日下部保雄の悠悠閑閑
オートスポーツ創刊号
2018年8月6日 13:52
古い書棚をチェックしていたら、ボロボロになった「オートスポーツ(AUTO SPORT)」が出てきた。1964年の創刊号で、この年に開催された第2回 日本グランプリ一色で構成されている。
ページからは、当時の自動車に対する国民的熱気のようなものが感じられ迫力があった。今にして思えば、オートスポーツはモータースポーツ専門誌として初めての定期刊行物ではなかったかと思う。今に続く54年の記念すべき第一歩である。
これ以降、オートスポーツはレースを主体とした記事構成で多くのモータースポーツマニアのバイブルに成長していく。何度か取り上げてもらった思い出深い雑誌だ。
この当時のグランプリは各メーカーがそれぞれ活躍できるように排気量が細分化されており、①「フォーミュラ・ジュニア」によるJAFトロフィーは別として、②6クラスに分かれたツーリングカーレース、③3クラスに分かれたGTカーレースと、計10レースが2日間にわたり鈴鹿サーキットを舞台に行なわれた。
ページをめくっていくと、いきなりの見開きで目を引いたのは本田技研工業の広告。まだ自動車メーカーとしてはヒヨッコで、「N360」の発売前。唯一の乗用車は「S600」だった。そのS600の広告をイラストという方法で掲載し、あらゆる職業の人がS600を使い倒そうという、楽しさに溢れている。今のホンダにつながるルーツのような広告だ。
S600は57PS/8500rpmのDOHCエンジンを搭載し、最高速145km/hの2シータースポーツカー。価格は「全国統一現金正価 50万9000円」となっていた。ちなみにレースの方ではGT-Iに大挙出場したS600勢だが、当時英国のクラブマンレースで活躍していた軽量な「マルコス」がやってきて圧倒されてしまった。しかし、マルコスのペナルティもあって結果的にS600が勝利を収め。後に第一期 ホンダ F1のドライバーとなるロニー・バックナムが北野元を抑えて優勝した。
このグランプリでは、第1回 日本グランプリで苦渋をなめたプリンス自動車(まだ日産自動車と合併する前だ)が「スカイライン 1500」のボンネットを伸ばして6気筒+ウェーバー3連キャブのエンジンを押し込んだ「スカイライン GT」を投入。GT IIを席巻しようとしていた。しかし、急きょ空輸された式場壮吉のポルシェ「カレラ 904」が公式予選でのクラッシュを克服して楽々と優勝したのは有名な話。
一気に名を上げたのがスカイラインに乗った生沢徹で、わずか1周弱とはいえポルシェを抑えてトップに立ち、観客を総立ちにさせた伝説が生まれた瞬間である。これらのレポートを追いながら当時を振り返るのも楽しい。
700cc~1000ccのT-IIIでは三菱重工(後の三菱自動車)「コルト」と日野自動車「コンテッサ」の戦いとなったが、ツインキャブエンジンのコルトが圧勝した。後に三菱フォーミュラに乗る加藤爽平が優勝している。ルノー譲りのリアエンジンのコンテッサはチューニングの幅が少ないエンジンに苦戦して、ロバート・ダンハムの5位が最高だった。このレースは日野と三菱のまさに一騎打ちだった。このようなメーカーの威信をかけた戦いはあらゆるクラスで見られた。
1300ccまでのT-IVは「ブルーバード SS」の圧勝。田中健次郎が優勝しているが、前年DKWで第1回 日本グランプリに出場したわが大先輩、津々見友彦さんが日産ワークスとして4位に入賞していた。津々見先輩とはその後、同じレースで一緒に走ることができるようになるとは夢にも思わなかった。何しろこの本を読んでいた時の私はまだ少年で、雲の上の存在だ。
最もヒートアップしたのは1500ccまでのT-Vかもしれない。なにしろプリンス、トヨタ自動車、いすゞ自動車というメーカーが主力車種を展開していたクラスだけに、参加台数も28台と多かった。しかし、レースは予選から新型スカイライン 1500が圧倒してしまい、「コロナ」も「ベレット」も歯が立たなかった。優勝したのは生沢徹だった。
当時のプリンスはちょうどモデルの世代交代の時期に入っており、レース車両もよく研究していたと思う。「グロリア」も「クラウン」を圧倒している。この時以来、プリンス=高性能のイメージが根付き、それは合併後の日産にも受け継がれていく。
このころからクルマの走行性能に対するユーザーの注目度も上がり、いわゆる「羊の皮を被ったオオカミ」的なスポーティモデルが羨望の眼差しで見られるようになった。各メーカーもこれらのモデルをラインアップに加え始めたこと、そして東名や名神といった高速道路も一部開通して、自動車への期待度が一気に高まった時期だったと思う。
各メーカーの折り込みページの広告に時代の熱気が感じられる。その一部、パブリカ、コルト、プリンスの折り込み広告を紹介するが、眺めているだけで楽しいもんである。
なお、オートスポーツの創刊号は「三栄書房の電子書籍」において1000円で販売されている。