特別企画
【特別企画】エンジニアが手がける“価値と安全性が変わらない”最新のボディー修理とは
ヤナセオートシステムズが作り出すネットワークがボディー修理の常識を変える
(2014/12/22 00:00)
ハイブリッド技術や自動ブレーキなど、最近のクルマにはさまざまな最新技術が使われている。そういった面を見て「クルマは以前とは大きく違うものになった」という認識を持つ人も増えてきた。しかし、そういった新しいテクノロジーに気がつく人でも、あまり意識することがないのはボディーの進化についてである。
現代のクルマのボディーは衝突時の乗員保護を重視しているので、衝撃を受けたときにボディーがどのように変形して力を吸収していくか計算して設計されている。そのため、外板やフレームの形状、素材、それらの結合方法まで綿密に作り込まれているのだ。また、ボディーには各種センサーが設置されるようになっており、それらが正常に動作できるよう取り付け環境も考慮されている。つまり、今のクルマのボディーはエンジンやトランスミッションなどと同様に「精密に設計して作られた、機械的な構造物」と表現してもよいものなのだ。
そんな構造になった最新のボディーに対して、1つ疑問に思うことがある。クルマをぶつけてしまったり、事故にあった場合などは修理をすることになるが、その修理によって外観の形状は元に戻ったとしても、衝突安全性能などは修復前と同じ性能に戻るのだろうか?ということである。修復後も同じクルマに乗り続ければ、また不慮の事故に巻き込まれる可能性はゼロではない。そのときに、衝突安全性能が「以前と同様に機能する」ということでなければ修理する意味がなくなってしまう。また、ニューモデルの価値として安全性に関しても大きくアピールする部分なので、それが失われてしまうようでは、そのクルマの価値が大きく下落することになる。そのあたりはどうなっているのだろうか。
その点について、自動車メーカーも自社モデルの修理に対して綿密な研究と調査を行ってきている。事故によるダメージに対する修復度合いや直す部分ごとに、「こうやって作業するように」という修理法や必要機材を明記した「修理指示データ」を認定工場に対して公開しているのだ。それだけに、その情報にアクセスすることが可能で、なおかつボディーに使われる最新の知識を持ち、それを正確に適用させるための機材を保有することが現代のボディー修理業者に求められる時代になっている。
そこで、ここで紹介するのが「ヤナセオートシステムズ」である。社名にヤナセと付くことから、輸入車を販売しているヤナセのサービス工場だと思ってしまいそうなところだが、それは正確ではない。このヤナセオートシステムズはヤナセのグループ会社には違いないが、メルセデス・ベンツやBMW、アウディなどのボディー修理を行ってきた経験を生かし、先進的な構造を持つニューモデルのボディー修理に対応できるだけの最新設備とノウハウを持つボディー修理工場だ。また、ここでは輸入車用のパーツやアクセサリー類の販売のほか、輸入車用のATや電装品などのリサイクル事業も行っている会社なのである。
現在、ヤナセオートシステムズの内製工場は国内に9個所あるが、今回はそのなかから神奈川県 都筑区にある「BPセンター横浜」で、最新のボディー修理の現場を見学させてもらったので、そのいくつかを紹介しよう。
まず最初に見せてもらったのが完成検査ラインにあったアライメント測定用リフトだが、ここでは走行用にタイヤのアライメントを正すだけではなく、自動ブレーキ用カメラの位置調整も行っていた。これがどういうことか説明すると、自動ブレーキ用カメラは「カメラが正確に正面を向いている」ことが前提で機能している。しかし、修理時にカメラを交換したり、付け直したりした場合、それが正確な向きに取り付けられているかは目視では判別できない。こうしたカメラやセンサーは数10m先をターゲットにしているだけに、カメラの取り付け角度が数㎝ずれると数10m先に対して大きな誤差になってしまう。それでは規定どおりの性能が発揮できないだけでなく、状況によっては誤作動の原因になる可能性も出てしまう。それだけに、自動ブレーキ用カメラの位置調整が行えるテスターや測定用のコンピュータソフトが必要となり、このBPセンター横浜でもきちんと装備している。
続いて工場内を案内されたが、ここでは大きなダメージの修理を行うスペースが印象的だった。入庫している車両の台数が多いことがお分かりいただけると思うが、これは損傷の大きなクルマが多いというより、この一帯ではBPセンター横浜でなければ大がかりな修復が行えないため、ダメージの大きい車両がここに集まっているのだ。
ここでちょっと現場の話題から離れるが、ヤナセオートシステムズには実際に修理を行うBPセンターのほかに「コントロールセンター」という部署がある。ここはパーツの発注や修理を依頼するディーラーや保険会社との窓口になるところだが、このコントロールセンターが持つシステムには、BPセンター横浜など9個所の内製工場はもちろん、全国に約230個所ある提携工場の保有機材などといった作業レベルに関するデータを網羅している。これにより、入ってきた修理依頼の内容に合わせて最適な修理工場を自動的に選択する機能を備えているとのこと。
また、自動車メーカーからの技術資料もメーカーとオンラインでやり取りしているので、事故車を撮影した画像や修理工場からの見積もりなどに加え、目視では分からないような構造上必要な修理ポイントについてもメーカー提供の最新資料を使って的確に読み取ることができるという。このように、修理依頼を受け付けるコントロールセンターが修理内容を的確に把握する能力を持っているため、機材と人材が揃っているこのBPセンター横浜に大ダメージの修理車両が集まっているのだ。
ちなみに、作業の進捗具合などの情報も担当工場からシステム上にアップされる体制になっているので、それぞれの修理に関わる担当者全員が同じ最新情報を共有でき、担当者間でスムーズに連携できるようになっているとのこと。これは「修理を担当した工場による当たり外れ」をなくすシステムとも言えるので、依頼するユーザー側にも大きなメリットがあるだろう。
さて、話題を現場に戻そう。前出のように最新のクルマはボディーもメカニズムと言えるので、以前のような修理方法が通用しないケースも出てくる。例えばボディーを切断して交換するレベルの作業を行う場合、新しいクルマでは「切断していい場所」というのがメーカーから指定されており、資料として用意されている。これこそ修理後にボディーの性能を復元するためのポイントであり、とくにボディーの骨格といえるフレーム部分では、決められているとおりの作業が求められる。
また、外板についても注意点がある。損傷の大きい重修理の場合は外板の交換も行うのだが、新しい外板をボディーにつなぎ合わせる際、つなぐ個所によって溶接の種類が異なっていて、それも修理マニュアルに細かく記載されている。また、スチールとアルミなど異なる素材をつなげる部分では、溶接ではなくリベット留めや接着剤を用いるように指示されている。溶接しない理由は、スチールとアルミでは「電位差」が大きく異なり、接合部で電位差腐食という錆が発生してしまうから。そこで、こういった個所では金属外板用の専用のリベットや接着剤を用いるよう修理マニュアルに明記されているという。
もう1点。昨今のクルマのボディーでは、強度がほしいという部分、例を挙げるとセンターピラーなどには「超高張力鋼板」と呼ばれる薄くて硬い鋼材が使われているが、この超高張力鋼板は溶接によってあとから熱が加えられると強度を失う性質を持っている。それだけに、溶接が可能だからと知識のないまま熱を加えてしまうと、見た目こそ元に戻っても、ボディーの構成材としては強度が求められる部分が弱い鋼材になってしまう。それだけにメーカーの指示書では、超高張力鋼板部分の修理は「パートごとの交換」と指示され、さらに結合する手法として過剰な熱を加えずに行えるスポット溶接を指定する。
しかし、超高張力鋼板は非常に硬いので、通常のスポット溶接機では鉄板を打ち抜いてスポットを打つことができない。そこで超高張力鋼板専用のスポット溶接機が用意されているのだ。そういった理由から、ピラーの一部が歪んだようなケースでも、場合によってはルーフ部分全体まで作業範囲になることもある。作業工賃と時間が増えてしまうのだが、それが現代のボディー修理の一面でもあるのだ。
重修理といえばフレーム修正機もあるが、これも自動車メーカーごとに指定の修正機があり、なおかつ測定用のジグも車種専用になっていたりする。BPセンター横浜にはメルセデス・ベンツやアウディなどが指定する修正機や、ランボルギーニなど超高級車用のジグを持っているので、コントロールセンターにそういった車両の修理依頼が入ると、遠方からでもここに持ち込まれているという。
また、最近の輸入車では高級車にとどまらず、メルセデス・ベンツのCクラスやアウディ TTなどのようにアルミ製ボディーを採用するクルマも増えているが、アルミ製のボディーを扱うときはアルミ用の修理機材と技術資格を持つ人材がいる「アルミ修理認定工場」のみでやってほしいとメーカーからリクエストされているという。そこでヤナセオートシステムズでは、自動車メーカーが出す条件に適合する認定工場として、全9個所の内製工場のうち6個所にアルミ修理用の機材とアルミ修理技術資格を持つメカニックを配置している。
このように、とにかく自動車メーカーが指示するとおりの修理を行うことを重視しているわけだが、その最大の理由は最初にも紹介したように「修理後も安全性能が正確に機能する」ためである。事故が起きたときに乗員を保護する機能といえばシートベルトの巻き上げとエアバッグの作動だが、これはそれぞれが動作するタイミングもしっかり練られているので、タイミングがずれてしまうと本来の保護性能を発揮できなくなる。
ボディーを修理して元のボディーと剛性が変化した仕上がりになっていると、エアバッグ作動などのタイミングが合わないこともあるだろう。これは非常に危険なことだが、修理工場やユーザーなどがそれを確かめる術はない。ところが、自動車メーカーではそういった状況も想定してテストを行っており、その結果を元にボディーの修理マニュアルを作っているので、これは遵守するべきものなのだ。
そんな最新のボディー修理事情に対応するため作られたヤナセオートシステムズだが、ここでの作業や情報処理を見ていると、ボディー修理というものが、いつの間にか職人的な仕事というイメージから、エンジニアが手がける技術職と言える内容に変化していることに気がついた。これは新車の生産方法自体が大きく変わってきたことに沿った修理技術の進化なのだが、世間的な状況としてその進化に追従し切れる工場は多くない。だからこそヤナセオートシステムズが推進しているように、修理に関する情報を自社内だけで占有するのでなく、提携する工場とも共用して全国レベルで質の高い修理をユーザーに提供するこのシステムは、非常に価値のあるものと言えるだろう。
その質の高い修理の証明として、ヤナセオートシステムズではボディー修理を行ったクルマに対して修理個所の長期保証も行っている。それだけに、ヤナセオートシステムズはさまざまな輸入車ディーラーと認定修理工場として契約しているというが、それはこの時代では当然のことと言えるのかもしれない。