日下部保雄の悠悠閑閑

ラッコとドライブ

BYDの軽EVのラッコ。軽枠で最大のスペースを取ると似たデザインになる。素直な面構成はハリがあってスッキリしている。金型には日本の技術が活かされている

 日本の国民車、軽自動車は市場の3割を占めている。スポーツカーから2ボックス、ワゴンまで多種多様なクルマが選べる。海外から来た人から見れば日本だけしか見られない「あのチッチャイのはなんだ?」となるだろう。

 4年前、中国から視察にきたBYDの王会長が興味を持ったのは当然だ。しかし軽自動車は日本メーカー5社がしのぎを削っている厳しい市場。生産コストも1車種では厳しい。

 BYDはこの厳しい市場への挑戦を決めてわずか4年、実質的には2年少々で初の軽自動車ラッコを作り上げ、日本メーカーからも大きな注目を集めた。

 発表会の模様を紹介したが、今回は実際にラッコで郊外路から峠道、高速道路と走ってみた。ポイントはX-PACKと呼ばれるコントロールユニットをコンパクトにしてバッテリの前に収めたことで、ボンネット内はモーターと補機類だけで対歩行者のクラッシャブルゾーンも大きく取れている。

 デザインは見ての通り。どこかで見たことがあるトールルーフ軽自動車だが、面がスッキリしていてインテリアもシンプルにまとめられている。

ラッコのテールランプは幅いっぱいに広がったBEVらしいデザインで、軽にとって新鮮
メーターディスプレイは多様な表示ができる。これはタイヤの空気圧を表示しているところ。軽としては珍しい

 試乗したのはRacco 300。2種類あるバッテリの大きいほうの35.8kWhのリン酸鉄リチウムイオンを搭載したモデルだ。車重は1220/1230kg。

 ラッコは全グレードで電動スライドドアを装備した。WLTCによる航続距離は320km(300Plus/300Premium)。仮に実行動半径120kmとしても使い勝手はかなりよい。

 シートクッションは前後ともソフト。特に後席はたっぷりとした感じで長距離でも疲労は少なそうだ。

クッションストロークの大きなリアシート。レッグルームも広いのは軽らしい

 タイヤは165/65R15。一般的な軽自動車サイズ。床下にバッテリを敷くBEVの一般的なレイアウトだが、専用プラットフォームでフロア高は低く抑えられ、ドラポジも自然だ。

 発進は電気らしくグイっとスマートに走り出す。アクセルレスポンスも過敏なところはなく、欲しいときに必要な力が出せる。試乗コースに選んだかなり急な峠道でも苦もなく走れ、タイトコーナーで速度が落ちてからもすぐに力強く加速できる。振動は皆無で、音はインバーターノイズが伝わってくるだけ。一番大きいのはタイヤのロードノイズぐらいである。

 全高1800mm、トレッド1295/1305mmの狭くて背の高い軽にもかかわらず、ロール量が小さくドライバーの視線もずれない。

 ステアリング応答性はタイヤの特性もあり穏やか。アンダーステアは強めだが、重心高の低さがラッコの安定性を決定づけている。

 低重心高と2520mmのロングホイールベースがピッチングの少ない軽らしからぬ乗り心地としている。小型車と比較しても遜色ない。

 ちなみに高速道路ではシンプルなADAS系もなかなかの出来栄え。前車追従性とレーンキープも正確だった。

 欲を言えばもう少しタイヤも含めたダンピングが欲しいところだ。

タイヤはSAILUN(サイルン)。コストパフォーマンスの高さが特徴の中国の新興タイヤメーカー。低コストで作れる技術は侮ってはいけない。サイズは165/65R15のラッコ専用タイヤで、軽市場でも需要がありそうだ

 車両価格は200の214万5000円から300 Plusの239万8000円、さらにアラウンドビューモニターもついた300 Premiumの249万7000円となっており、すべて新開発で装備も考えるとおどろくべき価格設定だった。

 軽自動車という決められた枠の中で日本市場向けに開発、スタートしたBYDの挑戦。なかなか手ごわい。

ラゲッジルームは意外と前後長がある
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。