日下部保雄の悠悠閑閑

“ミニ・ニュル”で乗るS660 Modulo X

“ミニ・ニュル”の群馬サイクルスポーツセンターでS660 Modulo Xに乗ってきた

 ホンダアクセスは本田技研工業の純正アクセサリーのメーカーで、Gathersのカーナビゲーションでも知られている。また、ホンダの販売店で取り付けるディーラーオプションパーツはほぼホンダアクセスのパーツで、コンプリートカーも手がけている。広範囲に活動しているが、意外とホンダアクセスは知られていない。そのため、広報活動の一環として、2018年からModuloのロゴを使った「NSX」がGT300クラスに参戦して、ブランド訴求を図っている。

 一方、コンプリートカーは「Modulo X」と呼ばれ、現在は「ステップワゴン」に「フリード」、そして今回デビューした「S660」の3種類をラインアップしている。すでにCar Watchに独立したタイトルで掲載されていると思うが、個人的な視点でModulo Xについて触れてみたい。

 Modulo Xのコンセプトは、ストレスのないドライブだ。ステップワゴンは標準車に比べると直進安定性が向上して、少なくとも前席の乗り心地は上下動の収束も自然で快適だった。これ以上はボディにも手を入れないと、微振動などを完全に抑え込むのは難しいだろう。しかし、よくまとまっているのでお勧めの1台だ。フリードはステップワゴンに比べるともう少しキビキビ感を出しており、リアの突き上げは若干強めだが軽快感があり、しっかりした味は多少の硬さを許容する。

 で、今回の本命、S660 Modulo Xのハンドルを握った。コースは群馬サイクルスポーツセンター。本来は自転車のコースなだけにアップダウンやタイトコーナー、回り込んでいるコーナーなどが複雑に入り組んでおり、非常に走りがいがある。路面はハイグリップではないし、荒れている。コース形状だけ見ると“ミニ・ニュルブルクリンク”だ。

 閑話休題。ニュルブルクリンクの旧コースはよく知られているように、古くからある公道をサーキットにしたワイルドなコースだ。それだけに高速でのアップダウンが多く、トリッキーなレイアウトになっている。

 もうずいぶん前のことだが、部品開発のためにニュルには随分通った。走れば走るほど懐の深いサーキットで、ドライバーの勇気と技量と知識を総動員して走るコースだった。常宿にしていたザンクト・ゲオルク(英語読みだとセント・ジョージ)というホテルからニュルまで通勤していたが、途中、鹿が飛び出してきたり、季節によっては枯れ葉が路面を覆ったり、本コースに負けず劣らず注意が必要だった。

 このころ、後にホンダアクセスに移ったホンダのテストドライバー、玉村さんとご一緒することもあり、ドイツの強い食後酒、シュナップスを煽るように飲んだことが懐かしい。ただ、飲んだ後のことはあまり覚えていない。朧気な記憶を辿ると玉村さんはひっくり返りながらそのままボクの視界から消えていったような……。

 玉村さんはハンドリングについて語り合ったり、かつ教えてもらった恩人でもある。

 さて、ミニ・ニュルでの試乗はS660にとってコースとクルマのサイズがよく合っており、面白い。このコースも結構走ったことがあるので、すぐにコースレイアウトを思い出した。コースサイドは場所によっては枯れ葉や苔があって滑りやすくなっている。

ノーマルのS660

 最初にノーマルのS660を乗る。いつ乗ってもスポーツカーは面白く、楽しい。これでも文句なく楽しい! 次いで、Modulo Xに乗ると「あれ、何だろう!」とビビンと感じるものがあった。サスペンションはホンダアクセスで開発したキットが装着されているが、ショックアブソーバーは前後とも単筒の5段階調整で、当日は最もハードな5段目が選ばれていた。

 Modulo Xはもともと素直なS660のハンドリングにさらに粘りが出て、ライントレース性が正確になっている。サスペンションは固められているといってもレーシングサスのような硬さではなく、適度にロールして気持ちがよい。

 サスペンションの効果も大きいが、開発の指揮を執る福田さんによるとエアロパーツ、そしてホイールの変更も大きいという。かつては空力パーツは高速域で初めて効果を発揮すると思っていたが、クルマ自体の空力の進化に伴い、低速でのエアロパーツ効果が大きくなっているという。S660 Modulo Xもフロントグリル一体型のバンパー、それにガーニーフラップを付けたアクティブ・リアスポイラー、リアディフューザーで操縦安定性が洗練されたという。ハンドルを切った時にグリルからホイールハウスに至る整流効果があり、姿勢が安定すると言われる。

S660 Modulo X

 その昔、グループAで全日本に出ていた時、BMW M3のリアスポイラーの効果がよく分からなかった経験を持つので半信半疑なのだ。で、試しにModuloXのバンパーのみ装着したクルマとノーマルバンパーと乗り比べてみたが、確かに整流効果があり、コーナーでの接地感が違っているのにびっくりした。Moduloのエアロパーツは外観が派手にならないのが好ましく本物志向を感じさせる。

 さらに、ホイールはスポーク部の剛性を少し落とし、リムやハブの部分は剛性を上げて細かいチューニングをしているというので、ホイールだけ交換したものに乗った。

 こちらは劇的に変わるというわけではないが、コーナーでのグリップ力の変わり方が自然なのと、トラクションに違いを感じたのが印象に残った。ホイールの剛性を落とすとノイズなどで悪影響があるが、スポーツカーならでは、そしてS660専用設計だからこそできたこだわりだ。

 このほかにブレーキも変わっているが、こちらは踏力コントロールからストロークコントロールに変わっていた。個人的には踏力コントロールの方が使いやすいが実際の制動力は向上しているという。さらにメーターやシフトノブなどに独自性を持たせている。

バンパーとホイールをノーマルにしたS660

 これだけのパーツを個別にオーダーすると100万円ぐらいするそうだが、コンプリートカーのModulo Xでは約66万円のアップに抑えられている。といっても約285万円ぐらいになっているので決して安くはないが、S660を心から楽しみたいユーザーには特別の1台になるんじゃなかろうか。

 コースもクルマも楽しく、奥の深いホンダアクセスの試乗会だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。