日下部保雄の悠悠閑閑

スーパーフォーミュラとレーシングタイヤ

横浜ゴムのサポートトラック。ブラック&レッドのADVANカラーは鮮烈な印象を与える。現役時代は心強かった

 スーパーフォーミュラ(SF)が、久々に快晴となった富士山をバックに富士スピードウェイで開催された。

 SFはどのサーキットでも土日の2日間にそれぞれ1ラウンドが設定され、各ラウンドで予選のQ1とQ2、そして決勝レースが行なわれる。チームもドライバーも多忙を極めるスケジュールだ。

 ダラーラ SF23の車体に、トヨタとホンダが供給する2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載し、車両重量は670kg(ドライバー込み)と決まっている。エンジン出力は燃料リストラクターによって制限されているが、それでも550PS以上を発生する。コーナリング精度に優れたマシンがワンメイクで競い、ドライバーとチームの総合力が問われる。

 トップドライバーが集まるレースは激しいバトルが繰り広げられ、レースが始まると目が離せない。1台が独走してしまうことは少ないのだ。特に富士は長い直線でスリップストリームが効果的に使えることもあり、富士特有の面白さがある。

 タイヤ交換が義務づけられた1ストップのレースでは、チームの戦略も見どころとなる。

 そのスーパーフォーミュラにレーシングタイヤを供給している横浜ゴムが勉強会を開催してくれた。前回はSFにおけるレーシングタイヤのサステナブル化がテーマだったが、あれから2年。今回は進化したSF用タイヤと一般乗用車用タイヤの比較も交えたわかりやすい解説が行なわれた。

横浜ゴムの勉強会。左からJRP会長の近藤真彦さん、横浜ゴムの清宮眞二社長、JRPの上野禎久社長

 まずJRPの近藤真彦会長からSFについての話があった。タイヤには競技性とエンターテインメント性を求めているという。ボクの中では、マッチはすっかりモータースポーツ界の近藤さんである。

 続いて上野社長からは、プロモーションについて説明があった。NEXT50プロジェクトでは、将来につながるレースを実現するため、タイヤにも再生可能な素材の採用を求めてきたという。当初の目標だった33%を超え、2025年仕様では46%に向上している。イコールコンディションが求められるワンメイクレースだからこそ、こうした取り組みも導入しやすい。

 また、観戦環境の改善や人材育成にも及ぶ施策によって、幅広い層にレースの魅力が広がっている。結果として興味を持つ人が増え、レースによってはスーパーGTを上まわる観客動員数を記録するまでになったという説明もあった。最近のSFの隆盛はプロフェッショナルの力によるところが大きい。

 横浜ゴムのモータースポーツ開発部長、斉藤英司さんからは、供給するレーシングタイヤについて説明があった。

 SFではドライ、ウェットともに1スペックで、シーズンを通して使えるタイヤが求められる。低温から高温まで対応できるロバスト性、つまり幅広い条件に対応できる性能が重視されるのだ。タイヤウォーマーが認められていないため、早く温まるのもレースの戦略に影響する。

 サステナブルレーシングタイヤは、2025年からはサステナブル素材を46%に引き上げたタイヤを供給しているが、素材を変更してもフィーリングの変化を最小限にとどめ、さらにタイヤの性能向上も図られている。具体的にはウォームアップ性能の向上に加え、補強構造を見直して剛性も変更した。ドライバーの適応やチームの戦略にも影響する変更だが、ヒューマンモータースポーツを標榜するSFの理念にも通じるものだという。

タイヤガレージで出番を待つサステナブルレーシングタイヤ。46%が再生可能素材で、次期はさらにその比率を上げるとされている

 タイヤの開発では走行後のタイヤについて、摩耗やグレーニング(表面のささくれ)、ピックアップ(走行中にタイヤのゴムや路面の落下ゴムが付着する現象)、マーブル(タイヤからはがれたコンパウンドが大きな塊になったものが付着することを指す)などを分析し、車両のセットアップや次期タイヤの開発にフィードバックしている。

 その中でも重要なのが、ドライバーからのフィードバックだ。ドライバーの感覚は非常に鋭く、狙いどおりのタイヤができたときは、開発の醍醐味を感じるという話が印象的だった。

 タイヤは年3回のテストを通じて開発される。次期タイヤの開発もJRPの要請に添って進められるが、スペックの変更は簡単ではない。ドライバーがタイヤの特性をうまく引き出せるかどうかに加え、チームの戦略にも影響を及ぼすためだ。

 さて、乗用車用タイヤとSFのレーシングタイヤでは、目的の違いが明確だ。ドライのレーシングタイヤは最大グリップを確保するために接地面を最大化したスリックである。寿命についても約5万kmの走行を想定する乗用車用タイヤに対して、レーシングタイヤは200kmほどで摩耗してもよい。求められる性能がまったく異なるのだ。

 レーシングタイヤの目的は、何よりもグリップを得ることにある。発熱量も大きいため、熱がこもりにくい素材を使い、ゴムを極力薄くして放熱性を高めている。

 構造面では、上下方向にはしなやかに変形して接地面を確保してグリップを稼ぐ。一方、周方向には強固な構造で、大きな駆動力がかかってもトラクションを確保する。横方向についても、コーナリング時に接地面が変形しすぎないよう剛性を高めている。

 一般的なラジアルと少し異なるのは、ベルトをタイヤの周方向に対して直角ではなく、やや斜めに配置していることだ。主な目的はハンドリング性能の向上で、ハーフラジアル構造とすることで高い剛性と優れたハンドリングを実現している。横浜ゴムでは乗用車用タイヤのADVANシリーズの一部にも、こうした考え方が取り入れられていたように思う。

 初期のラジアルレーシングタイヤはそれまでのバイアスタイヤとは特性が異なり、ピーキーで扱いにくかったと言われる。ドライバーは苦労したようだ。バイアスタイヤは現在も初級フォーミュラで使われており、そのコントロール性のよさが評価されている。

イゴール・オオムラ・フラガ選手。9日のラウンド9のスターティンググリッドで。オレンジ色のマシンが常に戦う姿勢だった

 さて、SFのタイヤサイズは13インチだ。車重の軽いSFでは、ブレーキの大径化にともなうインチアップの必要性が小さく、GTやWECタイヤと比べて小径である。

 サイズはフロントが270/620R13、リアが360/620R13。たっぷりとしたエアボリュームを持つ一方、前述のように目的が明確なため、余分なものをそぎ落として極限まで軽量化されている。SF用のリアタイヤは、わずか8kgしかないという。

 一方、ダウンフォースはF1をしのぐとされ、300km/hでは1500kgfを超える。100Rなどの高速コーナーではおそらくF1よりも速いと言われるほどだ。最高速も富士では300km/hを超える。1スペックのタイヤで、これほど厳しい条件に対応しなければならない。

 SF用のタイヤの空気圧は約100kPa! 低い空気圧は接地面積を広げるためだ。極限のグリップを追求した結果だ。これ以上低いと故障の原因となる。乗用車用タイヤでは最低でも約180kPa、最近では燃費改善のため250kPa以上に設定されるケースも珍しくない。タイヤも使用条件を前提に設計されている。

 速さという目的が決まるとここまで突き詰められるのか。乗用車用タイヤとの違いを知るとともに、構造、コンパウンド、プロファイルのすべてが研ぎ澄まされたレーシングタイヤの姿は美しくさえ思えた。

テスト中にピットに入ってきたJuju選手。電動パワーステアリングとはいえ、強烈な横Gに耐えるのは大変だろう

 勉強会は楽しい1日となった。横浜ゴムさん、ありがとうございました。

夕暮れの富士スピードウェイ。美しいが「戦いすんで日が暮れて」という言葉が思い出されちょっと物悲しい
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。