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Synaptics、リアルタイムに画像処理するディスプレイ制御ICなど2製品説明会

生体認証、タッチディスプレイ向けのコントローラIC市場、自動車向けに注力

2016年10月13日 開催

色補正(CE)、ローカルエリアコントラスト自動最適化機能(LACO)、外光対応補正(SRE)などの画像補正技術を搭載する自動車向けのディプレイ駆動IC(DDIC)「R6A354」のデモシステム

 ノートPCのタッチパッドや、スマートフォンのタッチディスプレイのコントローラICのベンダとして知られているSynaptics,Inc(以下Synaptics)は、10月13日に東京都内で記者会見を開催し、スマートフォンディスプレイ向けのタッチ・ディスプレイ駆動IC(TDDI)の新製品「TD4303」、自動車向けのディプレイ駆動IC(DDIC)となる「R6A354」を発表した。

 いずれの製品も、2015年に同社がルネサスエレクトロニクスから買収したルネサスエスピードライバ(RSP)の知的所有権(IP)が利用されている製品で、自動車向けのR6A354は色補正(CE)、ローカルエリアコントラスト自動最適化機能(LACO)、外光対応補正(SRE)などの画像補正技術を搭載しており、カメラの画像を直接ディスプレイに出力する際にGPUを使わなくてもリアルタイムに画像処理を行ない、高い品質の画像を遅延なく表示することが可能になる。

ノートPC向けのタッチパッドメーカーから発展したSynaptics

Synaptics 上席副社長 兼 スマートディスプレイ事業部 事業本部長 ケヴィン・バーバー氏

 Synaptics 上席副社長 兼 スマートディスプレイ事業部 事業本部長のケヴィン・バーバー氏は、会見の冒頭にSynapticsが置かれている現状について説明した。

 Synapticsは、これまで主にノートPCのタッチパッド(ノートPCのキーボードの手前についているパッド型のポインティングデバイス)の主要なサプライヤーとして知られてきた企業。

 同社のタッチパッドは多くのPCメーカーで採用されており、競合他社に比べていち早く最新の機能を取り込むなどで知られている。近年では、iPadのようなタブレットや、ノートPCでもタブレットの機能を持つ「2-in-1」デバイスと呼ばれているタブレットとノートPCの両方の機能を持つ製品へ主流が移り変わる中で、タッチ機能を制御するICなどのビジネスへも進出しており、その延長線上として、液晶ディスプレイの表示を制御するディスプレイ駆動IC(DDIC、Display Driver IC)のメーカーであったルネサスエスピードライバ(RSP)を買収して、その資産を活用してタッチ制御とディスプレイ駆動の両方の機能を持ったTDDI(Touch and Display Driver Integration)と呼ばれる製品をリリースして、スマートフォンメーカーなどに提供している。

Synapticsの概要

 バーバー氏は、Synapticsが現在注力している市場が生体認証、タッチディスプレイ向けのコントローラIC市場、そして自動車向けの3つだとして、それぞれの市場におけるSynapticsの取り組みに関して説明した。

Synapticsの成長事業

 バーバー氏は「生体認証の市場は、今後5年間に年率52%の成長をしていくと予測されている。現在使われいるようなコンシューマ向けだけでなく、金融取引のような用途などにも使われるようになる。現在利用されている指紋認証に加えて、虹彩認証、音声、顔認証など複数の要素が使われるようになる」と述べ、今後生体認証の市場が大きく成長すると説明した。

 スマートフォンやPCなどのベンダは、従来ユーザーの認証に利用されてきたパスワードを生体認証に置き換える取り組みを行なっており、今後はそうしたスマートデバイスだけでなく、金融取引や自動車でのユーザーのパーソナライズ化などにも利用されるとバーバー氏は指摘した。

生体認証の市場可能性

 Synapticsが提供する指紋認証は、ガラスの下で認証機能を行なう”アンダーガラス認証機能"に対応しており、既に300μmという薄さのガラスを通した指紋認証が可能になっている。今後12カ月以内には、そのガラスの厚さが800μmになっても認識できる製品を提供する予定で、24カ月以内にはインセルディスプレイ方式と呼ばれるタッチ・ディスプレイ駆動IC(TDDI)に指紋認証の機能を統合した製品を投入する予定だとバーバー氏は説明した。

生体認証製品のロードマップ

タッチ、ディスプレイ制御のICが1つになったTDDIの最新製品となるTD4303

 バーバー氏は「スマートフォン用のディスプレイ市場では2つのトレンドがある。1つはTDDIの普及が進み、2019年にはスマートフォンの大半でTDDIが使われるようになる。2つめは、2020年までにOLEDパネルの採用が7億台を超える見通しだ」と述べ、今後スマートフォンディスプレイの市場ではTDDIを採用した液晶ディスプレイとOLEDが成長していくだろうという見通しを明らかにした。

ディスプレイ向け制御コントローラ市場の市場動向

 そうしたTDDI向けの新製品としてTD4303を発表した。バーバー氏によれば、TD4303は従来から同社が提供してきた完全インセル(AMP)方式と、ハイブリッドインセル(HIC)方式の両方をサポートするタッチ・ディスプレイ駆動ICで、現時点では両方式を同時にサポートするTDDIとしては唯一の製品になるという。バーバー氏は「2年前にRSPを統合して、従来のSynapticsとRSPそれぞれのIPを融合させた製品になる」と述べ、RSPの買収による効果が出た製品だと強調した。

Synapticsが発表したTD4303

 また、サムスン電子などが先行し、パネルメーカー各社が今後の投入を目指して開発を行なっているOLED(オーレッド、有機ELディスプレイ)に関しても、今後OLED用のディスプレイ制御ICの開発などを行なうべく投資していることなどを説明した。

OLED向けの製品拡充へ投資を行なっている
Synapticsのスマートフォン向け製品

入力された動画の処理をディスプレイ側でリアルタイムに処理を行なうR6A354

自動車向けの製品には成長の余地がある

 3つめの成長事業である自動車事業に関しては「自動車向けの市場は急速に成長している。自動車の出荷台数そのものは変わっていないが、アプリケーションが大きく変わっている。1996年の高級車はアナログメーターとボタンから構成されていたが、2016年の高級車はデジタルディスプレイ、タッチセンサーなどが装備されており、今後もそうした要素は増えていくだろう。弊社の強みである生体認証やディスプレイソリューションなどを提供できる」(バーバー氏)と述べ、自動車メーカーがディスプレイ制御IC、指紋認証を利用したパーソナライズ化、ARなどの興味を持っており、そこにSynapticsにとってのビジネスチャンスがあるとした。

1996年と2016年の自動車のコックピットの違い

 そうした自動車向けの具体的な製品として、DDIC(ディスプレイ制御IC)となる「R6A354」を発表したことを明らかにした。

 SynapticsによればR6A354はローカルエリア・コントラスト自動最適化(LACO)、外光対応補正(SRE)、白色点と6軸色相の独立補正、10億色などの特徴を備えており、15型までのHDからFHDまでの解像度に対応しているほか、複数のDDICを連結することでより広い解像度をカバーできるという。

 会場で行なわれたデモでは、LACO、SREなどの機能を利用して入力された映像をリアルタイムに処理して表示する様子などが示された。例えば、カメラから入力された映像から他車のライトだけを減光して見やすくしたりなどの処理を遅延なくできるとのことだった。

バーバー氏のプレゼン資料