GTC 2016

プロ向けVRが、自動車の試作や自動車ディーラーの展示を変える

アウディは、VRによるデジタルショールームをデモ

2016年4月4日~7日(現地時間) 開催

San Jose McEnery Convention Center

GTC 2016の基調講演でIRAY VRをデモするNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏

 半導体メーカーのNVIDIAは、4月4日~4月7日(現地時間)に同社製品の開発者向けのイベント「GPU Technology Conference 2016」(以下、GTC 2016)を、米国カリフォルニア州サンノゼ市にあるSan Jose Convention Centerで開催した。その中でNVIDIAは、同社の最新GPUとなるTesla P100やそれを8つ搭載したスーパーコンピュータとなるDGX-1などを発表した。

 そうした新しいGPUの発表と同時に、NVIDIAはビジネス向けのVRソリューションについてもいくつかの発表を行なった。GTC 2016の期間中に、モバイルワークステーションでVR(Virtual Reality)を利用できる新しいGPU「Quadro M5500(クアドラエム5500)」を発表したほか、IRAY VRと呼ばれる同社のリアルタイムレンダリング用プラグインソフトウェアのVR対応版を6月から提供すると明らかにした。

 こうしたVRは、自動車の試作といった開発段階や、量産、販売段階のエンドユーザーへのマーケティング活動への応用など、自動車産業にとっても取り組むべき新技術となりつつある。

民生向けを中心に盛り上がるVRのHMD、業務用途も注目されるARのHoloLens

 VRとは日本語にすると仮想現実だが、最近デジタルの世界でVRと使われるときには、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)ないしはVRゴーグルなどと呼ばれる、目の前に装着する形のディスプレイを利用して仮想的な世界を3Dに再現する用途に使われることが多い。Oculus RiftやHTC VIVEなど、民生用で数百ドル(日本円で数万円程度)~千ドル(日本円で11万円程度)と比較的安価なHMDが登場したことで、現在ブームと言ってもよいほど注目を集める機器となっている。このVRは、主にPCやコンソールゲームの3Dゲームの延長線上として捉えられることが多く、ゲーム向けや映画など、没入して楽しむコンテンツを再生するパーソナルエンターテイメントデバイスと認識されることが多い。

VR HMDのHTC VIVE。Oculus Riftと並びVR HMDのデファクトスタンダードとなっている

 このVRにかなり近い技術としてAR(Augmented Reality、拡張現実)がある。これはシースルーのディスプレイなどにメッセージなどを表示する形の技術で、例えば画面にマニュアルを表示しながら機械の整備を行なったりすることが可能になる。以前話題になったGoogle Glassや、昨年Microsoftが発表して話題を呼んだHoloLensなどがAR向けのデバイスとなる。

MicrosoftのHoloLens、ディスプレイがシースルーになっていて向こう側が見えることが分かる(2月にスペインで行なわれたMWCで撮影)

試作車の確認をVRで行なえば、場所の制約から解放される

 NVIDIAが積極的に対応を進めているのが、VRのHMDだ。同社のゲーミング向けブランドのGPUであるGeForceシリーズでは、Oculus RiftやHTC VIVEへの対応を進めており、今回のGTC 2016でも、EvelestやMARS 2030などの注目のデモを公開した。

Appleの共同創設者として知られるスティーブ・ウォズアニック氏が試しているのが、MARS 2030という火星環境をシミュレーションしたVRのデモ

 NVIDIAはそうした民生用だけでなく、プロ向けのVR利用についても提案している。NVIDIAプロフェッショナル・ソリューション・ビジネス プロダクトマーケティング シニアディレクターのサンディープ・グプテ氏は、「NVIDIAはこれまでも通常のディスプレイでのVRを訴求してきたが、よりリアルな画面で見せようとすると、かなり大きなディスプレイを用意する必要があった。例えば、ニューヨークとロサンゼルスに拠点がある企業で、ニューヨークにしかそのディスプレイがない場合には、カリフォルニアから出張していかなければいけなかった。しかし、それがVR HMDを利用することができれば、低コストで同じ体験を共有できる」とする。

NVIDIAプロフェッショナル・ソリューション・ビジネス プロダクトマーケティング シニアディレクター サンディープ・グプテ氏

 例えば、自動車メーカーは、現在試作車を実車で作ることをせず、コンピュータの中で写真品質のレンダリング機能を利用してコンピュータ上で作っている。その時に問題になるのはディスプレイの品質で、自動車メーカーによってはそのコンピュータ上の試作車の品質を確認するため、超大型で高品質なディスプレイを導入し、それによって評価をしているところも多い。それぐらいのディスプレイだと実車の大きさと同じ、評価軸がぶれてしまうためそうなっている場合が多いのだ。だが、そうしたディスプレイは一部のオフィスにしか導入されていないので、そのオフィスに行かなければ評価ができないことになる。そこで、それをVR HMDに置きかえれば、没入感は大型のディスプレイと同じようにHMDの中で再生できるので、場所を選ばず試作車の評価ができるようになる。

 グプテ氏は実際の利用例として、Ford Motor Companyの事例を紹介し、VR HMDを利用して、試作車を出来具合を確認している様子のスライドを紹介した。

Ford Motor Companyの事例、デジタル試作車をVRで出来を確認している

 また、GTC 2016の会場ではアウディが、VRを利用したバーチャル試乗のデモを紹介していた。アウディのデモは、VRのHMDを利用して3Dで作成されている自動車のデータにアクセスできるというデモで、従来は2Dのディスプレイで表示されていた自動車の3DバーチャルツアーがVR HMD内で再現されていた。

 アウディの説明員によれば、ターゲットとして考えているのは自動車ディーラーにシステムごと置いて、顧客に実際に乗ったような体験をしてもらうことと、個人でVR HMDを所有しているユーザー向けにインターネット経由でコンテンツとして体験してもらう2つで、いずれも現在は2Dのディスプレイ用に提供しているシステムの置きかえとして検討しているということだった。

アウディのVRのデモ。デジタルショールームをVRで作る。PCのディスプレイよりで見るよりも没入して見ることができ、室内に入ることも可能なため、より実車に近いイメージを感じることができる

 このように、VRは自動車の開発というプロセスにも応用できるし、それが終わって量産、販売の段階になってもバーチャル試乗といったマーケティング活動にも応用できると期待されているのだ。

NVIDIAはVRの利用をより簡単にするPro VR Ready Programや新GPUなど発表

 こうした新しい使い方を提案しているNVIDIAは、どんなユーザーでも使えるように、Pro VR Ready Programと呼ばれる、ビジネスユーザー向けがより簡単にVRを利用するガイドラインを提供している。利用可能なワークステーションPCのリスト、対応する同社のビジネス向けGPU(Quadro)のリストなどを、NVIDIAのWebサイト(英文)で確認することができる。

Pro VR Ready ProgramではVRの推奨環境を紹介している

 また、GPUの性能の制約からVRのHMDを利用することができるのは、デスクトップ側のワークステーションだけだったが、NVIDIAはクラムシェル型のモバイルワークステーションPC向けに、Quadro M5500というGPUを投入することをGTCの期間中に発表している。Quadro M5500は、デスクトップ向けのGPUをそのままモバイル向けの基板に実装した製品で、VRが利用できるだけの高い性能を実現している。MSIのWT72というモバイルワークステーションに搭載されて販売される予定で、米国での価格は5499ドルからとなっている。

MSIのWT72は、モバイルワークステーションながらVRをサポート

 NVIDIAは今後もこうしたプロフェッショナル向けのVRソリューションを拡充していく方針で、6月にはIRAY VR(アイレイブイアール)という、リアルタイムレンダリングエンジンIRAYのVR対応版を投入する。IRAYは、3ds MAXなどの3DソフトやCADソフトのプラグインとして動作し、写真品質のレンダリングをGPUを利用して行なうことを可能にするソフトウェア。そのIRAYをVRに対応にしたのがIRAY VRで、NVIDIAはGTC 2016のフアンCEOの基調講演でデモしている。

 現在、IRAYでリアルタイムレンダリングを行なっているユーザーは、このIRAY VRを利用することで容易にVRを利用できるので、要注目と言えるだろう。

IRAY VRを利用すると、写真品質のリアルタイムレンダリングをVRで閲覧できる

笠原一輝