日下部保雄の悠悠閑閑

パンダ

グランデ パンダ ハイブリッド。左右非対称のフロントグリル、ヘッドライトも含めたピクセルグラフィックが特徴的

 長男が生まれたころ、パンダに乗っていたことがある。

 ある年のCG誌でジウジアーロの手による野心作のAセグメント、パンダが紹介されていた。コンパクトカーならではのシンプルさと楽しさを現実にしたクルマは、他のどのクルマよりも楽しそうに見えた。

「こんなクルマ、日本にはやってこないだろうな」と思っていたが、注目を集めていた小型車だけに、チェッカーモータースの手によって日本にもやってきた。即座に環八沿いの店に走ったのは言うまでもない。

今も強いインパクトを残している初代パンダ。僕のパンダはその後、引き取られて湘南でかわいがられていた

 ハンモックシート、キャンバストップ、平板ガラス、リアサスは板バネのリジッド、わずか0.9リッターのOHVエンジン、etc. しかし、パンダ誕生には緊縮財政の下で徹底的なコストダウンをしなければならないという事情があり、新しい技術は使われていない。パンダは巧みなパッケージングとデザイン力、そして遊び心で新しい独自の存在になった。さすが鬼才ジウジアーロの作品だ。CG誌のページをめくりながら、ワクワクと僕のパンダが来るのを待っていた。

 納車の日、左ハンドルと4速MTのパンダには当惑させられることばかりだった。ポンポン跳ねるサスペンションとハンモックシートの乗り心地はこれまで経験したことのない座り心地。OHVの45PSは振動も音もあり、プラスチック接着剤の匂いがする室内はいかにもフィアットらしい。それでもワクワクさせるパンダって不思議なクルマだ。

 そして冒頭の話。キャンバストップをグルグル巻いてバンドで固定。後席は支点を変えて、ハンモックベッドにしてすやすや寝ている長男を乗せ、初夏の海岸通りをドライブした。日差しが強く、皆で汗をかき、ポンポン跳ねながら決して快適とは言えないキャビンでも、何となく楽しかった。使う側が工夫する分、応えてくれるのがパンダだった。生活を楽しむイタリアらしさ満点だ。

 パンダの最新モデルはそんな初代をオマージュし、コンパクトSUVとして誕生だ。1.2リッターターボエンジン+6速デュアルクラッチトランスミッション、そして48Vマイルドハイブリッドと組み合わせたパワートレーン。

スクエアなスタイルがよくわかるリアエンド

 サイズは4010×1765×1630mm(La Primaグレード)のコンパクトSUVは初代とは比べ物にならない快適さだった。乗員はポンポン跳ねることもなく、荒れた路面も至ってスムーズ。ホイールベースの2540mmを活かして、余裕の後席と広いトランクも稼ぎ出す。

 デザインはパンダの真骨頂。ピクセルデザインのフロントグリルに象徴されるスクエアなデザインは秀逸でなじみやすい。インテリアはパンダの生まれ故郷、トリノのリンゴット工場の屋上に建設されたオーバルコースをモチーフにしたダッシュボードなど、ポイントごとにアクセントを利かせている。いろいろ遊び心満載で、見ているだけで楽しい。

リンゴット工場のオーバルテストコースをモチーフにしたインパネのパネル
メーターディスプレイ
サステナブル素材のダッシュボード。初代パンダもファブリックで楽しかった

 ブレーキタッチや変速時のショックなど、突っ込みどころもあるけれど、今度はどこに行こうかと次の行き先を考えるのがパンダなのだ。

 円安もあって新型車の価格は高騰している。安全対応やADAS系の装備もあって価格アップとなっている。パンダも例外ではない。ICONのスターティングプライスは369万円。試乗車のLa Primaは414万5000円になる。かつての安価な大衆車というわけにはいかないが、生活を楽しむパンダであることは変わらない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。