イベントレポート

【東京モーターショー 2019】小糸製作所、ヘッドライトとセンサーの融合を提案

自動運転技術を支えるセンサー群はヘッドライトと連携することで高効率・高品位化する!?

2019年10月23日 開幕

2019年10月25日 プレビューデー

2019年10月25日~11月4日 一般公開日

東京ビッグサイト 西4ホール(W4102)にある小糸製作所のブース

 10月23日、東京ビッグサイト(東京都江東区有明)で「第46回 東京モーターショー 2019」が開幕した。10月25日はプレビューデー、10月25日~11月4日が一般公開日となる。

 自動車用照明関連のメーカーとして大手である小糸製作所は、東京ビッグサイト 西4ホール(W4102)にブースを出展。自動運転技術を支える非常に興味深い展示を行なっている。

ライトにセンサーを統合することは業界にとってWin-Winだった

 自動運転技術を実現するためには、カメラやレーダー、LiDARなどさまざまなセンサーを車体に実装する必要があるのは想像が付くことだろう。

 こうしたセンサー群は多くの場合、車体のボディの内部に設置されていたり、あるいはボディの一部(たとえばバンパー等)にセンサー群を露出させるようにして実装されていたりする。しかし、この設置手法はあまり芳しいものではない。

 まず、車体の内部に設置する場合、そのボディ材質が金属などであれば、その金属に干渉してミリ波レーダーの電波が真っ直ぐ飛んでくれない。現在、ミリ波レーダーの電波としては24GHz帯や77GHz帯が使われているが、欧州や北米の電波法の規制で24GHz帯が2022年より使えなくなってくる。77GHz帯は金属に強い影響を受けるので、車体内部やボディパネル内側に設置することには少々無理が出てくるのだ。

 車体やボディの一部に開口部を設け、そこに設置する案も考えられるが、走行時の飛び石、泥などで汚れたり破損してしまう可能性がある。

 そこで、今回の東京モーターショーで小糸製作所が強く訴求しているのは「ヘッドライトなどのライトモジュールにそうしたセンサー群を内蔵してしまってはどうですか」というソリューションである。

 ヘッドライトならば、クルマの前方の最も見切りのいいところにレイアウトされるため位置としては完璧だ。自動運転業界では、このヘッドライトの設置位置は「センサー取付位置としては一等地」と呼ばれるらしいが、まさに納得の位置である。カメラであれば左右のヘッドライトに内蔵することで撮影映像から視差情報までを取得できることだろう。必要に応じてヘッドライトの光量までを調整すれば、思い通りの映像を取得できる。

 そして、ヘッドライトにはカバーレンズが取り付けられるため、センサー群を飛び石や汚れから守ることができるのもポイントだ。そしてこのカバーレンズは透明樹脂製であり、金属製ではないため、ミリ波レーダー用の電波照射に影響を及ぼさない。まさにセンサー取付位置としてはうってつけというわけである。

小糸製作所が試作したLiDAR、カメラ、ミリ波レーダー統合モジュール。いずれこれがコンパクト化されてデザインされたライトモジュールに統合されるわけである
センサー統合モジュールがリアルタイム出力した情報を確認することができる

ヘッドライトの汚れ対策は「気液クリーナー」

 ただ、ヘッドライトカバーが汚れたらどうするのか。センサー群そのものを飛び石や泥から守れても、ヘッドライトカバーが汚れてしまっては元も子もない。

 それには小糸製作所が独自開発した「気液クリーナー」が活躍するという。この「気液クリーナー」は、いわゆるワイパーのようなメカニカルな動作でヘッドライトカバーを清掃するのではなく、内蔵された特殊なノズルから噴射される気液で非接触でクリーニングする仕組みとなっている。

 なお、この「気液クリーナー」についての実物のデモや詳細な技術解説は年明けての2020年1月初頭にラスベガスに開催される「CES 2020」で実践するとのことである。

ライトモジュールをクリアに保つための「気液クリーナー」。これについては「CES 2020」にて発表予定だとのこと

 ところで、ヘッドライトにそうしたセンサー群を内包させるのは、センサー群の実装に都合がいいだけではないという。小糸製作所が手がける照明制御にも都合がいいらしい。
 小糸製作所は、過去のモーターショーで雨や霧を避けてスキャン照射することで極力拡散光を抑えて見やすい視界を確保するレーザースキャン型ヘッドライトや、対向車や歩行者に眩しすぎないようにリアルタイム自動配光する次世代ヘッドライトのコンセプトを提案してきたが、照明だけのためにそうしたセンサー群をヘッドライトに搭載するのは、やや過剰なコストアップと言える。

ヘッドライトとセンサー統合モジュールを縦に並べた状態。実際に製品化されるときには形状やサイズも変わってくるはずである

 しかし、自動運転技術実践のための多様なセンサー群がヘッドライトに集約されるのであれば、そのセンサー群からの環境認識情報をそうした次世代ヘッドライトの配向技術に流用できるではないか。これは実質上のコストダウンと言えなくもない。

 小糸製作所ブースの担当者は「ヘッドライトモジュールにセンサー群を統合する」という方向性は、自動車照明を手がける小糸製作所にとっても、自動運転技術を実装したい自動車メーカーにとっても都合がよいため、小糸製作所としては、今後、この方面の製品及び技術開発にどんどん力を入れていくことになるだろう、と熱く語っていた。

 なお、ブースではセンサー群をヘッドライトモジュールに内蔵した際の自動運転車両のコンセプトイメージや、このセンサー統合ライトモジュールがもたらす「道を照らすライト」の概念を超えた新しいサービスソリューションなどの展示も行なっている。実際に、見て触って体験できるブースとなっているので、自動運転に関心がある来場者はぜひともチェックしてみてほしい。なお、例年通り、小糸製作所が手がけた市販車のライトモジュールの実物展示も行なわれている。

小糸製作所のセンサー統合ライトモジュール展示コーナー
車体の側面に設置されるウインカーに統合されたセンサー群でユーザー認証をさせる提案。ユーザー認証のためにセンサーを設置するのはコストアップになるので、自動運転のためのセンサー群を流用するというわけ
ユーザー認証が完了すればドアが開く……というデモ。写真では分かりにくいが地面側には「Welcome」の文字が。確かにレーザースキャン型ライトモジュールであればこのくらいの文字列は出せるかもしれない

トライゼット西川善司

テクニカルジャーナリスト。元電機メーカー系ソフトウェアエンジニア。最近ではグラフィックスプロセッサやゲームグラフィックス、映像機器などに関連した記事を執筆。スポーツクーペ好きで運転免許取得後、ドアが3枚以上の車を所有したことがない。以前の愛車は10年間乗った最終6型RX-7(GF-FD3S)。AV Watchでは「西川善司の大画面☆マニア」を連載中、CarWatchの連載では西川善司の「NISSAN GT-R」ライフがある。ブログはこちら(http://www.z-z-z.jp/BLOG/)。