日下部保雄の悠悠閑閑
ブリヂストン「BLIZZAK VRX3」
2021年11月1日 00:00
スタッドレスの季節がやってきた。今年の冬は寒いという。降雪地帯だけでなく夜間の路面凍結も心配だ。各タイヤメーカーからは性能アップした最新のスタッドレスタイヤが投入され、性能の進化には限りがないのに驚くばかりだ。感慨深い。これもたゆまない努力の賜物に違いない。
ブリヂストンは試行錯誤の上に1982年にスタッドレスタイヤを発売。その後、発想の転換で氷の上にできる水を吸い、グリップさせる発泡ゴムを開発し、業界をリードした。1988年登場のBLIZZAK PM-10/20シリーズだ。
その後、MZシリーズ、VRXシリーズと10代のスタッドレスタイヤを経て今年11代目のVRX3が登場した。
BLIZZAKは発表当初から氷上グリップを目標としてきた。当初のPMシリーズはスノータイヤの影響を色濃く残して今から見るとオープントレッドだったが、最新のVRX3は夏タイヤかと思えるほど、パターンが密になっている。氷上性能を活かすために接地面が広く、これまでのBLIZZAKシリーズで最大のトレッド幅でVRX2に比べると約2%ほど広い。
その最新のスタッドレス、VRX3にスケートリンクで試乗させてもらった。比較タイヤにはPM-20が用意され、BLIZZAKの進化を体感するプログラムになっている。
さすがのブリヂストンにも新品のPM-20はなく、作ろうにも金型もない。目の前にあるのは手彫りで作られた貴重なPM-20である。当時の組成に近いゴムを貼り、当時のPM-20を再現させている。
余談だがPM-20が登場した33年前を思い出すとシットリと氷を掴むブレーキは衝撃的だった。「こりゃ凄い!」と感心したものだ。
再生PM-20はその時の特徴をよく再現している。走らせるとホイールスピンもするし、制動も伸びるがコントロールのしやすさは変わらない。続いて乗ったVRX3は発進時のグリップが素晴らしく、トラクションコントロールとの相性もよく力強く飛び出していく。続いてABSを効かせっぱなしのフルブレーキ。最後の最後まで減速Gを感じながら停車する。BLIZZAK33年間の進化を体感した瞬間だ。
コンパウンドではブリヂストン・スタッドレスのコア技術である発泡ゴムの気泡を球から楕円形として、給水量の容量アップでグリップを向上させている。トレッドパターンはシンプルな形状。デザインには遊びがないが最大限のサイプとエッジ量を計算したというのが伝わってくる。
また、パターン比較のためにVRX3とそのゴムを使ったスリックタイヤを履いて同じコースを走った。スケートリンクのような氷上ではゴムの効果は大きく、発進、制動とも注意しなければ分からないほどのグリップする。ただ、コーナーではハンドルの効き応答が悪くアウトに向けて滑っていく。VRX3のサイプ、エッジ量の多いパターン効果を実感した。
ほかにもプログラムが用意されていた。今度はプリウスサイズのタイヤを履いた人力三輪車が2台待っていた。1台は夏タイヤのエコピアのゴム。もう1台にはVRX3のゴムを張り付けてある。円コースをグルグルと回る。
最初は夏タイヤから。軽くてスイスイと走るが、ちょっと力を入れて漕ぐとすぐにホイールスピンしてしまう。コーナーもスリップアングルをあまりつけないようスルスルと走る。久しぶりの自転車は楽しいゾ。
次にVRX3のゴムを張り付けた三輪車。「う、ペダルが重い」。なかなか進まない……というか動力源、つまり自分の力不足だ。根性入れて漕いでみると、ホイールスピンすることなく加速する。お、結構速いじゃないか。しかし手を抜く(足を抜く?)とスピードが落ちてしまう。コーナーも案外曲がっていく。楽しくなってきたが外野の飯田裕子さんから「遅い」とか、「もっと力入れて!」とかの励ましに(?)閉口してスタート地点に戻り終了。まさに体感できました。
別のコーナーにはJEEP型のラジコンが2台用意されていた。片やVRX3ゴムのタイヤ、片や夏タイヤゴムのタイヤを履き、反対方向に同時にスタートさせる綱引きゲームだ。想像どおりVRX3ゴムのJEEPが圧勝したのは言うまでもない。なるほど分かりやすく説明するのに知恵を絞っているんだと感心。ついでにコントローラーを貸してもらい、自由に走らせてみたがセンスがないのを再確認しただけだった。
内容の濃い試乗会が終了し、最後に1人のエンジニアが近づいてきた。BLIZZAKの開発当初からブリヂストンのスタッドレスを支え、いつも親切に解説していただいた山口宏二郎さんだ。いよいよ退職され、VRX3が関与された最後の作品になるという。突然のことに、失礼ながら長い間の戦友が去っていくような寂しさを覚えた。またのご活躍を期待しています。またどこかでお会いできますように。