日下部保雄の悠悠閑閑

砂の中

砂の山で横に滑り落ちたTANK 400のドライバーズシートから。……ヤバイ!

 ダカール・ラリーで砂漠を疾走するクロカン車。サスペンションストロークがたっぷりあり、起伏の大きな砂漠を超ハイスピードで駆け抜ける一方、砂丘からの長~いジャンプをした先で転倒しているラリー車もある。砂漠は冒険に満ちている。

 そんな豪快なアドベンチャーラリーだが、違った意味でドキドキする。冒険は苦手なのである。しかもラリーは注意してもスタックするときはする。クルマを脱出させるのは容易ではない。

 ラリーで言えば、僕らの世代にとってオールド・サファリがベースにあり、スタックも日常茶飯事だったと思う。そして、当時の車両はほとんどがFRで、ナビゲーターがリアバンパーのステップに乗り、トランクのハンガーで体を支えながらクルマを前後にゆする。つまり、トラクションをかけて脱出するための装備も必須だった。また、駆動輪の下に毛布を入れることもあるので車載していた。

 そうなると、ラリーどころではない。幸いそんな目に遭ったことは数えるほどしかなかったが、スタックしてクルマから降りるのはやめようと誓った。

 本当に厄介なのは雪と砂とぬかるみだ。つまりラリーとは限らない。いったんスタックしてしまうと、とんでもなく厄介だ。

 そして話はゴビ砂漠につながる。ショックアブソーバーのTEINの試乗会の舞台がゴビ砂漠だった。車両はもちろん全車クロカン4WD。TEINのサスペンションシステムは、元TTE(トヨタ・チーム・ヨーロッパ)のラリードライバー、藤本吉郎さんの会社だけに、スポーティな方向に仕上げられている。砂の上ではその違いは分かりにくいが、普通のグラベルを走るとよく分かる。

 砂漠の路面はどこも同じように見える。アップダウンが意外と多く、突然崖のように切り立っている場所もあり、アリ地獄のようなすり鉢もある。しかも、登坂では勢いをつけて突進しなければ砂にパワーを奪われてにっちもさっちもいかなくなる。

 こんなとき、下手にUターンしようとすると転倒する危険もあるので、そのままバックするしかない。また、直進しているつもりでも傾斜によって横滑りすることもあり、砂は油断大敵だ。

 丘を登るときは、頂点まで進んでから止めるようにアドバイスをもらった。とはいえ、その先が崖っぷちになっていることもあるので、うかつに前輪を突き出すこともはばかられる。

 試乗車はパワーのあるTANK 400(PHEV)。これまでの試乗ではモーター制御が微妙に行なわれ、面白いクロカンだ。

 クロカン4WDはタフで、大抵のところは行けてしまうが、スタックするときはする。このときもそうだった。

 いくつかの丘を登り、尾根を進んでいたときのこと。左側はすり鉢状になっており、ズルズルと後輪が横に滑りだした。アクセルで逃げようとしたが、あっという間にフロアが砂につき動けなくなった。「やっちゃったな」。

重いドアを押さえながらクルマから出て、後ろに回ったらこんな感じだった

 さらに空気圧を0.8kg/cm 2 まで落としていたことが災いした。横滑りしながら駆動力をかけたことで、リアタイヤがリムから外れる「リム落ち」になってしまったのだ。さすがにこの状態では、いかんともし難い。

 床下の砂をスコップでかき出すが、サラサラの砂はすぐに押し寄せてきて、かき出したそばから埋まってしまう。

TEINの仲間がやってきた。「出せないな、これ」と判断して、レスキューを依頼することにした

 途方に暮れていると、有料の巡回サービスがやってきた。慣れた手順で砂をかき出し、クルマのバッテリから電源を取るエアジャッキを使って、スタックしたクルマを持ち上げて砂から離した。

 次はどうするのかと思ったら、1台ではパワー不足で牽引できないと判断し、仲間を呼び寄せて2台の4WDを牽引ロープで連結して横方向に引っ張り出したのだ。

イベント中、砂漠を巡回しているレスキューが早速やってきた。最初の1台で埒が明かない。2台目から本格的に引き出す準備に入り、最後は3台になってあっけなく引き出してくれた

 見事にTANK 400は砂の地獄から脱出した。おまけにエアジャッキは空気入れに変身し、リアタイヤに空気を充填して、普通に走れる状態に戻してくれた。

エアジャッキはエアポンプに早変わり。リアタイヤは元に戻って何ごともなく走り出した。出口のゲートはこの砂山のすぐ下だった

 慣れているとはいえ、その見切りのよさには驚くばかり。FORD BRONCOに乗った大関・霧島似のドライバーは、事もなげに電子決済を済ませて立ち去った。砂漠の中で……。

 何から何までビックリさせられたゴビ砂漠だった。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。