日産、「CEATEC JAPAN 2008」で最新カーエレクトロニクスについて講演
安全・環境に貢献、通信と連携する技術から次世代技術まで紹介

日産自動車株式会社常務執行役員の篠原稔氏

CEATEC JAPAN 2008
9月30日~10月4日

  日産は1日、千葉県千葉市の幕張メッセで開催されている「CEATEC JAPAN 2008」にて、常務執行役員の篠原稔氏による基調講演「カーロボティクスと通信が拓くクルマの未来」を実施した。

 はじめに、篠原氏はカーエレクトニクスの現在までの発展についてを説明した。自動車は、世界各国の地域を問わずにモビリティ(移動)の大半を占め、生活基盤と経済発展をサポートしている一方で、排出ガスの増加による大気汚染や渋滞、交通事故の増加などの問題が同時に発生。経済発展を続けながらサスティナブルな社会を作るためには、これらの問題の解決を図らなくてはならないとしている。

 この上で、エンジン燃費制御やカーナビゲーション、予防安全技術など、カーエレクトロニクスが自動車の問題解決の手段として活用されており、急速に発展していると説明した。カーエレクトロニクスの発展に伴って、カーエレクトロニクスが担う情報の取得、処理、出力における情報量も大幅に増加しており、車両の通信量は10年間で100倍以上に、車載コンピューターの性能は10年で約40倍に、車載ディスプレイの面積は同社「セドリック」「フーガ」の場合で20年で約10倍に拡大したとしている。また、現在の自動車では全部品の約30%がカーエレクトロニクス系の部品であるとしており、フーガでは約50台の車載コンピューターを搭載しているとのことで、篠原氏は「今後カーエレクトロニクス系部品が自動車部品の半分を占めるようになるだろう」と予測している。

一人当たりの年間移動量の推移自動車におけるエレクトロニクスの役割車両の単位時間あたりの情報量の推移
車載コンピューターの処理能力の推移車載ディスプレイ面積の推移自動車全体の部品における、カーエレクトロニクス系部品の割合

 続けて、同社が開発・提供しているカーエレクトロニクス技術を紹介した。安全技術については、通常運転から衝突までを6段階に分類し、段階に応じた安全技術を提供することで運転者を危険に近づけない、という同社の概念「セーフティ・シールド」を解説。セーフティ・シールドにおいて、通常運転側に近い段階で提供している技術として、自動車4方向のモニター映像から上方視点の映像を生成する「アラウンドビューモニター(AVM)」、先行車との車間距離を関知して接近時に危険を促す「ディスタンス・コントロール・アシスト(DCA)」、車線逸脱を検知して逸脱回避を促す「レーン・ディパーチャー・プリベンション(LDP)」を紹介した。

 これらの技術については、「カーエレクトロニクスの高度化にあわせて、インターフェースの進化も進めてきた」としており、AVMでは人間の感覚を惑わさない映像処理を行い、DCAではペダルに反力を持たせることで減速を促し、LDPではヨーモーメントを発生させることで逸脱回避を促す、という特徴を挙げている。こうした上で篠原氏は、「自動車だけが賢くなるのではなく、自動車と人間が連携できる仕組みを作らなくてはならず、ここでカーエレクトロニクスが活用できる」と語った。

 このほか、セーフティ・シールドの最も危険な段階で適用できる技術として、現在CEATEC JAPAN 2008にて同社が参考出展している、衝突回避技術を搭載したロボットカー「BR23C」を紹介した。BR23Cについて篠原氏は「自動車を開発する上で、動物から学ぶことは多いと思う」としたうえで、「ぶつからない自動車の一つの方向として公開させていただいている」としている。

セーフティ・シールドの概要アラウンドビューモニターディスタンス・コントロール・アシスト
レーン・ディパーチャー・プリベンションDCA、LDP、AVMにおけるインターフェースの進化BR23C

 続いて、同社が提供している通信と連携したカーエレクトロニクス技術を紹介した。通信との連携について篠原氏は、同社の自動車技術の発展に加えて、利用者へのサポートや社会整備なども含めて環境や安全に貢献するという概念「トリプルレイヤードアプローチ」を明らかにした上で、「個々の自動車と社会を通信でつなぐことによって、自動車の価値は格段に向上する。通信は非常に大きなポテンシャルを持っていると思う」とコメント。通信を利用したカーエレクトロニクス技術として、現在カーナビ向け情報サービス「カーウイングス」で提供している、燃費走行を促すサービス「エコ運転アドバイス」や、プローブ情報を利用して渋滞を回避できる「最短ルート検索(DRGS)」などのサービスを紹介した。篠原氏によれば、これらのサービスによって利用者ごとの燃費改善やCO2削減が見られたことから、通信と連携したカーエレクトロニクス技術をもって環境や安全に貢献できるとしている。

 カーウイングスに関連した新技術では、2007年冬に北海道で実証実験を実施した「スリップ発生情報サービス」を紹介。このサービスは、カーウイングス利用者の自動車のABS動作状況を収集し、スリップした事例のある箇所を地図上で示すというもの。また、2008年秋からは、GPSを搭載した携帯電話を持つ歩行者の接近時に、カーウイングス経由で警告を促すサービスの実証実験も開始する予定だという。

 このほか、中国・北京で2008年4月より提供開始している、カーウイングスと同様のサービス「STAR WINGS プロジェクト」も公開した。篠原氏によれば、STAR WINGSは北京を走行する1300台以上のタクシーに搭載されており、タクシーは自家用車より走行距離が多いことから「13万台のタクシーから情報を取得しているようなもので、東京よりも正確な情報が取得できているかも知れない」とのこと。また、STAR WINGS導入車が約3割を上回れば、STAR WINGS未導入車の平均車速も向上し、渋滞解消に繋がるとするシミュレーションも公開した。

トリプルレイヤードアプローチの概要エコ運転アドバイスエコ運転アドバイスを利用したコンパクトカーでの燃費改善効果
最短ルート検索DRGSによって取得された神奈川県内でのプローブ情報DRGSによるCO2削減効果
スリップ発生情報サービスの実証実験結果GPS携帯を利用した歩行者事故の低減
STAR WINGS プロジェクトSTAR WINGSによる平均車速のシミュレーション結果

 通信に関する次世代技術としては、現在CEATEC JAPAN 2008にて参考出展している「ロボティック・エージェント(RA)」を紹介。篠原氏は、カーエレクトロニクスの高度化と、インターフェイスの進化の同時進行が必要だとする考えを強調したうえで、「知能化されたインターフェイス」としてRAを紹介した。なお、講演のテーマにある「カーロボティクス」という文言については、「車とロボットは共通の要素を持っていて、どのように発展するのだろうか」という考えを元に作られたものだという。

 最後に篠原氏は、「もはや自動車はエレクトロニクス商品と言える」とした上で、「CEATEC JAPAN 2008に参加されるような、エレクトニクスに関わっている方々と協力することで、自動車の価値を向上させ、自動車を社会の要素として社会にもっと価値を提供していきたいと思う」と、エレクトロニクス関連企業との連携強化の必要性をを示し講演を終えた。

カーエレクトロニクスと知能化ロボットとの比較カーロボティクスによるカーエレクトロニクスとインターフェイスの進化ロボティック・エージェント

URL
URL:
日産自動車株式会社
http://www.nissan.co.jp/
CEATEC JAPAN 2008
http://www.ceatec.com/
関連記事
【9月30日】「CEATEC JAPAN 2008」自動車関連製品レポート
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20080930_37832.html
【9月30日】日産、ハチのように避けるロボットカー「BR23C」を出展(Robot)
http://robot.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/09/30/1336.html

(編集部:大久保有規彦)
2008年10月1日