日下部保雄の悠悠閑閑

ブリヂストン「BLIZZAK VRX3」

最新のBLIZZAK VRX3と最初のBLIZZAK PM-20(手彫りで作られ、当時のゴムに近いもので再生された懐かしいタイヤです)

 スタッドレスの季節がやってきた。今年の冬は寒いという。降雪地帯だけでなく夜間の路面凍結も心配だ。各タイヤメーカーからは性能アップした最新のスタッドレスタイヤが投入され、性能の進化には限りがないのに驚くばかりだ。感慨深い。これもたゆまない努力の賜物に違いない。

 ブリヂストンは試行錯誤の上に1982年にスタッドレスタイヤを発売。その後、発想の転換で氷の上にできる水を吸い、グリップさせる発泡ゴムを開発し、業界をリードした。1988年登場のBLIZZAK PM-10/20シリーズだ。

 その後、MZシリーズ、VRXシリーズと10代のスタッドレスタイヤを経て今年11代目のVRX3が登場した。

 BLIZZAKは発表当初から氷上グリップを目標としてきた。当初のPMシリーズはスノータイヤの影響を色濃く残して今から見るとオープントレッドだったが、最新のVRX3は夏タイヤかと思えるほど、パターンが密になっている。氷上性能を活かすために接地面が広く、これまでのBLIZZAKシリーズで最大のトレッド幅でVRX2に比べると約2%ほど広い。

 その最新のスタッドレス、VRX3にスケートリンクで試乗させてもらった。比較タイヤにはPM-20が用意され、BLIZZAKの進化を体感するプログラムになっている。

 さすがのブリヂストンにも新品のPM-20はなく、作ろうにも金型もない。目の前にあるのは手彫りで作られた貴重なPM-20である。当時の組成に近いゴムを貼り、当時のPM-20を再現させている。

 余談だがPM-20が登場した33年前を思い出すとシットリと氷を掴むブレーキは衝撃的だった。「こりゃ凄い!」と感心したものだ。

 再生PM-20はその時の特徴をよく再現している。走らせるとホイールスピンもするし、制動も伸びるがコントロールのしやすさは変わらない。続いて乗ったVRX3は発進時のグリップが素晴らしく、トラクションコントロールとの相性もよく力強く飛び出していく。続いてABSを効かせっぱなしのフルブレーキ。最後の最後まで減速Gを感じながら停車する。BLIZZAK33年間の進化を体感した瞬間だ。

PM20でのコーナリング。そろそろと走っていますが、速度が上がりません

 コンパウンドではブリヂストン・スタッドレスのコア技術である発泡ゴムの気泡を球から楕円形として、給水量の容量アップでグリップを向上させている。トレッドパターンはシンプルな形状。デザインには遊びがないが最大限のサイプとエッジ量を計算したというのが伝わってくる。

VRX3でのコーナリング。グリップするのでコーナリング速度も速く、舵角も大きくなっています

 また、パターン比較のためにVRX3とそのゴムを使ったスリックタイヤを履いて同じコースを走った。スケートリンクのような氷上ではゴムの効果は大きく、発進、制動とも注意しなければ分からないほどのグリップする。ただ、コーナーではハンドルの効き応答が悪くアウトに向けて滑っていく。VRX3のサイプ、エッジ量の多いパターン効果を実感した。

 ほかにもプログラムが用意されていた。今度はプリウスサイズのタイヤを履いた人力三輪車が2台待っていた。1台は夏タイヤのエコピアのゴム。もう1台にはVRX3のゴムを張り付けてある。円コースをグルグルと回る。

 最初は夏タイヤから。軽くてスイスイと走るが、ちょっと力を入れて漕ぐとすぐにホイールスピンしてしまう。コーナーもスリップアングルをあまりつけないようスルスルと走る。久しぶりの自転車は楽しいゾ。

 次にVRX3のゴムを張り付けた三輪車。「う、ペダルが重い」。なかなか進まない……というか動力源、つまり自分の力不足だ。根性入れて漕いでみると、ホイールスピンすることなく加速する。お、結構速いじゃないか。しかし手を抜く(足を抜く?)とスピードが落ちてしまう。コーナーも案外曲がっていく。楽しくなってきたが外野の飯田裕子さんから「遅い」とか、「もっと力入れて!」とかの励ましに(?)閉口してスタート地点に戻り終了。まさに体感できました。

スケートリンクでの三輪車漕ぎ漕ぎ。VRX3のゴムはグリップするので意外と疲れる。こちらの写真は非発泡ゴムを履いているので軽く漕げます。グリップしないけど。

 別のコーナーにはJEEP型のラジコンが2台用意されていた。片やVRX3ゴムのタイヤ、片や夏タイヤゴムのタイヤを履き、反対方向に同時にスタートさせる綱引きゲームだ。想像どおりVRX3ゴムのJEEPが圧勝したのは言うまでもない。なるほど分かりやすく説明するのに知恵を絞っているんだと感心。ついでにコントローラーを貸してもらい、自由に走らせてみたがセンスがないのを再確認しただけだった。

VRX3のゴムを乗せたラジコンVS夏タイヤゴムを履いたラジコンの綱引き。スケートリンクなので当然VRX3の圧勝

 内容の濃い試乗会が終了し、最後に1人のエンジニアが近づいてきた。BLIZZAKの開発当初からブリヂストンのスタッドレスを支え、いつも親切に解説していただいた山口宏二郎さんだ。いよいよ退職され、VRX3が関与された最後の作品になるという。突然のことに、失礼ながら長い間の戦友が去っていくような寂しさを覚えた。またのご活躍を期待しています。またどこかでお会いできますように。

最近は散歩に連れて行けとミャーミャー鳴くムク。ベランダで鳴くと近所の人が出てくるほどですみません、人騒がせで
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。