日下部保雄の悠悠閑閑

ボルボと函館

ボルボ「XC40」

 北海道 旭川には自動車メーカーや部品メーカーのテストコースがある関係で毎年出かけるが、その他の地にはなかなか行くチャンスがない。函館もその1つだが、彼の地には記憶が正しければ、2回だけ行ったことがある。高校生時代の修学旅行とラリーである。

 ボクの高校生時代の修学旅行の足は東北本線と奥羽本線である。仙台から先はSL(!)で、トンネルに入ると車窓からのばい煙が凄く、みんな大慌てで窓を閉めた記憶がある。

 青函連絡船を利用して函館に到着し、そこからは函館本線を使った行程のはずだ。港の景色はなんとなく記憶にあるが、そこから先は寝ていたのかよく覚えていない。おっと話が古くなりすぎた。

 そして、2回目は1976年だと思うが函館へ遠征したラリーだった。Legend of THE RALLYで走らせた「シャルマン」の現役時代のことである。当時のラリーはダートコースで、当然函館のラリーも全コース、ダートである。サービス隊もついていたので、心置きなく走れた。断片的な印象しかないが、北海道らしく乾いた空気の中で走ったラリーは気持ちがよかった。このころは自走して行ったので、トロフィーをせしめた帰りは東北を満喫しながら帰るというのんびりした時代だった。

 当時のオートスポーツに掲載されたASCチャンピオンラリーでのシャルマンはゼッケン3を付けており、多分車検の最中だと思う。

当時のオートスポーツに掲載された、ASCチャンピオンラリーでの「シャルマン」

 そんなことを思い出しながら、今回の函館は“函館応援テストドライブ”と銘打ったボルボの試乗会である。北海道地震で観光客の減ってしまった函館を応援しようという意図もあり、久しぶりの函館にワクワクする。

 ここでは多くの新世代ラインアップのボルボが用意されていたが、メインは「XC40」である。デビュー時に試乗できたのは20インチタイヤを履いたパワーのある「T5 R-DESIGN」だった。SUVでありながらスポーツカーのようなハンドリングと上質な乗り心地にびっくりしたものだ。

 ただ、XC40は世界的に需要が多く、日本にデリバリーされるのは当初1500台。あっという間に売り切ってしまったが、日本サイドの努力もあって年内に2000台まで増やすことができたという。とは言うものの、まだまだ不足が続いている。まずは顧客へのデリバリーが先ということで、T4などの試乗会は後まわしになっていたが、今回ようやく乗ることができた。

 19インチタイヤの「Inscription」は、覚えている20インチタイヤほどのグイグイと曲がる感じではないが十分におつりがくるほどスポーティで、CMA(コンパクト・モジュラー・ アーキテクチャー)プラットフォームの優秀性を確認した。あいかわらずライントレース性とハーシュネスなどのバランスがよく、大径タイヤを存分に履きこなしている。

 テストドライブはどこを走ってもいいのだが、推奨されたコースがなかなか素晴らしい。北海道の景色はいつも感動するが、函館も素晴らしかった。40年以上前のラリーでは景色を堪能する余裕もなかったが、今回はその分を取り戻すかのように澄んだ空気の絶景を楽しむことができた。

 人懐こい乳牛が放牧されている城岱(シロタイ)牧場までのルートはツイスティなコースだが、結構走りやすく、10%にもなる勾配もXC40は気持ちよく上っていく。

 ここはちょうど函館山の反対側から遠く函館の夜景を観ることができるので、なかなか絶景だ。昼間見る函館とは違う顔を見ることができた。

城岱牧場で出会った人懐こい乳牛
城岱牧場からの夜景

 18インチタイヤを履いた「Momentum」は素朴なXC40を味わうことができて収穫だ。素直で気持ちのいいSUVで20インチタイヤのようなグイと曲がる感じではないが、ドライバーの感覚に寄り添うように、スッと懐に入ってくる。XC40は3つのグレードがあるが上下関係にはなく、好みのXC40を選ぶというスタンスなので、個人的にはMomentumに特に心惹かれた。使い倒せる感じがいい。

 城岱牧場から函館本線が走る大沼駅近くのエプイホテルに戻る時に見た蝦夷駒ヶ岳の威容にも驚かされた。海抜1131mの火山だが、江戸時代の大噴火で山頂が吹き飛び、福島の磐梯山に似た山容ができあがったという。この時の爆発で折戸川をせき止めて大沼、小沼の美しい湖が誕生したと記録が残る。これ以降も噴火を繰り返し、最近は小康状態のまま現在に至っている。できればこのままおとなしくしていてほしい。

活火山でもある蝦夷駒ヶ岳
夕焼けを鏡のように映す大沼

 城岱牧場には新規導入されたプラグインハイブリッドモデルの「V90 T8 Twin Engine AWD Inscription」でも走ってきた。こちらはボルボのトップモデルらしく、しっとりとしたエステートワゴン。粛々と走ると思えば、ワインディングロードもサイズを感じさせないフットワークで駆け抜け、ひときわ明るいヘッドライトと、発電している時のウィーンという充電音も印象的。新しい時代を感じさせる。

城岱牧場から見た函館山

 夜は有名な100万ドルの夜景と言われる景観を観るために、函館山まで足を延ばした。初めての夜景は想像を超えた美しさ! 気温はひと桁だが、空気が澄んでいる秋の函館はお勧めだ。この夜景をよく知る人に聞くと、雪に覆われた函館の夜景も素晴らしいという。

函館山から見た100万ドルの夜景!

 翌日はV60で路面電車が行き交う函館市内を走り、ちょっと硬めのリアサスペンションだが、路面からのショックをよく吸収していることを確認した。

 空港までの道で立ち寄った五稜郭タワーから見下ろした五稜郭の星形も見事だった。函館山からの夜景といい、五稜郭の景観といい、函館はなかなか見ごたえ、走りごたえのある土地だった。また来たいと思わせてくれた函館テストドライブだった。

見事な五稜郭

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。