沖電気、ITSへの取り組みを説明
観光地での情報提供システムへの応用も


 沖電気工業は2月10日、報道関係者向けに同社のITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)への取り組みを説明した。

 日本でのITSは、IT戦略本部が2006年に策定した国家戦略「IT新改革戦略」に基づくもの。IT技術により交通事故を防ぎ、環境負荷を低減するシステムで、2010年度までに技術を開発し、普及を開始することになっている。これに向けて、2008年度からは日本各地で大規模な実証実験が行われている。また2月25日からは、東京臨海副都心地区で実証実験を公開するイベントが行われることになっており、説明会はこれにあわせて開催されたもの。

説明したのは同社官公システム事業部 無線技術研究開発部 システム創出チーム チームマネージャの浜口雅春氏ITSの目的

 現在のITSを構成する技術は、大きく分けて、「路車間通信」「車車間通信」がある。これらは基本的に、ドライバーに見えないところ(自動車の死角や、見通しの悪い交差点、高速道路の進行方向など)の情報を、通信によりドライバーに伝えて注意を喚起し、安全運転に役立てるためにある。

 路車間通信は、路上に設けられたセンサーや通信機(路側機)が、情報を自動車に送るもので、見通しのきかないコーナーの向こうの渋滞や事故、障害物、路面状況の情報や、制限速度をドライバーに伝える。車車間通信は文字通り車と車が通信するもので、自車の位置や状態を周囲の車に同報送信し、車同士の接触事故を防ぐ。

 この車車間通信には、5.8GHz帯の電波を使い、通信プロトコルとしてはETCなどに使用されている「ARIB STD-T75」をアレンジして用いる。また、地上波TVがデジタル放送に移行してできる空き周波数帯の、710~730MHz帯も使用される。これは5.8GHzよりも700MHz帯の電波のほうが、障害物を回り込む性質が強く、見通しがきかない交差点での通信に有利と期待されているため。

 さて、無線通信を利用した交通システムはVICS、ETC、テレマティクス(G-BOOKやカーウイングスのようなサービス)がすでにある。沖電気工業はすでにETC料金所、スマートETC、ETC予告アンテナの納入で実績があり、ETCによる駐車料金支払いなどの民間応用システムも開発している。また、これまでに行われているITSの実験では、路車間通信用の路側機や、路車間通信装置を開発した。

700MHzは地上波TVがデジタルに移行してできる「空き地」を使うテストコースに模擬市街地を作って実験している様子。こうした見通しの悪い状況でも低い周波数なら通信しやすい
現状ではVICS、ETCなどが実用化されている沖電気はETCで実績がある
スマートウェイ実験では前方障害物情報提供用の路側機を開発車車間通信でも右直事故や左折巻き込み防止システムを担当
沖電気の車車間通信用車載器車載器のさまざまな取り付け方法
今後のITSのロードマップ。自動運転も視野に入れる

 今後は通信の品質とリアルタイム性(即時応答性)を上げることで、安全運転支援から、車車間通信を応用して自動車を隊列走行させたり、自動運転させたりすることで、交通安全と省エネルギーに役立てるロードマップが作られている。

 さらに、交通事故の半数を「車対人」が占めている現状をかんがみ、車車間通信技術を歩行者にも広げることも構想されており、車車間通信機能を組み込んだ携帯電話や、携帯電話に取り付ける車車間通信アタッチメントなどが開発されている。


歩行者用安全携帯端末。携帯電話に歩車間通信機能を実装したこちらは既存の携帯電話に取り付ける歩車間通信装置
歩車間通信による安全運転支援

 また、これまでの車車間通信が安全を目的としたものであるのに対し、同社は「快適系車車間通信」も提案。観光地のレンタカードライバーに対し、安全情報を含めた交通情報や観光情報を通信で提供し、不慣れな土地での運転を支援するもの。観光地はネットワークにつながった路側機を設置しにくい場合があるため、営業所で最新の情報を得たレンタカーが、路側機の近くを通ったときに路側機内の情報を更新する、つまり車が情報を路側機に運ぶ技術などが盛り込まれる。

 これは現在、沖縄のユビキタス特区において「ISLAND(Integrated Spot Locally Assist & News Delibery)システム」の名称でサービスを提供するべく、開発が1月に着手された。

 快適系ではこのほかに、車車間で画像や動画をやり取りするサービスなども考えられており、こうしたエンターテインメント系サービスと一緒に、安全系のITS装備を普及させる構想もあると言う。

沖縄ユビキタス特区では、ISLANDシステムによる観光情報提供サービスが計画されている車が独立した路側機に最新の情報を運ぶ

(編集部:田中 真一郎)
2009年 2月 10日