【ベルギーGP&イタリアGP】

 ベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットは、低速、中速、高速のバラエティに富んだコーナーと、長いスロットル全開の高速区間があり、そこに標高差79mのアップダウンが加わる。そのため、鈴鹿サーキットと並んで、「世界最高のコース」「世界で最もチャレンジのし甲斐がある難コース」とも呼ばれ、多くのドライバーに愛されてきた。

アップダウンの大きなスパ・フランコルシャン
いつもと違う顔ぶれが活躍した

いつものスパとは違う予選結果に
 F1ではコースを3つの計時セクターに区切る。スパの第1セクターは、スタートラインからレコムの手前までの高速区となる。排気量2400ccのV型8気筒エンジンを搭載した現行F1マシンでは、第1コーナーのラ・スルス後の旧メインストレート、オー・ルージュ、急坂のレディヨン、ケメルストレート、レコムまではほぼスロットル全開のままの区間、エンジンには過大な負担がかかる。また、オー・ルージュで高速のまま左に向きを変えて、すぐにレディヨンの急坂を登る区間ではマシンの運動性能と、ドライバーの技と度胸が試される。

 第2セクターは、レコムから、リヴァージュ、プオン、ファーニュ、スタヴロまでの曲がりくねった下り区間。ここでは、ハンドリング性能と空力性能(とくにダウンフォース)が必要とされる。

 第3セクターは、スヴロー、ポール・フレール、ブランシモンのスロットル全開の高速区間が最終シケインまで続く。

 以前のF1では、やや高速性能重視ながらも、各種のコーナーと高速区間にもオールラウンドに対応したマシンが良いとされ、その年の強いマシンが有利とされてきた。ところが、今年のベルギーGPは、その「常識」が揺らいだ。

 それは土曜日朝のフリー走行P3から始まっていた。タイムシートのトップ10には、フォースインディア、BMWザウバー、ウィリアムズ、フェラーリ、トヨタなどが占めた。この流れは予選でも変わらず、ポールポジションにはフォースインディアのフィジケラ、2番手にトヨタのトゥルーリ、3番手にBMWザウバーのハイドフェルドがつけた。

 フォースインディアは地道なマシン改良の成果が出たのと、ダウンフォース発生量がやや少ない(空気抵抗の量もやや少ない)マシン特性が第1と第3セクターの高速区間でスピードを増してタイムを向上させていた。

 トヨタは、空力性能を活かして、第2セクターの山をかけ下るコーナー区間でタイムを向上させていた。BMWザウバーはマシンの改良の成果が出ていた。一方、マクラーレンは、第2セクターで苦戦していた。

 レッドブルは、高速セクターで負けても、コーナーの第2セクターでかなりタイムを縮めるポテンシャルを備えていた。実際、ベッテルの予選Q3タイムから燃料の重量によるタイムの遅れ分を引いてみると、マシンの純粋な速さでは2番手になれるものだった。だが、使えるエンジンの台数が少ないため、充分な走りこみができなかったのも影響したようだ。

 ブロウンGPは、バリチェロは4番手と好調だったが、バトンはマシンのバランスがうまく調整できず14番手に沈んだ。

スタートから大混乱
 今年のベルギーGPは、予選も決勝も良い天気に恵まれた。

 スタートで2番手のトゥルーリがやや出遅れた。バリチェロはさらに大きく出遅れてしまった。1コーナーで、トゥルーリはハイドフェルドと接触し、壊れたウイングの交換のために最後尾に落ちた。さらに1コーナーではスーティルがハーフスピンになり、アロンソの左フロントホイールのカバーを壊した。アロンソはこれが原因でホイールナットをうまく装着できなくなり、後にリタイヤした。

 ケメルストレートでは高速重視型のマシン、コーナー重視型マシン、KERS搭載車が入り乱れて、レコムの進入では2ワイド、3ワイドといった横並びの接戦が幾重にも重なっていた。これが、レコムでの混乱になった。

 ライコネンはややコースアウトするがからくもコースに復帰。だがその後方ではバトンとグロージャンが接触。その直後で行き場を失ったアルグエルスアリとハミルトンも接触。この4台はここでレースを終えた。

 シーズン序盤に稼いだ大量得点によるリードを後半徐々に吐き出していたバトンにとって、このリタイヤはとても大きなダメージになった。しかし、レッドブルのウェバーは後にピットアウトの際に危険なスタートによりドライブスルーペナルティを受けて後退、バトンの脅威はひとつ減った。

 バトンらのリタイヤを招いた事故処理のため、4周までセイフティカーが入った。レースが再開されると、KERSの加速性能を活かしてフェラーリのライコネンがフィジケラからトップを奪った。だが、今回のフィジケラはライコネンの後ろに食らいついた。この2人は14周目と31周目に同時にピットストップを行った。

円熟のフィジケラ vs アイスマン
 フィジケラは天才的なドライバーで、一瞬の速さがあるが、ミスをしたり、崩れたりしやすい。だが、この日のフィジケラは天才的な速さはそのままに、正確でミスのない走りを丹念に積み重ねていた。ラップタイムでは、フィジケラのフォースインディアがライコネンのフェラーリを上回ることもあった。

 年齢と経験を積んだことで、フィジケラは円熟した走りも見せていた。経験にモノを言わせて、ときにはライコネンの首を真綿で絞めるように、ときには激しく攻め立ててと、フィジケラは強弱をつけた巧みな揺さぶりもかけた。フォースインディアチームも、フェラーリに負けないピット作業をして、フィジケラの頑張りに応えた。

 ライコネンは防戦状態だった。だが、ライコネンはフィジケラの激しいプレッシャーに対して1度もひるまず、1度もミスを犯さなかった。状況に動じず冷徹なまでの強さは、まさに「アイスマン」の真骨頂だった。ライコネンはKERSの加速性能もうまくつかいながら最後までトップを守り抜いて見せた。守ったライコネンも、攻めたフィジケラも、ともにトップドライバーの最高の走りを披露していた。

 3位はベッテルだった。第1スティントを長めにとる作戦が予選とレース序盤で裏目に出てしまった。これが序盤にライコネンとフィジケラの先行を許した。第2スティントでベッテルとRB5本来の速さをとりもどしたが、その時点でもうトップ争いの2人には追いつけない大差になっていた。ベッテル3位キープの展開をせざるをえなかった。エンジンへの不安から消極的な展開をせざるをえない状況が、バトンとの点差を10点縮めるチャンスを逸してしまった。しかも、バトンにはリタイヤしたことで、スタートしてからわずか2300m走っただけのほぼ新品状態のエンジンが1基手元に残った。これは残りのエンジンの使用を楽にする。ベルギーGPはバトンにとって戦わずして少し楽な展開となるレースになった。

アイスマンとの戦いを制したフィジケラ

340km/h超! 唯一の超高速コースへ
 ベルギーGPから1週間の間をおいて、イタリアGPとなった。この間にフィジケラは、バドエルに代わって今季最終戦までマッサのフェラーリに乗ることが発表された。フォースインディアは、フィジケラのマシンにリザーヴドライバーのリウッツィを起用。イタリアGPは、バドエルにはつらいものになったが、フィジケラとリウッツィという2人の地元ドライバーには嬉しいものになった。

 モンツァサーキットは、現代のF1開催コースに唯一残る超高速コースで、現代の2400ccエンジンのF1でも、トップスピードは340km/hを超える。そのため「モンツァ仕様」という、空気抵抗を減らした専用のセットアップが使われる。例年では、1週間前にモンツァでこの超高速仕様のマシンの合同テストが行われていた。しかし、今年はテスト規制でこれもないまま、ぶっつけ本番で週末を迎えた。しかも、今年は大幅なレギュレーション変更で、去年までとはマシンが大きく異なっている。

 そのため、各チームとも初日のフリー走行から積極的に走らざるをえなかった。だが、このモンツァは1周のうち75%がエンジンを全開するという、エンジンにも負担が大きいコースでもある。年間8基までというエンジン使用規制のなかで、残りの手持ちエンジンとのやりくりも考えなければならない。

 フォースインディア、BMWザウバーはここでも好調だった。だが、BMWザウバーは予選で2台ともエンジントラブルが発生。原因はバルブ駆動用のギヤの品質不全だったことが後に判明している。これでハイドフェルドとクビサは、ベルギーGPの決勝で使ったエンジンを、イタリアGPの決勝でも使うことになった。エンジンの負担が大きいぶん、BMWザウバーは大きなハンディを追うことになった。

レッドブルに引導を渡す作戦
 ポールポジションは、マクラーレンのハミルトンだった。ハミルトンは予選後の車両重量が653.5㎏と、最軽量なマシンにしたことが功を奏していた。マクラーレンMP4-24はKERSの加速性能もあって速かった。とくに、ストレートの速さを稼ぐことでタイムをあげていた。だが、ダウンフォースによる安定が必要となる中・高コーナーであるレズモではやや厳しいものになっていた。これをハミルトンと予選4番手のコバライネンは、限界ギリギリのところで乗りこなしていた。

 予選2番手はスーティルで、ここでもフォースインディアVJM02の高速性能の良さを示していた。

 3番手はライコネンだったが、新加入となったフィジケラは慣れないマシンに手を焼き14番手だった。現代のF1はステアリングホイール上に多数の調整スイッチがあり、デフだけでもコーナーの入口と出口でそれぞれの効き方を調節できるようになっている。しかも、ドライバーはヘルメットのチンガード(口と顎の保護部分)が死角になって、こうしたスイッチ類の大半が見えない。「慣れ」がないと、マシンを使いこなせないのだが、フィジケラはテスト規制で事前の走行がないまま、週末を迎えていたのだった。

 チャンピオンを争うレッドブル勢は、ベッテル9番手、ウェバー10番手だったが、フリー走行ではもっと不振だった。一方、ブロウンGP勢は、バリチェロが5番手、バトンが6番手につけた。予選後の車両重量は、バリチェロが688.5kg、バトンが687㎏と、1回ピットストップを採った、燃料重量が重めのグループだった。

 ここから燃料重量による影響をさし引いたタイムを計算してみると、バリチェロがトップで、バトンが3番手となった。他方、ベッテルは8番手でウェバーは10番手のままだった。この時点で、ブロウンGP勢の戦略は、対レッドブルという消極的なものではなく、トップをとることでレッドブルに引導を渡すものだということが容易に想像できた。

明暗分けたレッドブルとブロウンGP
 決勝は、2回ストップ作戦のハミルトンがトップで逃げた。それをやはり2回ストップのライコネンとスーティルが追う展開となった。だが、この後ろには1回ストップのバリチェロとバトンがしっかりとつけていた。一方、ウェバーはオープニングラップでクビサと接触し、今季初のリタイヤ。チャンピオン争いは絶望的になった。ベッテルはブロウンGP勢と同じ1回ストップだったが、RB5の良さを活かせず、かえってタイヤの性能を引き出せなくなってしまった。結果は8位。ベッテルの王座争いも厳しいものになってしまった。

 ブロウンGP勢は、幸運も重なった。スタートでKERSを搭載したコバライネンとアロンソが出遅れたことで、先行する2回ストップ勢との間に壁となる存在がいなくなっていた。さらに、先行する2回ストップ勢のペースが大きく伸びなかった。とくに、ハミルトンは7周目までペースをあげたが、その後はタイムが伸びなかった。ダウンフォースを減らしたこ ともあってリヤが滑りやすくなり、リヤタイヤへの負担が増してしまったようだ。

 2回ストップ勢は、1回ストップ勢よりもピットレーンを1回多く通過するため、そのぶんの時間である20秒程のリードが欲しかった。だが、ハミルトン、ライコネン、スーティルの2回ストップの3人は、ブロウンGP勢にこのリードが築けなかった。結果、2回ストップ勢がピットから出た時、バリチェロとバトンによるブロウンGP勢の1-2体制になっていた。

 バトンは、メインとなるミディアムタイヤを予選までに多用してしまったため、決勝の前半は重い燃料を抱えながら、柔らかい方のソフトタイヤをいたわって走らなければならなかった。これが、ミディアムタイヤでスタートしたバリチェロとの挽回できない差になってしまった。

 終盤3位に転落したハミルトンは、バトンを猛然と追いつめた。だが、残り2周でクラッシュしてしまった。場所はレズモの第1カーブ。モンツァ仕様のMP4-24の不得意な区間だった。クラッシュに終わったとはいえ、ハミルトンは果敢にマシンの性能を引き出そうとして、限界ギリギリまで攻めていた。

ブロウンGP優勢でふたたびフライ・アウェイへ
 ブロウンGPは、戦略どおりのレース展開と結果を手に入れた。これで、レッドブル勢に対して「チェックメイト(王手)」を宣言する寸前にまでこぎつけた。ドライバーズチャンピオン争いは、バトン対バリチェロの同門対決の様相が濃厚となり、バトンは圧倒的な優位に立てた。

 中・高速コースと言われたベルギーGPでは、高速型のマシンが活躍し、超高速コースのモンツァではオールタウンダー型のBGP001が復活勝利という、興味深い結果が続いた。

 F1は今年のヨーロッパラウンドを終了し、ふたたび飛行機で移動するフライ・アウェイの4戦に入る。その始まりはシンガポールGPのナイトレース。モナコに次ぐ低速の市街地コースは独特なセットアップを必要とし、通常のサーキットとは異なる展開や勢力図になるかもしれない。壁に囲まれたコースは思わぬリタイヤやセイフティカーの導入もあるかもしれない。昨年は問題にならなかったが、スコールの不安もある。

 ブロウンGP勢は完走してポイントを稼ぎたい一方で、レッドブル勢は優勝とブロウンGP勢の無得点を願いたいところだろう。そして、シンガポールが終われば、F1は翌週の日本GPへと移動することになる。

URL
FIA(英文)
http://www.fia.com/
The Official Formula 1 Website(F1公式サイト、英文)
http://www.formula1.com/

バックナンバー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/series/f1_ogutan/

(Text:小倉茂徳)
2009年 9月 25日