【連載】橋本洋平の「GAZOO Racing 86/BRZ Race」奮闘記

第16回:“佐々木セット”で初の表彰台! 俄然やる気が沸いた第3戦富士

影のスペシャリストに教えを乞う

第3戦富士には家族が応援に駆け付けてくれた。家族パワーもあって初の表彰台獲得となりました

 いきなりだが、苦節17戦目でようやく表彰台の一角に滑り込むことに成功した。プロドライバーからのプレッシャーで2位走行中にハーフスピンをして4位に転落した初年度の菅生。入賞圏内を走っていながらガス欠した鈴鹿などなど、惜しいことは多々ありましたが、これまで表彰台に立ったことがなかったワタクシ。だからこそ、今回のレース結果はかなり嬉しい。ひとまず、ご支援いただいた皆様、そして読者の皆様、本当にありがとうございました!

 好成績が得られた理由はハッキリしている。それは、下準備をとことんやってみたからだ。今シーズン参戦しているクラブマンクラスは、一般的なストリートラジアルタイヤを使って競われるクラスで、そのためのセッティング変更をこれまでせずに参戦していた。昨年までのいわゆる“86レース専用タイヤ”とは異なり、ストリートラジアルタイヤ(ブリヂストン「POTENZA RE-71R」)に合わせたセッティング、そして乗り方などをきちんと研究する必要があることは、これまでの2戦を消化してみて理解していた。

 そこで、真っ先に手を付けたのがブレーキである。以前からサポートをしていただいているエンドレスに相談し、昨年までのブレーキパッドとは異なるものをリクエストしてみることに。すると「新しいブレーキパッドがあるから使ってみて」とのこと。装着してみれば、これまではフル制動をした状態でかなりフロント側が効き過ぎている感覚があったが、それが前後に上手くバランスしていることに気づく。そして、これまでケチって使わずにいたステンメッシュホースも投入。細かなコントロールができるようになり、これまた好フィーリング! これならイケそうだと新たなブレーキパッドとブレーキホースで参戦することに決めた。

レースの1週間前に、「86S箱根同窓会」というイベントにお呼ばれして行ってきました。そこにいた参加者の中には、レース当日応援しにきていただいた人も。ありがたや
ブレーキパッドを新調するとともに、これまでケチって使わずにいたステンメッシュホースも投入

 さらに、プロドライバーのレッスンも受けてみることにした。教えていただいたのはSUPER GTにも参戦経験があり、スーパー耐久などでもチャンピオン経験のある佐々木雅弘選手だ。佐々木選手はこれまで86レースに参戦するドライバーのレッスンを数多く行い、多くのドライバーを上達させてきたレッスンプロ。実は、クラブマンクラスで優勝経験のある遠藤浩二選手のレッスンを行っていた実績もある。いわば86レースの影のスペシャリストといっていい人物だ。

86レースの影のスペシャリストである佐々木雅弘選手にレッスンしていただいた。佐々木選手は今回から34号車でプロクラスに参戦しています

 そんな佐々木選手に僕のクルマを乗ってもらうと……。「よくこんなクルマで走っていたね!」という手厳しいお言葉が。車高もプリロードもアライメントもダメダメ。イチからやり直そうとなったのだ。自分じゃイケてると思っていたんですがねぇ。さらに「トルセンLSDもかなりヘタっていて、トラクションがまるでかからないよ」とのコメントが出てきたのだ。そこからは突貫工事、“佐々木セット”の完成である。

佐々木選手とワタクシのドライビングをデータロガーで比較してみたところ、乗り方でもダメ出しをいただくことに……
トルセンLSDのヘタりについてもご指摘いただいたので、突貫工事で交換。今季2セット目のデフはヤフオクで購入いたしました(笑)

 すると、今度はドライビングを比べてみようとなり、佐々木選手が乗った直後に僕が乗り、それをデータロガーで比べてみるというメニューが始まった。実際に“佐々木セット”のクルマを走らせてみると、自分のクルマとは思えないほどよく曲がる。ハッキリ言って、かなりオーバーステアが強いマシンだと感じた。ここまでやらなきゃダメなの??? けれども、それが慣れてくると乗りやすく感じるから面白い。無理をして一生懸命曲げていた感覚はまるでなくなり、クルマがスイスイ向きを変えてくれる。

 ただ、話はクルマだけの問題ではない。乗り方もまた、かなりダメ出しをされた。データロガーを使って佐々木選手と僕のを比べてみると、どのコーナーのボトムスピードも、僕のほうが5-10km/hほど速く、おかげで立ち上がり時にアクセルが全開にできていないことが判明したのである。結果的に次のコーナー進入時の終速はいずれも佐々木選手のほうが上。1周走ってみると、0.4秒ほど佐々木選手の方が速い。

「言い方は酷だけど、これがプロとアマの違いなんですよ。アマチュアドライバーはついついコーナーを攻めすぎちゃう人が多い。そうじゃなく、少しでも早くアクセルを全開にできるように走らなきゃ!」と佐々木選手。佐々木選手の車載ビデオを見ると、これでもかと言うほど速度を落とし、一瞬で向きを変えてアクセル全開になっていることが理解できる。そして何より、タイヤのスキール音が少なく、一瞬しかタイヤが鳴いていないのだ。

 僕の場合はコーナーでタイヤが鳴いている時間が長く、向きを変えられずにアクセルを探るかのように踏んでいる。パチッとすぐに全開にする佐々木選手とはまるで違う感じだ。結果としてタイヤの負担が多く、ロングディスタンスではタイヤが早くタレてしまい、ラップダウンも大きい。いくら丁寧にドライビングをしていても、タイヤが偏摩耗してしまうのは、コーナーでシッカリと速度を落としきれていないことが原因のようだ。

 こんなことが見えてきた後は練習するのみ。佐々木選手の走りに近づけるように、ブレーキングで突っ込み過ぎずに走るように心がけた。すると、オーバーステアすぎると感じていたクルマに難しさを感じることがなくなってきた。コレならイケそうだ。

決勝レースは1コーナーでトラブル発生

予選トップタイムとの差はわずか0.025秒。メタボ化しているワタクシが減量すればトップも夢じゃなかった!?

 やる気満々の予選は、最前列にクルマをつけてアタック!……が、しかし、気合いを入れ過ぎたのか、タイヤが温まっていない状態でハーフスピン。迷惑なので後続に道を譲り、その後ろで再び予選アタックを行った。すると、何とか2番手のタイムを叩き出すことに成功。色々セッティングを変えて2番手ならまずまずか、なんてピットに戻ってきた。結果を見れば、予選トップタイムを叩き出したのは、佐々木選手の一番弟子である遠藤選手。その差はなんと0.025秒差だというから実にくやしい! ちなみに言い訳を探してみると(笑)、遠藤選手の体重は60kg。最近メタボが進んできた僕は75kg……。勝手に持ったウエイトハンデ15kgがなければポールポジションも夢じゃなかったことだけはお伝えしておきたい。こりゃ、そろそろ「RIZAP(ライザップ)」か?

 2番手タイムを叩き出したが、決勝グリッドは何故か3番手。台数が多くエントリーしているクラブマンクラスは、予選が2組に分けられ、互いの1位のタイムを比べ、速いほうが奇数列、遅いほうが偶数列となる。なお、偶数列のトップは、僕よりも遅い。この事実が決勝レースで波乱を巻き起こすことになる……。

スタート直後の1コーナーでの様子。3番手で進入するも、4番手まで順位を落とすことになってしまった

 それはスタート直後の1コーナーで起きた。3番手で進入した僕は、前が詰まり行き場を失い、ボトムスピードをかなり落とすことを強いられたのだ。すると、真後ろからコツン、続いて右ドアからバコーン! と当てられて、カウンターステアを1回転も当てる必要に迫られるほどクルマは真横を向くことに。結果として失速してしまい、4番手まで順位を落とすことに。そこから頭に血が上ったオッサンは、息をハアハア言わせながら正気を失って運転がチグハグに。ネッツコーナー進入時にブレーキをダフっておくことを忘れ(縁石に乗るとローターが振動してブレーキのピストンを押し戻してしまうため、ピストンを出すためにチョンチョンとブレーキを左足で何回か軽く踏んでおく必要がある)、ブレーキが抜けてオーバーラン。5位まで転落してしまった。

 だが、そこで諦めることはしなかった。何としてもポジションを回復するため、冷静にガンガン前を攻め立てた。気分は例え負けそうでも最後まで諦めなかったテニスの錦織圭である。ま、実際はメタボなオッサンがヘルメットの中で顔を真っ赤にし、そしてハアハア言いながら眼鏡を曇らせるという無様な姿だったと思いますが(笑)。おかげでぶつかった相手にはリベンジ! もちろん、ぶつけ返したわけじゃなく、クリーンにシッカリと抜かさせていただいた。さらに、予選2番手グリッドだったクルマも終盤に抜くことができ、何とか3位でチェッカーを受けることができた。

 優勝したわけじゃない。そして、プロフェッショナルクラスでプロドライバーと戦ったわけでもない。けれども、やるだけやってようやく掴んだクラブマンクラスの3位表彰台だって、景色はなかなかのもの。もっと上へ、そしていつしか優勝を! やる気が沸いてきた第3戦の富士スピードウェイだった。

みごと3位でフィニッシュ! これは嬉しい
上位3名で記念撮影
初の表彰台だったけれど、もっと上の順位を目指す決意をした1日だったのでした

Photo:高橋 学

橋本洋平

学生時代は機械工学を専攻する一方、サーキットにおいてフォーミュラカーでドライビングテクニックの修業に励む。その後は自動車雑誌の編集部に就職し、2003年にフリーランスとして独立。走りのクルマからエコカー、そしてチューニングカーやタイヤまでを幅広くインプレッションしている。レースは速さを争うものからエコラン大会まで好成績を収める。また、ドライビングレッスンのインストラクターなども行っている。現在の愛車は18年落ちの日産R32スカイラインGT-R Vスペックとトヨタ86 Racing。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。