日下部保雄の悠悠閑閑
レーシングタイヤ勉強会
2024年10月21日 00:00
スーパーフォーミュラにタイヤを供給する横浜ゴムがレーシングタイヤ勉強会を開催した。
スーパーフォーミュラの車体はダラーラ社製SF23のワンメイク。エンジンはトヨタとホンダがサプライヤーとなるが、SUPER GTのGT500クラスでも使われるニッポン・レース・エンジンを採用する。スペックは決められ両エンジンとも性能は均一で2.0リッター直4ターボで550PS以上を出すと言われる。勝敗はフォーミュラらしくドライバーの比率が大きい。
世界で日本のスーパーフォーミュラはどのあたりのポジションかと言えば、F1とF2の中間ぐらいと言われており、富士スピードウェイでの予選ラップタイムは1分21秒台とかなりの速さだ。ちなみにSUPER GTの富士スピードウェイでの予選ラップタイムは1分28秒ぐらいだから、その速さが分かる。
現在のスーパーフォーミュラのタイヤは、サステナブルタイヤとして33%が石油由来でない素材を使っており、燃料もカーボンニュートラル燃料。速さが問われるレースの世界もサステナブルの単語がよく見られるようになった。
近い将来に60%以上が石油由来以外の材料が使われるタイヤになる。そのデモランでテストカーである通称「赤寅」のハンドルを握ったJRP会長の近藤真彦さんが自ら走らせ、その可能性をアピールした。
レーシングタイヤは一般タイヤと違い、レギュレーションの中でグリップとコントロール性を追求したもので、接地面積の確保とコンパウンドによる摩擦力の向上がポイントとなる。
内部構造も一般的なタイヤのような耐久性は必要ないので、通常2プライが1プライになり、トレッド面のゴムも1レースもてばよいので非常に薄い。サイドウォールも同様に薄い。このようなレーシングタイヤの特殊性は結果的に超軽量タイヤになる。外観からすると非常に重そうだが実はとっても軽く、サイズが同じだと60~70%の重さしかない。
タイヤの断面形状、プロファイルは接地面積が最大になるようなラインを引き、マシンに装着した際のキャンバー角度も計算して設計されている。
で、空気圧。レーシングタイヤは接地形状が広いほどグリップが得やすくなるため、空気圧は想像以上に低く、メーカーから“これ以下は危険”という値を指定される。各チームはそれ以上で空気圧を調整し、値を確認した上で封印される。しかもスーパーフォーミュラはシーズンを通じて1スペックなので、チームのデータも重要になる。
特に富士スピードウェイは高速でタイヤにとっても過酷。低すぎるとバーストなどの原因になるため厳重に管理されている。
低空気圧は一般タイヤでもタブーで危険だ。目的と構造が違うとまったく別の世界が広がるものだと思った。
さて、サステナブルなレーシングタイヤにするのはタイヤの構成要素の中で置き換え可能な部材から脱石油化が図られ、前述のように33%を達成している。最初は20%強から始まっていたと記憶するが、やがて60%のシーズンがすぐそこまで来ている。
キャップと呼ばれる接地面のゴムもグリップを落とさずバイオマスオイルや再生亜鉛などに置き換えられ、新しい素材の開発も進む。将来は100%サステナブル素材のタイヤも夢ではない。
しかし、これらは再生可能原料から作られるが総じて高価で供給量も限定的。レーシングタイヤだからこそ可能で、横浜ゴムがスーパーフォーミュラに参加する意義の1つにその技術開発がある。いずれ一般タイヤのカーボンニュートラルの時代に備えるために、スーパーフォーミュラは大きな蓄積ができるに違いない。
スーパーフォーミュラはいろいろな施策を取り入れており、興行的にも急速に盛り上がっている。レースはプロフェッショナルでコンペティティブ。性能の均一化でバトルもいたるところで見られるのだからそれも納得だ。ちなみに今回の観客動員数は6万人と言われ、簡易テントで観戦するプロも多くいて楽しみ方はさまざま。
施策の1つに「SF GO」というスマホアプリがある。ドライバーとチームの無線での会話が聞けたり、オンボード映像が見れたりと観客も一体になって楽しめる。無料コンテンツもあるがサブスクで見た方がはるかに情報量は多く面白い。レースと観客の距離が大幅に近くなった。
モータースポーツの未来が詰まっているスーパーフォーミュラだった。