日下部保雄の悠悠閑閑

スタッドレスタイヤ試乗会

公道試乗のプリウスやアルファード。試乗会ではなかなか乗れないスタッドレスタイヤのオンロード試乗はそれはそれでよかったです

 木枯らしが吹き、スタッドレスタイヤの季節になった。しかし今年は雪が遅い。北海道でも例年11月に雪が降り、その雪が溶けてから再び降り、それが根雪になるケースが多い。雪国の人には申し訳ないがその根雪になる雪がなかなか降らない。

 ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ、ブリザック VRX3の雪上試乗会でも残念ながら千歳には雪はなかった。しかし特設コースには降雪機による疑似的な積雪路面が作られており、シャーベット状の路面など本州にありそうな路面を経験できた。

 まず特設コースを走る前に乾燥路面での公道試乗だ。北海道の典型的な郊外路でプリウスとフォルクスワーゲン・ポロでの試乗だった。

 最新のスタッドレスタイヤは氷上で氷を捉えるためにトレッド幅が広く、シルエットはSタイヤのように幅広い。

 初期のスタッドレスタイヤは舗装路を走るとグニャグニャで、高速での緊急回避などとてもできなかったが、最新のスタッドレスタイヤはオンロードでも安心して走れる。トレッド面の剛性が確保されて構造のバランスが取れていれば走りやすいのだ。

 ブリザック VRX3はパターン構成から氷上性能に特化しているように見えたが、プリウスでのオンロード性能はハンドル応答遅れのない素直でシットリした舵の効きでベストマッチだった。ゆったりしたレーンチェンジを繰り返しても位相遅れはほとんど感じず。コーナーでの手応えもしっかりして安定感は非常に高い。

 乗り心地はふわりとした感じはないが予想よりしなやかで、上下のダンピングも自然だ。パターンノイズは高周波音が少しあるが、よく抑えられていると思う。195/65R15のプリウスとのマッチングは高い。

 同時に185/65R15のポロでも試乗した。こちらはボディ剛性やサスペンションとの違いもあって、プリウスに比べるとハンドルの反応遅れもあるが特に違和感はない。サスペンションが硬めの設定ということもあり、マッチングではプリウスほどではないがこちらも安心して流れの早い北海道の舗装路を走れる。

 VRX3はタイヤからのフィードバックが鈍感に感じられるように仕上げられており、余分な動きがないのが好ましい。

 いよいよ圧雪路面でのテストだ。シャーベットとのまだらなドライ路面、圧雪まで変化に富んだ路面だ。プリウス(195/65R15)、フィット(185/60R15)、メルセデス・E 200(225/55R17)、レヴォーグ(215/50R17)、デイズ(155/65R14)の5種類のタイヤに試乗した。いずれも圧雪路ではグリップ感は高く、気持ちよく走れ、雪はけも意外なほどよい。

特設コース試乗のコースの一部。主催者とコース管理者の苦労がしのばれます。コース以外に雪はなく苦心の設営です。この後に寒気がやってきて雪が降ったようです

 氷上での制動とコーナリングは以前スケートリンクで確認済みだ。精鋭が揃うスタッドレスタイヤ市場でトップクラスの性能を発揮し、制動時の最後のひと踏ん張りとコーナリングパワーが従来品からさらに進化していた。

 スタッドレスタイヤはモデルチェンジする度に少しずつ進化して、気が付けば現在のスタッドレスタイヤの実力は素晴らしく高い。

 よく出会う路面に轍とシャーベットが混在する路面がある。特設コースの一部に雪だまりとシャーベット路面があったのでコーナーのラインを決めて走ってみた。シャーベット路面で少し滑り気味になりながら轍に乗っていく。速度にもよるが意外と苦手そうなこんな路面でもレベルアップしていることが分かった。ただ氷の性能が高いために路面が急激に変わったシャーベット路面になると滑り方は早く感じられた。

 どのサイズも印象がよかったが、特にデイズではグリップ変化が小さく好感度が高い。VRX3はサイズに応じて3つのパターンを持っており、デイズはストレート溝が3本入る最小パターンでセンター溝が効いているような印象だ。

 またEクラスはサスペンションの初期の動きから緻密に路面をつかみ、滑らかに走るのが印象的だった。リアの滑りも唐突ではなくVRX3との相性もよく安定感がある。実際にはFF車や4WD車の安定性には及ばないが、気持ちにゆとりを持てるのは素晴らしい。

特設コースでの試乗

 ブリザック VRX3にはスケートリンクでの氷と、特設コースでの雪で走ることができた。発泡ゴムの進化、サイプの使い方、パターンに作られたL字ブロックなど、いかにタイヤと路面の間にできる水を排除する技術がキメ細かく使われるかを肌で感じ、最新スタッドレスタイヤの技術レベルを知るよい体験ができた。北海道へのショートトリップだった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。