ニュース

BMW 100周年のフィナーレ「BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept」発表会リポート

テクノロジーにより、プロテクションギアなしでも安全にライディング

2016年10月11日 (現地時間)開催

BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept

 2016年は、BMWグループにとって創業から100周年を迎えた特別な年だ。今年3月、本拠地ミュンヘンで創業100周年を祝う巨大イベントを開催し、BMWブランドの将来を見据えた「BMW VISION NEXT100 Concept」を発表した。

 これを皮切りに、6月にはロンドンで「MINI」と「ロールス・ロイス」の「VISION NEXT100 Concept」を発表し、今回、10月11日(現地時間)にモーターサイクル部門のモトラッドから「BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept」を登場させることで、1年に渡って開催された100周年イベントがグランド・フィナーレを迎えた。

有名バイク・ビルダーとのコラボによるコンセプトが市販化

 これに先立って、前日にはモトラッド部門を率いるシュテファン・シャラ社長が“バガー・スタイル”の「K1600B」を発表する記者発表を行なった。今春にイタリアで開催されたヴィラ・デステで発表された「コンセプト101」の市販版であり、その原型はモトラッドのデザイン部門と米BMWデザインワークスに加えて、有名バイクビルダーのローランド・サンズ・デザインが手を組んだ意欲的なコンセプトモデルだった。モデル名の「101」は、1.6リッター(=約101キュービックインチ)の排気量を持つ直列6気筒エンジンに起因する。

K1600B

 BMWのモーターサイクルの代表格といえば、「GS」シリーズのようなエンデューロだが、近年、ファッション性の高い「RnineT」や、インド工場を新設して「G310R」のような400cc以下の中型の生産にも進出し、先日のパリサロンでは航続距離を伸ばした新型「eエヴォリューション」を発表するなど、精力的にラインアップを拡充しつつある。

「インド、タイに加えて、ブラジルでも生産をします。2015年は、13万6000台を越える成長でした。アメリカとブラジルではマーケットシェアを2倍にし、世界経済が停滞する中でも20万台メーカーへの成長を目指しています。そのために、モーターサイクルにおけるプレミアムセグメントをターゲットに据えて、フルラインアップを目指して拡充しています。今回の『K1600B』についても、アメリカ市場に特化した製品というより、アメリカン・テイストを取り入れた製品で、ラインアップを広げる意味合いを持ちます。もちろん、安全性において、BMWの基準を緩めるつもりはありません」と、モトラッド担当取締役を務めるペーター・シュヴァイツェンバウワー氏は言う。

 BMWは過去にも「R1200C」というアメリカン・ツアラーを販売していたが、パワー不足とされて販売は振るわなかった。当時、この分野に適したエンジンがなかったため2004年に生産を中止したが、今回は、最高出力160HP/7750rpm、最大トルク175Nm/5250rpmを発生する直6エンジンを積む「K1600」をベースに、“バガー・スタイル”にアレンジしたゆえに、パワーの点では十分な実力を持つ。モデル名の最後に付く「B」は、当然ながら、Baggerを意味する。ベースモデルと異なる主な点は、フロント・ウィンドウスクリーンを低めて、リアフレームを低めることでタンデムシートを7cmも下げたことだ。リアエンドに2本出しのクロームメッキ・サイレンサーを備える点も、外観の違いに大きな影響を与えている。

 同時に、安全基準の高さはBMWならではだ。クラッチ操作なしで変速できる「シフトアシスタントプロ」なるライダー支援の充実に加えて、電子制御サスペンションにダイナミックESAを装備し、ダンピングを自動で調整する2種のモード(ロード/クルーズ)や電動調整式ウィンドスクリーンが備わる。万が一の事故に対応するインテリジェトエマージェンシーコールがオプション設定される点も、特筆に値する。

100周年を祝うイベントのグランド・フィナーレ

BMW AG CEO ハラルド・クルーガー氏

 いち夜明けて、いよいよ、100周年を祝うイベントのグランド・フィナーレが、2015年、CEOに就任したハラルド・クルーガー氏の挨拶とともにスタートした。

「米ノースカロライナ工場では、Xシリーズの70%を生産しており、『MINI E』のような次世代モビリティのローンチを初めて行なった地域でもある。アメリカは市場として重要な位置を占めるだけではなく、BMWの重要な生産国でもあり、本国ドイツ、中国、英国と世界各地を回って開催してきたBMWの100周年を記念するイベントのグランド・フィナーレを飾り、21世紀に向けたモビリティの挑戦を発表するのにふさわしい土地だ」と、このイベントをアメリカで開催する重要性を強調した。さらに、将来のモビリティに求められるものを「ACES=Automated,Connected,Electrified, and Shared」の4つだとして、今後のBMWの戦略である「Number ONE>NEXT」に盛り込む方針だ。

BMWグループのチーフ・デザイナー エイドリアン・ファン・ホーイドンク氏

 今回、新たに発表される次世代のコンセプトモデルは、モーターサイクル部門であるモトラッドの将来を見据えた「BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept」だが、これを持ってすべての部門の将来コンセプトが勢揃いすることもあって、チーフ・デザイナーを務めるエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏があらためてこの1年を通して発表したコンセプトモデルの解説を行なった。

 これまで発表されたBMW、MINI、ロールス・ロイスの将来を占うコンセプトカーではすべて、電動化、コネクティビティ、自動化、シェアの技術が盛り込まれている。ただし、その解釈がそれぞれのブランドごとに異なるのがユニークだ。例えば、「BMW VISION NEXT100 Concept」は、究極のドライバーズマシンを標榜する。2つの走行モードを持ち、ブースト・モードでは“駆け抜ける歓び”を堪能し、Ease(イーズ)モードでは自動運転に切り替わって、ステアリングホイールが収納されて安全かつ快適に目的地まで運んでくれる。

 最大の売りは、ダイナミック・ホイール・アーチなる機構で、タイヤを覆う特殊な素材により、タイヤがカバーされたまま、ステアリング・ホイールを左右に切れる。それゆえ、空力特性が格段に向上する。パワートレーンについて言及はされていないが、“高効率化されている”とされる。BMWの次世代戦略に則れば、電動化される可能性は高い。もう1つの見どころは、フューチャー・インテリアと呼ばれる室内空間だ。ウィンドウスクリーンがディスプレイとなって、様々な操作が可能になる。ホーイドンク氏いわく、「将来の『5シリーズ』は、このようなクルマになるかもしれない」という。

「MINI」では、パーソナライゼーションを強調したコンセプトを打ち出している。オンラインで車車間通信をしたり、複雑な機能もシンプルに使えることが重視される。外装で、それぞれ“自分のMINI”として個性を持たせることができる。ロールス・ロイスでは、究極のショファー・ドリブンとして、自動運転による“ショファーレス”を提案した。後席だけのリラックスした空間が特徴だ。フライング・ビューティーのモデルとして知られる“エレノア”の名前を持つVR秘書に望みをを伝えると、自動運転で快適に目的地に到着できる。後席だけのリラックスした空間が特徴だ。

Motorrad VISION NEXT100 Concept
サブタイトルとしてThe Great Escapeを示した

 そして最後に、ようやく、今回の主役が登場した。モトラッド部門の将来を占う、約50年後のモーターサイクルを表現した「Motorrad VISION NEXT100 Concept」である。“The Great Escape”なるサブタイトルが付けられている。

「モーターサイクルに乗ることは、自動車以上にライフスタイルとしての選択肢であり、イノヴェーションはライダーを助けるために活用されます」と、ホーイドンク氏は語る。

 斬新なのは、ライディングを“自由のための選択”と位置づけて、最先端の技術によってプロテクションギアなしでも安全にライディングできるという設定だ。例えば、技術的に見れば、自動運転の技術を活用すれば、仮想でライダーを保護するシールドを設けることもできるだろう。また、デジタライゼーションについても、ライダーのスキルに沿って必要な情報を提供するなどが可能になるはずだ。

 具体的にコンセプトモデルを見ていこう。アニメ映画「AKIRA」の中に登場するような未来的なデザインだが、実はBMWのモーターサイクルの伝統に基づいている。黒いトライアングルは、1923年に設計された「R32」からの引用である。また、ボクサーエンジンを彷彿とさせる形状のパワートレーンを搭載する。将来を見据えたコンセプトゆえに、ゼロ・エミッションという設定だ。ただし、パワートレーンの詳細は言及されていない。エンジン・ブロックが伸び縮みすることで、走行中の空気抵抗を減らす効果を生む。

BMW Motorradのチーフ・デザイナー エドガー・ハインリッヒ氏

 つや消しブラックのエクステリア素材にはカーボン複合材を活用している。金属からカーボンへと素材こそ変われど、ブラックのボディもまた、BMWのモーターサイクルの伝統だ。加えて、フェンダーやシートにも、カーボン複合材がふんだんに奢られている。もちろん、BMW iシリーズで得られたカーボン複合材の知見を活用したものだ。モトラッドのチーフ・デザイナーであるエドガー・ハインリッヒ氏いわく、「デザインにあたっては、風を感じ、ライダーが自由であることを重視した」という。

 コネクティビティについては、デジタルコンパニオンなるガイドが必要なシーンにのみ現れて走行をガイドする。注目すべきは、ライダーのスキルに合わせてガイドの制限が変化する点だ。1例として、初心者ライダーのためにはコーナーへの侵入や水平を保つラインをガイドし、スキルの高いライダーであれば走る楽しみを邪魔しない。ただし、万が一の事故に備えて、限りなく限界に近づいたシーンに限ってガイドを行なう。タンク部分にデジタルマップが投影されるなど、ライディングをより自由にするためのサポート機能も持つ。

 もちろん、ライダーなしではモーターサイクルのコンセプトは完成しない。将来のバイク乗りは、プロテクションギアなしで守られることを前提に、ファッションの視点と機能性を融合したライディング・ウェアを装着する。

 BMW Motorradの最初のモデルである「R32」や、コアコンピタンスであるボクサーエンジンへのオマージュに加えて、現在の同ブランドが重視する安全性の高さを備えつつ、将来、テクノロジーによって、自由なライディング体験を取り戻すことを目指す。それが、BMW Motorradがこのコンセプト・モデルで目指す“未来”なのである。