日下部保雄の悠悠閑閑

マツダ「ロードスター」

「ロードスター RF」(左)と「ロードスター」(右)

 ライトウェイト・スポーツカーの旗手、マツダ「ロードスター」が6月にマイナーチェンジをしている。残念ながらこれまで乗る機会がなかったのが、やっとチャンスが巡ってきた。歴代のロードスターはどの世代も「ライトウェイト・スポーツカーとは何か」と問い続けて作り続けられてきた。その潔さが世界から認められてきたと思っている。

 言うまでもなく、ロードスターのエンジンはソフトトップが1.5リッター、電動トップのRFは2.0リッターの排気量だが、今回のマイナーチェンジでは2.0リッターエンジンを搭載したRFの変更点が多い。これまでの2.0リッターはNC型ロードスターのエンジンを受け継いだものだが、1.5リッターエンジンがシャープなだけにモワーとした印象をぬぐえなかった。

 試乗できた当日は幸か不幸か雨だったので、トップは閉じたままのドライブ。オープンでは分からなかったことがクローズドでは感じられることもある。

 ND型ロードスターの魅力はハンドリングはもちろんのこと、1.5リッターエンジンの軽く吹け上がる硬質な回転フィールが魅力だった。

 RFに搭載されている2.0リッターの改良版は、そんな1.5リッターの爽快感を共有できるように大幅な改良が加えられたものだ。高出力化と低中速トルクアップを図るためにバルブタイミングを高回転域に合わせ、合わせてバルブスプリングも強化された。それによるネガの部分はシリンダー内の燃焼の改善で対応したという。例えばタンブル流を強くし、インジェクターの多段化などでプラグまわりの燃料が濃くなるような吸入を図り、ピストンの形状変更や超軽量化、吸気ポートの形状変更で流速を高めるなど、あらゆるところに手を入れている。

左が旧型のシリンダーヘッド、右が新型のシリンダーヘッド

 さらにRFの2.0リッターエンジンは、最近の燃費エンジンのトレンドに従ったロングストローク。コンロッドの形状変更による剛性アップや、ピストン+コンロッドで272gもの軽量化が図られている。クランクシャフトも高回転化に伴い、剛性アップと振動の低減に合わせた改良が施されている。これによってピストン速度はNC型の20.8m/sから22.8m/sに向上した。最高出力は+19kWの135kW(184PS)だ。最大トルクは5Nm上がって205Nmとなっている。トルクは全域で上げられているのが特色だ。

 これらを投入されたRFは、まさにND型 1.5リッター ロードスターの相似形のエンジンフィールを持つに至った。いや、それ以上かもしれない。エンジンフィールはこれまでの2.0リッターエンジンの回転フィールが質感を伴ったものになり、それは劇的な進化だ。1.5リッターとは違い、もっとこもった吸気音を発しながら力強く回る。ちょうど欲しい中速回転域のトルクも上がり、レスポンスがシャープになっていると同時に、トップエンドも軽く7500rpmまで回る。これまで高回転まで回すと、ちょっともっさりしていた2.0リッター型と素材が一緒とは思えない。

 もはや立派なスポーツカーエンジンで、例えばセダンに要求されているエンジンとはまったく別物だ。出力的にロードスターには「too much」の感がしなくもないが、正直楽しい。

ピストンやコンロッドでも改良が行なわれ、合わせて272gの軽量化となっている

 RFはソフトトップよりも車重が100kg重い1100kg台だが、このクラスになるとクルマの走りのフィーリングにも大きな影響を与える。路面段差などで若干車体が暴れるのはソフトトップと共通だが、路面のウネリなどでの収束が滑らかで、乗り心地の質感も上がった。

 RFに乗っているだけでは気付かない部分も、ソフトトップと乗り比べると違いが明確だ。ソフトトップのダイレクトに入ってくるロードノイズや車外の雑音に比べて、RFはライトウェイト・スポーツカーというよりもGTに近い存在なのだ。耐候性はもちろん、遮音性、乗り心地など、ソフトトップの軽快さとは違った別種のスポーツカーがRFだ。

 RFを力強く走らせれば、そのエンジンパフォーマンスからしてもきっとパワフルで俊敏なスポーツカーの顔を惜しげもなく出すだろうが、今回のように市街地を軽く流すだけでも、スポーツカーのフットワークのよさを堪能しながら快適に使うことができる。改めてRFの進化に感心した。

 しかし、私にとってのロードスターは1.5リッターのソフトトップだ。剛性の高いシャシーとは言え、やはりハンドル応答性などに緩い部分のあるソフトトップ、車外の音を正確に拾い、ざわざわしたキャビンとその中に割り込んでくる吸排気音。しかし、そのどれもがロードスターそのもので、小気味よく回る1.5リッターエンジン、約1tの機敏な車体は、マツダが目指す人馬一体を強く感じ、いつハンドルを握っても楽しい存在だ。特にND型ロードスターの完成度は高く、理想に近づいたと思う。

 この1.5リッターモデルもエンジン全域のトルクアップを図り、出力もわずかに上がっている。最高出力は1kW向上した97kW、最大トルクは2Nm上がった152Nmとなっているが、こちらの改良はもともとベースが高い完成度を持っていただけに分かりにくい。

 全体の印象ではシャープになっていると同時に、2017年11月の改良の効果だと思うが、リアの姿勢安定感が増したところが大きい。この姿勢安定性の成果と引き換えに躍動感は少し薄れていると感じたが、クルマの完成度は上がっても面白さとは「イコール」にならないところが、官能を大切にするクルマの難しいところだ。個人的には動きが大きかった以前のモデルにも違った魅力を感じる。

 でも、どのように進化しようともロードスターは日本の宝だ!

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。