日下部保雄の悠悠閑閑
ホンダのEV
2026年11月2日 00:00
軽EVが次々と登場している。中国のBYDが日本市場向けに初の軽自動車「Racco」を発表して大きな反響を呼んだのは夏のこと。日本メーカーでは日産・サクラに続き、2025年はホンダ・N-ONE e:が登場。そしてこの10月にはスズキ・e SKYが月間1000台を目標に発売され、軽EV時代の幕が開こうとしている。
e SKYはまだ公道試乗ができていないが、クローズドコースで走った限りでは、軽自動車を知り尽くしたスズキらしく、運動性能も快適性も手堅くまとめられている印象だった。
最新の軽EVは30kWh前後のバッテリを床下に配置し、約300kmの航続距離を確保している。また、EVに適したプラットフォームは、重いバッテリを搭載するため剛性が高い。エンジン振動とは無縁で騒音も格段に小さく、ドライブフィールはガソリン車とは別物だ。特に発進時の力強い加速は、一度体験すると忘れられなくなる。
短距離移動が中心の軽自動車はEVに向いているが、補助金頼みという側面があるのは否めない。ガソリン車の軽は相対的に安価(とはいえ、300万円近い価格になるモデルも少なくないが)。一方のEVは走行コストが充電場所によって変わるという複雑な価格体系が分かりにくい。それでも軽EVは今後、着実に増えていくと思う。
そんな中、異端児が現れた。ホンダの「Super-ONE」だ。N-ONE e:をベースに、かつてのホンダらしさを象徴し、一世を風靡したシティ・ブルドッグを連想させるEVスポーツである。
ブルドッグは、ショートホイールベースと背の高い独特のプロポーションに、ハイブーストターボエンジンを搭載。迫力あるブリスターフェンダーは人気を集めた。コーナリング中に横転するのではないかという声を一掃したワンメイクレースなど、話題には事欠かなかった。他に比するもののない、いかにもホンダらしいモデルだった。
Super-ONEもブリスターフェンダーを採用したことで、軽自動車の枠を超えて小型車となった。価格は約340万円から。国の補助金130万円(令和8年度)に加え、自治体によっては独自の補助金も期待できる。その結果、N-ONE e:との実質購入価格が逆転するという、少々不思議な現象も起きている。それでも、ホンダらしいスポーツEVの登場は歓迎したい。
実は、ホンダのEVに乗るのは今回が初めて。大きめのシートは乗降性がよく、それでいてバケット形状になっている。これだけでも軽を超えるサイズ感がある。
29.6kWhのバッテリは、センタータンクレイアウトで培った空間活用のノウハウを生かし、床を高くすることなく巧みに収められている。そのため、ドライビングポジションもシート位置が高くならない自然な位置になる。
Googleの機能を組み込んだダッシュボード中央の9インチモニターでは、慣れた自分のiPhoneも利用できる。
ステアリングホイールのスポークには、ドライブモードを切り替えるスイッチがある。モードはECON、NORMAL、CITY、SPORTの4種類。さらに、出力を引き上げるBOOSTスイッチも備わる。
これを押すと、通常は47kWの出力が一気に70kWへとアップする。同時にメーターに仮想ギヤ段数やブースト計、タコメーターなどが表示され、排気音を模したサウンドが響き渡り、雰囲気が一変する。BOOSTはスイッチのON/OFFで作動し、自動的に切れることはない。
BOOSTスイッチを押すと70kWに出力がアップするということでガツンとくる加速を予想していたが、もともとモーターの発進力が力強いこともあってか、往年のブルドッグの過激な加速とは違い、よく制御されている印象だ。全開を維持するわけではないので、電力の消費はあまり変わらないという。
SPORTモードとBOOST作動時には、パドルで仮想的なシフト操作が可能。それ以外のモードでは、パドルは回生ブレーキの強さを調整する役割を担う。
エンジニアがジョークを効かせて作り上げたSuper-ONE。しかし、その中身は至極まっとうだ。剛性の高いボディがモーターの高トルクをしっかりと受け止め、タイヤを確実に路面へと押し付ける。
ハンドリングはEV特有の低重心を生かし、ライントレース性が高い。ステアリングの応答性や保舵感もしっとりとしている。直進性も抜群だ。
あのブルドッグのようなステアリングを抑え込むようにして走らせる体育会系の走りとは違う。Super-ONEは、いかにも現代的なスポーツハッチバックだ。
ちなみに、静かな室内にはBOSEのスピーカーが効果的に配置され、ジャンルを問わず音楽を心地よく楽しめる。これも意外な発見だった。
乗り心地は硬めだ。しかし、ガツンと突き上げられるような場面はそれほどなく、バネ上の動きはフラットに保たれている。節度のある硬さで、乗り心地の質は高い。
予想に反してSuper-ONEは、肩肘張らずに毎日乗れるスポーツEVだった。




