日下部保雄の悠悠閑閑
伊東の思い出
2018年8月27日 00:00
8月の半ばになると毎年、静岡県伊東市に花火に行く。実は小学校の数年間、伊東に住んでいたことがあり、今もそのころ遊んだ海や山が懐かしく思い出される。伊東の花火もその1つだ。伊東の花火は三浦按針の顕著を称える按針祭のメインイベントとして行なわれる。
三浦按針とは西暦1600年に現在の大分県に漂着したイギリス人、ウィリアム・アダムスのことで、徳川家康の知遇を得て、家康の外交顧問となった人物だ。日本名は家康から与えられ、知行地の三浦と羅針盤を意味する按針を合わせて三浦按針と名付けられた。伊東はアダムスが日本で初の洋式帆船を建造したドッグがあったことから縁が深い。
伊東の按針祭は8月8日~10日にかけてさまざまなイベントを開催し、毎年行なわれている。その観客動員数は25万人と言われるので、その混雑が想像できる。横須賀でも按針祭は開催されているが、私にとってはやはり住んだことのある伊東の按針祭がなじみ深い。
そして、花火は毎年8月10日と決まっている。いつもは混雑する海岸まで行き、首が痛くなるほど顔を上げて花火見学するのだが、夜空いっぱいに広がる花火や火薬の匂い、花火の残滓が舞い落ちてくるなど迫力満点だ。
今年はホテルのベランダから見えるということが宿に着いてから分かった。偶然そうなったのだが、ホテルから見物となると満天に花開く花火は諦めざるを得ない。早速家族会議を開き、喧々諤々。花火のスタートは20時。その時刻は当然、酔っぱらっている。宿からの往復約1時間がちょっとしんどい。それに5か所から打ち上がる花火を一望にできる場所は海岸にはなさそうだ。エアコンの効いた部屋からビールを飲みながら見ることができる。etc, etc……。つまりいろいろと理由をつけて楽な方を選んだのだ。
しかし、伊東の海岸いっぱいに広がって上がる花火は初めて見るもので、いつもとは違ってまた新鮮だ。次々と上がる花火をベランダからボーッと見ていると夏を実感して、昼間の暑さを忘れさせてくれる。
約1時間、1万発と言われる花火はあっという間に終わってしまったが、今年も恒例となった伊東の花火を見ることができて幸せでした。
翌日は高校生の頃の夏休みに遊んだことがある一碧湖に行ってみた。一碧湖は古くは与謝野鉄幹・晶子夫妻が多くの短歌を残しているだけあって、静謐で独特の雰囲気を持った小さな湖だ。湖畔には開けた土地がないのでにぎやかな観光地にはなりにくく、昔からの景観を保っている。「伊豆の瞳」と呼ばれたこともあるロマンチックな湖は、周囲約4kmを散策する小径もあって、バードウォッチングなども楽しめる。たっぷり時間があれば周遊してみるのも気持ちがよさそうだ。夏の緑豊かな雰囲気もいいが、一碧湖の最適なシーズンは春、秋ということを最近知った。春は桜のピンクが、晩秋には紅葉の赤が水面に映えて美しいという。
一碧湖は泳いだ記憶があるのだが、水はそれほど澄んでいなかった。しかし、高校生は元気なもので、ボートから飛び込んだりして怖いもの知らずだった。今は禁止されているのだろうか? 当時、湖畔の樹木の葉に卵を泡のように産み付けるモリアオガエルの卵を見たが、天城の山中にある八丁池だったのか記憶があやふやだ。
一碧湖から4km離れた大室山にも行ってみた。麓には伊豆シャボテン動物公園/伊豆ぐらんぱる公園などもあり、東伊豆の観光地の1つでもある。子供の頃は大室山の斜面を利用して草そりをして遊んだのも懐かしい。今は登山は禁止となっているのでそんな遊びをしている子はいないが、約6分のロープウェイで頂上まで行くことができるのは嬉しい。標高約580mの大室山は台形の美しい火山で、火口の周囲をぐるりと1周する遊歩道がある。火口底には風の影響を受けにくいのかアーチェリー場がある。いいアイデアだと思うが、残念ながら今は営業していない。ちなみに、大室山は毎年山焼きをするので、山に樹木はなく、きれいな山体を保っている。
頂上からは伊東を一望に眺めることができ、穏やかな景観はなかなか得難い。あいにく当日は少し靄っていたので、スッキリと遠方まで見ることはできなかったが、空気が澄んでいると富士山から箱根、房総半島、スカイツリーも見ることができるという。
周遊道路にある山の歴史を簡単に辿った案内看板を観たり、漁師たちが漁の安全を祈願したお地蔵さんや安産と縁結びのお地蔵さんを眺めたりしながら程よい散歩を楽しんでいるとすぐに1周できる。
御鉢周遊でかいた汗は下りのロープウェイで風を受けていると気持ちよく引き、再び伊東にとって返した。
派手なところはないが、一碧湖の何気ない佇まい、初めて登った大室山の穏やかな景観など、心和むひと時だった。今年もいろいろ楽しませてもらった伊東の夏でした。