日下部保雄の悠悠閑閑

夏の終わりを告げるお祭り

神社の御神楽。夜店をブラブラして夕食代わりに焼きそばなど買ってきたが、やはりその場で食べた方がお祭り気分になれる

 秋の気配を感じる頃になると、神社からは御神楽が聞こえてくる。今年はとても秋とは言えない毎日の酷暑で神輿からも湯気が出そうだ。祭りは負けない熱気がある。

 奥沢神社は疫病退散の大蛇祭りだ。藁で作った大蛇が町中を練り歩くのが奥沢の祭り。土曜日は子供神輿が家の前を通る。威勢のいいかけ声に続いて、ウチの孫もトコトコついていく。帰りには大きなお菓子袋をもらってご機嫌だ。そして雨乞いの神様でもあるのか、いつも期間中に1日は雨が降る。酷暑が続く今年もやっぱりパラパラと雨がきた。最近の東京を襲った集中豪雨を連想して恐怖さえ覚えるが、幸い夜店も店じまいすることなく、にぎやかな神社の祭りが続く。

藁で編んだ大蛇を担ぐ大蛇神輿。大蛇を作る後継者が少なくなっていると聞いたが今年も何体かの大蛇さまに会えた

 祭りの最終日、日曜日には町内会から6基の神輿が集まって迫力の掛け声とともに自由通りを練り歩く。担ぎ手は人の熱気と折からの暑さで汗びっしょり。時折、散水機で水をかけられ、汗だか水だかわからなくなっていたが、祭りの熱気はそれを上まわる。神輿を追いかけながら横で見ているだけで、こちらも気分が高揚してくるのが祭りだ。

 外国の人もカメラを向ける。祭り独特のオーラを楽しんでいるようだ。

 比較的交通量もある自由通りも神輿のために1時間以上も通行止めになる。年に一度のことなので自動車も仕方ないなぁと迂回していく。日が沈んでからは「かわいい、かわいい」の掛け声とともに女子神輿も出て、今年のお祭りはお開きになる。

踏切で電車を待つ神輿。奥沢神社に行くには踏切を渡らなければならない。ヒヤヒヤしていたがちゃんと駅員がダイヤを見て指示していた。珍しい光景だった
無事に6基の神輿が踏切を渡って、奥沢神社でお祓いしてもらう大蛇神輿

 翌日はいつもの静かな町に戻りあの熱気はきれいに払拭されてしまった。神輿が通った道は暑さだけが残った。

 ハレの日の風景を書き連ねたのは、ラリーの恩人、タスカエンジニアリングの石黒邦夫さんのことを記しておこうとPCを開いたのに、いろいろな思いが流れて書き進められなかったから。「やすー」とか「やっさん」と呼ぶ声が蘇る。突然の訃報に心の柱が折れてしまったようだ。

 タスカとラリーについて触れるのはもう少し時間がかかる。会えるときに会わないと後悔すると今日ほど思ったことはない。その日は強い雨が降った。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。