連載

三宅健のクルマで音楽! クルマでiPhone!

第1回:市販AVナビで構築する最良の音楽空間

ミュージックデバイスの主役となったiPhoneとiPod。この連載では主にiPhoneと市販AVナビを使ってクルマの中の音楽環境構築を扱っていく。写真はiPhone 5sとケンウッドの「彩速ナビ MDV-Z701」との組み合わせ例

 クルマで聞く音楽の素晴らしさは多くの人に共感してもらえるだろう。ウインドスクリーンの風景と音楽がマッチした瞬間の至福の時間。ひたすら思いに浸ることもできるし、誰にも気兼ねすることなく熱唱することもできる。大声で泣くことだってできる。渋滞や長距離運転でささくれ立った心を癒やしてくれる瞬間もある。

 カーオーディオはかつては「カーコンポ」と呼ばれ大変な贅沢品だった。しかし先達たちの果てしない情熱と努力の結果カーオーディオ市場という一大マーケットが開拓され、今ではクルマの中が音楽で満たされるのは当たり前となった。この連載では時代に即したクルマでの音楽の楽しみ方を模索していきたいと思う。

 長年この業界で仕事をしていると、メカに詳しくない一般の方々からクルマのオーディオについての質問を受ける機会が多い。その中でも特に多いのがiPhoneについての質問だ。最近のカーナビ、カーオーディオは標準でiPhoneに対応しているのでケーブルやBluetoothで接続すればカンタンに音は出るのだが、実際のところはiPhoneとクルマのオーディオはまったく別々のシステムなので両者を組み合わせて「よい音」で聞くには意外に落とし穴があり、すんなりいかないことも多い。悩みはつきないのである。

 たとえばカー用品の大型量販店へ行くと実に多種多様のiPhone対応 「FMトランスミッター」が販売されている。手軽で便利でお使いの方も多いと思うが、これでいいのかなあ、と疑問をお持ち方は多い。Bluetoothは便利だけれど音質的に大丈夫なのだろうか。それではケーブル接続ならば問題ないかというと同じ曲を音楽CDと聞き比べてみるとどうも音がいま一つよくない。おかしいなあ。何がわるいのだろうか。やっぱりApple Losslessで全部取り直さないとダメなのだろうか、それともナビを買い換えないとダメなのだろうか。真剣に悩んでいる方に何人もお会いした。

 実際のところカーオーディオとiPhoneについてのまとまった解説というのは今まで意外に見かけることが少なかった。そこでこの連載ではクルマでiPhoneをよい音で楽しむ方法をさまざまな角度から切り込んでいきたい。基本やセオリーには忠実に、しかしCar Watch流の独自の切り口で「クルマでiPhone」を研究していこうと思う。iPodもiPhoneと同様の仕組みを持つため、iPodのみを使用されている方は適宜読み替えてもらえばと思う。

カー用音楽プレーヤーとしてのiPhone

 クルマの中の音楽ソースとしては現在でも音楽CDが主流であることは疑いない。カーナビのハードディスクやフラッシュメモリに音楽CDを録音して聞いている人も多いことだろう。一方でiPhoneは急速な勢いでポピュラーな音楽ソースとして躍り出た。クルマ以外の移動中にも音楽を聞きたい、より多くの楽曲を手元に置いておきたい、ストアで購入した配信楽曲を聴きたいというニーズに応えられるのがiPhoneの魅力だ。

 同じスマートフォンという切り口で見るとAndroid携帯の普及率も高いが、音楽プレーヤーとして活用されている割合はiPhoneの方が圧倒的に高いのではないだろうか。これはiPodという大ベストセラー音楽プレーヤーを先祖に持つ生まれ育ちの違いが大きいと思うが、何よりもiPhoneは「iTunes」という優れたソフトウェアとセットになっていて、CDからの音楽の転送や楽曲の管理が分かりやすくチャレンジしやすい点が違うのだろう。

 このようにiPhone成功はその前のiPodの成功が前提となっているが、iPodは登場当初からオーディオ装置としての完成度がひじょうに高かった。当然のことではあるがノイズやポップ音などがまったく出ずオーディオ的なS/N比が非常に優秀。動作もスムースで軽快。このようにオーディオ機器としての基本性能が高い上にプラスアルファとしてさわっているだけで心躍る感覚、高級オーディオ装置のような質感、操作感。これは他の音楽プレーヤーではまねできない領域で、ほかの機器を押しのけてあっとうまに主役に躍り出た秘密であろう。

クルマの中で音楽を聞くということ

 音楽CD(CD-DAフォーマットで記録されたCompact Disc)が登場したのは1982年のことだ。歴史をひもとくと、音楽CDは誕生の時からクルマの中での使用を強く意識していた。直径12cmというディスクのサイズは横幅18cmのDINサイズ・カーラジオの設置場所に収めることを意識していたと言われている。ディスクの素材であるポリカーボネートは炎天下の車内でも耐えうる110℃までの耐熱性を持っている。真夏のクルマの中ではプラスチックの外ケースが先に変形して危険を知らせ、ディスク自体が熱で反り返ることはまずない。

 とはいえ発売当初のカーCDプレーヤーの振動による音飛びはかなり深刻な問題で、クルマの中のホコリや手で触れた指紋による読み取り不良も大問題であった。しかし音楽CDが本来持つ強力なエラー訂正技術と、その後のサーボ技術の進歩により数年で克服されるようになった。

 音楽CDに記録できる最大録音時間は約74分。昔のカセットやLPレコードのように途中でひっくり返す必要もなくクルマの中で素晴らしい音楽を長時間聞くことが実現でき、当時の人々はたいへん喜んだ。しかしもっと快適に、という人間の欲望はキリがなくやがて複数の音楽CDをマガジンに装着してカンタンにディスクの入れ替えのできるマルチCDプレーヤーが登場。6連奏、10連奏、12連奏など各社からさまざまなタイプのものが発売され、比較的最近までよく使われていた。

 そこに颯爽と登場したのがカーナビの音楽CD録音機能だ。2000年にパイオニアが業界で始めて本格的なハードディスクナビを発売した際に「ミュージックサーバー」として世に出た。これはiPodの登場よりも前のことだ。iPodは翌2001年に登場しているが当時はあまり注目されず、本格的に売れるようになるのは2004年ころからだ。

 カーナビの音楽CD録音機能は画期的なものであった。当時はまだ音楽CDの音楽をデジタルデータとしてPCに取り込む「リッピング」は、多くの人にはハードルが高く一般的ではなかった。しかしクルマの中で特別な操作をしなくとてもカーナビで音楽を聞きながらリッピングができてしまう。当時最先端、羨望の機能だったのである。大変手軽で便利なので今でも愛用者は多い。かつてのCDチェンジャーに代わるものとして広く親しまれている。

最近の市販AVナビは内蔵のフラッシュメモリや後から購入したSDメモリーカードに音楽を録音できるものも多い。音楽を聞いているだけで何も考えられずに録音できるので便利だが、録音したナビ以外で再生する手段がないことは意識しておいたほうがよい

 最近のカーナビはHDDからフラッシュメモリへの移行が進んでいる。メモリーナビではSDカードスロットを搭載して自分で購入したSDメモリーに記録するタイプが多い。このタイプはカードを入れ替えることで容量を増やすことも可能で便利だ。

 このように優れた機能を持つ音楽CD録音機能ではあるが、一度カーナビで録音した音楽は外に取り出すことができないので注意が必要だ。これは著作権の保護を厳格にしているためで、クルマの中で録音したデータを家やPCで聞いたり、買い換えた次のナビに移すことはできない。ハードディスクタイプはもちろんのこと、SDカードに記録する場合でもDRM(著作権保護)処理が施される。録音したカーナビ以外ではそのカードの音楽を再生したり、PCで中身をコピーすることはできない。このようにミュージックサーバーは使い勝手は優れているもののカーナビと音楽が1対1に強く結びついていることを意識しておく必要がある。

 これに対してクルマの外でも聞きたい、音楽CDをまとめて自分のライブラリを構築したい、音楽を手元に置いておきたい、というニーズに応えるのがiPhoneだ。ミュージックサーバーとiPhoneを上手に使い分けていくのがカーライフのスマートな楽しみ方だ。

カーナビとiPhoneの連動

 最近はレンタカーやカーシェアリングのクルマにもたいていUSB端子とステレオミニジャックの外部入力端子が備わっていて、iPhone用のUSBケーブルを持っていればそれを接続するだけでカーナビでカンタンに音楽を聞くことができる。

 ここ数年に発売されたカーナビはたいていこのようにUSB接続が可能で、iPhoneを接続するとソースとして認識される。ラジオ、CD、TVなどと並んであるiPod のアイコンやボタンを押すと再生ができるようになる。このようにUSBケーブルで直接接続する方法は音声はデジタルで接続されるので原理的には音質はベストで、カーナビ側からアルバムやアーティスト名でカンタンに選曲が可能となる。

 これがAndroidだと少し状況が異なり、USBメモリソースとして認識され音楽を聞くことができるもののフォルダや楽曲がアルファベットやコピーした日付順に並び、音楽ジャンルやアーティスト名から選曲することができない。あたかもパソコンでファイルを探す感覚と同じで、音楽を自在に操る、という観点からはストレスが多い。カーナビがファイルを直接再生するので音質的には良好であるが、カーナビが対応していないファイル形式で録音した場合は再生はできない。AndroidではiPhoneと異なり試行錯誤する必要があるのだ。

iPhoneであろうがiPadであろうが音楽プレーヤーとして使う場合はソースはiPodだ。対応ナビに接続するとiPodメニューが点灯して使用できるようになる。ナビの画面にiPodの選曲メニューが出て、ジャンルやアーティストなどから自在に音楽を選ぶことができる
Android携帯やソニーのウォークマンはUSBマスストレージメモリとして認識される。楽曲のタグ情報による選曲はできないので不便だが、割り切ってシャッフルで聞く、という使い方はあるだろう

 さて、iPhone 5以降で採用されたLightning端子を持つiPhoneであれば、専用のLightning-USBケーブルでUSB端子に差す場合は必ずデジタルで処理される。しかし以前の30ピンDockで接続する場合、特にカーナビが少し古い場合や、専用iPodケーブルが必要な時は音楽信号がアナログで接続される場合がある。アナログがダメということはないができればデジタル接続を選びたいところだ。ここで少し困るのはカタログや取扱説明書を見ただけではアナログ接続なのかデジタル接続なのか分からない点だ。取付説明図の配線から読み取るか、メーカーに直接聞かなくてはならない。これから新たにカーナビを購入する際には注意が必要なポイントだ。

 次回はiPhoneによい音質で音楽を記録するところからスタートする。何事も最初が肝心。どんなによいカーナビでも記録されている音以上によい音で再生することはできない。ふだんあまり意識することのないリッピング用の音楽CDプレーヤーの話やiTunesなどのソフトを通じたリッピング技法を研究する。音楽CDに記録されているデジタルデータを完璧に、ビットパーフェクトにiPhoneに取り込んでいくところから始めていきたい。

【お詫びと訂正】記事初出時、Lightning端子の採用がiPhone 4からとなっていましたが、正しくはiPhone 5からでした。お詫びして訂正させていただきます。

三宅 健