日下部保雄の悠悠閑閑
サスケさん
2021年11月8日 00:00
娘が小学3年生くらいのときだったと思うが、2匹の仔猫を拾ってきた。7月頃の暑い日だった。すでに我が家には外猫含めて3匹のネコがいて、折り合いが付けられるか心配だったが拾ってきてしまったものは仕方がない。しばらくウチに置いておくことにした。
酷いことに暑いさなか2匹ともタッパに入れられ、グッタリしていたそうだ。娘と家内の介抱で元気を取り戻した可愛らしい仔猫達は先住ネコに遠慮しつつ我が家を走り回っていた。サスケとシュンと名付けられた2匹は順調に成長したがネコはそれぞれテリトリーがあり、シュンはいつも小さくなってミーミー鳴いていた。ある日ハムスターを巡ってちょっとした事件があり、驚いて飛び出して行ったきり戻ってこなくなってしまった。その後、首輪をつけたシュンを見かけ、特徴的な大きな鳴き声も聞こえてホッとした。サスケの兄弟は可愛がられているようだ。
一方、サスケは外に遊びに行くことが多かった。身体は大きいのに喧嘩は弱いらしく、血だらけになってたり、どこでどうしたのか後ろ脚にひどいケガをして帰ってきたりしたこともあった。
おまけに雄ネコにありがちな、尿道が詰まってしまい迂回路を新たに作るといういう大手術も経験した。そのおかげで多くのネコにとって危険な腎臓病とは無縁でいられた。
ウチにはネコ専用の外出用自動ドアがあり(このドアはサスケしか気が付かなかった)、サスケは夜な夜な出かけてはネズミを捕ってきて、多い時には2~3匹も捕獲してくる。ウチの家内はネズミがこの世で一番嫌いでその度にパニックになっていた。
サスケも時折ネズミの逆襲に合って、ベランダに放り出して退散してくることもある。「窮鼠猫を噛む」というのを目の当たりにした。当方としては逃げ回るネズミを追いかけて逃がすまでが大変だった。
サスケとはたまに外ですれ違うこともあった。帰宅途中でどこかで見たことのあるネコだな、と思ったらサスケだった。お互い知らないふりをして、すれ違いざまに「ヨッ」と声をかけると「ニャ」と返事をして反対方向に歩み去る。しばらくすると何事もなかったように帰ってきてご飯を食べているのが常だった。
さすがにこの2年ぐらいはあまり外に出ず、ウチで寝ていることが多くなったので自動ドアも外してしまった。そもそも自動ドアは2階のベランダに向けてあり、外に付いている狭いキャットウォークに飛び移り、また階段に飛び移るという曲芸をしないと外の世界へは行けない。ネズミを咥えてこれをやるのだから大したものだった。さすがのサスケも近年は足腰が悪くなってからは自粛していたようだ。
歳を取るにつれて人間同様にいろいろ具合が悪くなってくる。昔の傷のために後ろ脚が悪くなり、目もよく見えないようだ。歩くのも不自由するようになったし、次第に認知症状も出てくる。
それでも我が家の長老は食欲もあって他のネコからは一目置かれていた。最近ではオムツも離せなくなったが、手術した尿道口の関係で外に漏れる事もあり、帰宅するや地雷がどこに仕掛けられているのビクビクするのが日課だった。
それでもサスケは傍にいてくれるだけで安心していた。傍にいるのが当たり前だったのだ。
この2~3日で急速にグッタリとしてきたある日、サスケを寝床にソーと置き、よく眠れないまま夜が過ぎた。翌朝いつもよりもずっと早く起き、サスケの身体に手を添えると息が浅い。どれくらいそうしていただろう。やがて手の中で小さい鼓動が止まってしまった。覚悟していたとはいえ悲しく寂しい別れだった。
22年間、ほんとにありがとう、サスケさん。今も帰宅すると君を探している自分がいます。