日下部保雄の悠悠閑閑
式年遷宮
2026年8月10日 00:00
伊勢神宮は20年に一度、社殿を新しく移築して神様にお移りいただくための壮大な「式年遷宮」が執り行なわれる。
起源は690年、実に持統天皇の御代から続く日本最大の神事だ。昨年から2033年に神様に引っ越ししていただく「遷御の儀」に向けて63回目の式年遷宮の儀が行なわれている。20年ごとに行なうことで技術が継承され、今も古代の優れた建築を見ることができる。
伊勢神宮はご存じのように内宮と外宮に分かれ、別院も14あり、そのすべてが引っ越しとなるので建築ラッシュ。一つ一つの社は今見ると大きくないものの、大がかりな行事である。
その社を建てるご神木を運び上げる本格的な儀式が御木曳きの儀だ。五十鈴川を遡上する川曳き。陸は運ぶ山車がある。今年と来年はその御木曳きの年で、1年に何回か行なわれる。5月の川曳きでは身を切るような冷たさで、ウェットスーツを着用して水に入る方もいたという。夏はちょうど快適な水温だった。
前置きが長くなった。その由緒ある御木曳きの儀に加えていただくことができたのです!
加えていただいたのは3本のご神木をソリに乗せて五十鈴川を遡る川曳きだ。もちろん川の中。スニーカーかな、と軽く考えていたが、「ゴム底は滑る!!」のひと言で裏にフェルトを貼った川用の足袋にした。これで苔が付いた川底の石も歩ける。それにしてもゴロゴロして歩きにくい。
白い上下にお借りした法被(町内会ごとに異なる)を着ると町内会の一員になれたようで誇らしい。
ご神木を乗せたソリの左右に長ーい綱が結ばれており、それを片側100人ぐらいで曳く。ソリの近くは力のある若者が配置され、そこからは老若男女、思い思いのスタイルで綱にとりつく。このグループ(町内会)が5~6組あるのだから、すごい人数だ。
勇壮なほら貝の響きと木遣りの唄に励まされて、エイヤの掛け声で力を入れて綱を曳くと、ご神木はゆっくりと動き出す。人の数の力はすごいもので五十鈴川を難なく遡上していく。古代から伝わる運搬技術の片鱗を見た気がする。
川底は石がゴロゴロしているだけでなく、大きさもさまざま。たまに大きな石やコンクリートの塊もあり、綱につかまって転ばないようにしているが、なんだか本末転倒だな。綱は思った以上に滑り、そもそもロートルは踏ん張れない。ボクの場合は曳くと言うよりも引きずられていると言った方が正しい。
それに傾斜が緩いとはいえ天然の堰もある。人が歩けて水が走るところは狭く、前後は急に深くなっているから、通過場所は限られる。その堰に引っ掛かったり、方向がずれたりして何度もやり直すので渋滞が発生する。どちらかというと、引っ張っている時間よりも川の中で待機している時間が長い。
8月の太陽は容赦ない。川の中でよかったと思っていると、油断は禁物。ご神木の近くから号令がかかり、突然木遣り唄が始まる。スワ! 進軍、いや御木曳きの再開かと思うと様子が違う。ネルぞー! の掛け声とともに正面で綱を曳く人めがけて攻め寄り、綱でバチャバッチャと水面を叩く。何なら手で水をすくって激しい水かけ合戦が始まる! 正面が若者や子供だったりすると危険がいっぱいだ。何しろパワーと真剣度が違う! こちらの綱をつかまれると振り回されて、もうヤバイ。ズブズブのビチャビチャである。これが何回も繰り返されるのだ。真夏の耐久レースで自分のパートを終わったときみたいにぐちゃぐちゃになったが、神事は格別である。
勇壮なほら貝が響き渡ると木遣りのよく通る声とともに御木曳きの再開となる。エイヤ、エイヤの声が森に響く。
「赤福本店」近くに設けられた特別席には愛子内親王がお出でになって、手を振ってくださった。その前では元気よく引っ張ったのは言うまでもない。どの町内もニコニコして声も大きい。皆さん愛子さまファンになった。もちろん私もね。
いつもは清涼な五十鈴川も大勢の氏子が歩くために濁って底が見えない。手探り、いや足探りで五十鈴川を遡上する。しかも堰ごとに水温が違うのも新しい発見だ。同じ川の流れなのになぜだろう。
われわれ中之町は11時ごろスタートして五十鈴橋近くでご神木を陸に上げたのは16時ぐらい。そのまま内宮の鳥居を曳いたまま通過して無事奉納することができた。おまけに普段は参拝できない本殿にも参拝できたのが嬉しい。汗だくだがすがすがしい1日だった。
余談だが、伊勢に着いた前日はおいしい地のものをと思っていたが、甘かった。見事に夕食難民に。いつもの出張のようにコンビニにお世話になった。来年も御木曳きがある。今度は予約しておこう♪
厳かでにぎやかな式年遷宮の儀。貴重な体験ができた8月の始まりでした。








