日下部保雄の悠悠閑閑

Bridgestone Innovation Gallery訪問

ブリヂストンのさまざまなタイヤやそれにまつわる技術を見てきた。これは農耕地で活躍する農業機械用タイヤ

 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)の勉強会で久々にブリヂストンの開発の総本山、小平を訪れた。11月21日にオープンしたBridgestone Innovation Galleryを見学させてもらうためだ。

 ここには昨年までの19年間、Bridgestone Todayがあり、まさにブリヂストンの過去から現在までを知る場所だったが、ギャラリーではそれに加えて次の50年を見据えた展示が行なわれ、スペースも大幅に拡大されている。

 ブリヂストンの創業は3期に分けることができる。1931年の創業当時、久留米の地下足袋製造業者だった石橋正二郎が東京出張の際に見かけた自動車を見て、すぐに自動車用タイヤの製造に踏み切った時が第1期。第2期の創業は米国のFirestoneを買収してグルーバルカンパニーへと成長した時。そして第3期はまさに2020年、ソリューションカンパニーに向けて大きく変わろうとしている今だ。

 第3期に至る解説はギャラリーでは4つのセクションに分かれて進む。歴史、タイヤ、ゴム製造工程、将来で、誰でも興味の持てる内容になっている。

 そのギャラリーは誰でも見学できる施設だが、面白いのは技術センターに出向くパートナー企業もギャラリーの一角に設けられたゲートを通ることで、ブリヂストンと未来を共有できることだった。

協力企業が入館ゲートへ通るためのルート。ギャラリーの一部に設けられて将来のイメージを共有する

 ブリヂストンの長い技術開発の歴史などについては別の機会に譲るとして、将来について紹介しよう。ブリヂストンの言うソリューションカンパニーとは何だろう?

 航空機タイヤを例に取ってみると、航空機の一般的なメンテナンスは定期交換で行なっている。しかしタイヤは飛行場、環境、パイロットによって磨耗状態や故障の条件が逐次変化する。つまり、いつ故障や限界磨耗が起こるか分からず、ブリヂストンを履いた航空機が離着陸する空港にサービスマンとタイヤの在庫を抱えていなければならなかった。この問題をエアラインからデータを提供してもらい、一緒に解析することで定期的な交換サイクルを見出し、提案することで大幅な効率を図ることができたという。かなり前の話だが、ユーザーの困りごとに対応して問題を解決したという1つの事例で、ソリューションカンパニーの萌芽があった。

左は高度な技術が必要な航空機用タイヤ、右はモノレール用タイヤ。いろんなタイヤを作っているその一部です

 協業も同じ視点で考えられており、タイヤだけでできないことを他の製造業と協業することで違った提案ができる。例えば乗り心地はショックアブソーバーメーカーとセットでタイヤを開発することで、タイヤ単品では難しいことができるようになる。これは実際にシミュレーターが用意されており、疑似的な体感をすることができる。

 また例えば天然ゴム。鉱山用などの大きなタイヤには不可欠の天然ゴムは赤道直下の地域で栽培されるゴムの木から採取される。最近の地球温暖化で気象環境が変わり、将来が未知数で資源の枯渇が心配されている。各メーカーは代替材料の研究を進めているが、ブリヂストンでは一例としてロシアンタンポポからゴムを作る技術などを研究している。これもユーザーに対するソリューションの一環だろう。

 さらに、タイヤにさまざまなセンサーを装着することで走行中のデータが取れるようになる。通信技術を使ってタイヤのみならずクルマの状態を把握することで、安全性の点でも多くのことができるようになる。トラックなどの管理できる自動車のデータを収集することになれば、データの蓄積により応用は意外と近い世界かもしれない。タイヤにはこれまで不可能だった未来が開けているようで面白い。

 未来のタイヤ技術では、強靭な合成樹脂と柔軟性のあるゴムを組み合わせたSUSYM、月の砂漠を走行することを目的としてラクダの肉球からヒントを得たパターンを持ち耐久性のある金属製のタイヤ、走行中に路面から給電を受けるスチールレスタイヤなど、タイヤの未来技術の展示も怠りない。10年後、これらのタイヤはどのように変化し、実用に供しているのだろうか。興味は尽きない。

SUSYM。硬質で強い樹脂と柔軟なゴムのいいとこどりをした研究用タイヤ
ムーンクルーザー用タイヤ。月の表面は砂漠であることからラクダの肉球からイメージされた金属製タイヤ。温度変化が大きいことからゴムは使われていないです
走りながら路面から給電されることを考えられたスチールを使っていないタイヤ。スチールを使うと電気を通すときに発熱してしまう

 将来の自動運転に対してはEVを念頭に置き、操縦性よりもノイズの低減やそれに伴う大径狭幅タイヤで転がり抵抗が小さく、垂直荷重に耐える高圧タイヤの予測も説明していたが、ブリヂストンはologic技術を開発し、すでにEVのBMW i3に装着されている。

ologicは大径、狭幅タイヤで転がり抵抗と騒音を抑えたタイヤです。BMW i3に採用されています

 今回紹介したのはギャラリーのほんの一部で、SDG'sに向けて大きく変貌しようとしているブリヂストンの今を感じることができた。

 ということで「硬い話で疲れたなぁ」とムクは言っとりましたとさ。

面白かった、でもツカレタヨーとムクは言っとりました。もう寝ます

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。