかされる新エンジンの技術にも触れつつ、F1を中心に本格的に開幕したモータースポーツに関する話題を扱えればと思っている。

小倉茂徳