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GT-R元開発主査・水野和敏氏が率いる台湾 Luxgen、SUV「U6」シリーズのビッグマイナーチェンジ説明会

東名エンジン、アイシン、ビルシュタイン、レイズ、ブリヂストンが開発に参画

2017年11月2日 開催

Luxgen(ラクスジェン)ブランドのSUV「U6」シリーズのビッグマイナーチェンジモデル試乗会がオートポリスで行なわれた

 台湾 裕隆グループが展開する自動車ブランド「Luxgen(ラクスジェン)」は11月2日、オートポリス(大分県日田市上津江町)においてSUV「U6」シリーズのビッグマイナーチェンジモデル試乗会を開催した。

 Luxgenは、裕隆グループの企画&開発会社である華創車電技術中心(HAITEC)が開発を行なっている、2009年に立ち上がった自動車ブランド。現在セダンからミニバンまで計7モデルを展開しており、今回試乗会が行なわれたSUVモデルのU6シリーズでは、標準車の「U6 GT」とともにスポーツシリーズの「U6 GT220」を展開している。

 その華創車電技術中心の副社長であり、日本法人である華創日本の代表取締役 最高執行責任者(COO)を務めるのが、“ミスターGT-R”こと日産自動車でR35 GT-Rの開発主査を務めた水野和敏氏だ。水野氏は2013年3月に日産を退社後、2014年9月に華創車電技術中心へ入社。以降、日本と台湾を行き来しながら車両開発に従事している。

 水野氏が入社してから掲げたのは、台湾と日本の双方で開発を分担しながら高いレベルの商品を作り出す「開発圏方式」という開発方法。日本の裾野の広い自動車の総合基盤開発技術と、台湾が持つ優れた電子技術や質の高い人材、比較的安価なインフラ基盤などを融合して開発していくという手法で、台湾では生産仕様車や電子技術関連の開発、耐久&実用性などを、日本ではプラットフォーム&先行試作車の開発、操安乗り心地や新機構性能の開発をオートポリスを主体として行なっているという。

 今回、水野氏が手掛けた「U6」シリーズのビッグマイナーチェンジにおいては、水野氏がこれまでGT-R開発チームなどで培ってきた関係をいかんなく発揮し、「欧州トップブランドを凌ぐクルマを作る」ことを目指して開発ドライバーに鈴木利男氏や田中哲也氏を起用するとともに、エンジンに東名エンジン製を、トランスミッションにアイシン製を、サスペンションにビルシュタイン製(U6 GT220)を、ホイールにレイズ製(U6 GT220)を、タイヤにブリヂストン製を採用するなど、大幅な変更が行なわれた。

 この試乗会に先立ち、水野氏から新型U6シリーズの説明会が行なわれたので、本稿ではその模様をお伝えする。

スポーツシリーズとして新設定された「U6 GT220」。ボディサイズは4640×1825×1610mm(全長×全幅×全高)、ホイールベースは2720mm。U6 GT220では専用設計のビルシュタインサスペンションやレイズ製19インチアルミホイール、ブリヂストン「DUELER H/P」(225/45 R19)を装着
U6 GT220が搭載する直列4気筒DOHC 1.8リッターターボエンジン。最高出力は222PS/5200rpm、最大トルクは31.6kgm/2000-4500rpm(ピーク値は33.6kgm/2000rpm)
標準車「U6 GT」のボディサイズは4630×1825×1620mm(全長×全幅×全高)。足下は18インチホイールにブリヂストンのオールシーズンタイヤ「エコピア H/L 422 Plus」を組み合わせる
U6 GTの直列4気筒DOHC 1.8リッターターボエンジンは最高出力202PS/5200rpm、最大トルク30.6kgm/2000-4000rpm(ピーク値は32.6kgm/2000rpm)を発生
エンジンではインテークマニホールド、エキゾーストマニホールド、インジェクター、ピストンに至るまで、ブロック以外ほぼすべてを新規開発したという
U6 GTのショックアブソーバー
U6 GT220のビルシュタインショックアブソーバー
U6 GTのブレーキシステム
U6 GT220のブレーキシステム
前後左右にカメラを設置し、ボディ周辺360度の俯瞰画面などを車内の12インチモニターで確認できる
ブリヂストンと共同開発したU6 GT220向けの19インチタイヤ「DUELER H/P」(左)と18インチタイヤ「エコピア H/L 422 Plus」
DUELER H/P
エコピア H/L 422 Plus

SUVをサーキットで開発する理由

GT-R開発チームを彷彿とさせるメンバーがU6シリーズの開発に携わった
Luxgen 總經理(ゼネラルマネージャー)を務める蔡文榮氏

 説明会に先立ち、Luxgenで總經理(ゼネラルマネージャー)を務める蔡文榮氏が登壇し、「Luxgenブランドが設立されてから5~6車種を開発してきて、市場シェアは約4%。現在ブランド力を高めるべく努力している最中です」とブランドについて紹介。

 また、U6シリーズについては「Luxgenブランドで一番売れているメインの商品で、2014年に発売し、初年度にカー・オブ・ザ・イヤーを台湾で受賞しました。これまでに約4万台を販売しており、このような成績があるうえで今回のマイナーチェンジは非常に重視しています。台湾の消費者はドイツ車の操縦性や動力性能を素晴らしいと思っていて、さまざまな台湾市場の反応を見て勉強させていただきながら、最終的にU6をドイツ車の操縦性と台湾の知恵を結集した車両にしていきます」。

「今回の開発では世界各国の有名ブランドの部品メーカーに協力いただき、エンジンは東名エンジンと、ショックアブソーバーはビルシュタインと、ホイールはレイズと、タイヤはブリヂストンと開発を行ないました。有名メーカーと協力するにあたって一番重要なのは取りまとめ役となる開発チームで、水野さんがリードしています。オートポリスでの開発で、クルマの性能をもっと高めてまいります。U6シリーズの操縦性と安全性、乗り心地、動力性能を高めたのが今回のモデルになります。水野さんに来ていただき、U6シリーズはますますよくなります」と、開発の概要について紹介した。

GT-Rの発表会などでもボードを使って説明を行なっていた水野氏。久しぶりにその姿を見ることができた

 次に登壇した水野氏からはU6シリーズについての説明が行なわれた。はじめに水野氏は、U6シリーズの開発を台湾のARTCテストコースおよびオートポリスで行なっていることに触れ、オートポリスを開発拠点にした理由について「GT-Rのときは仙台ハイランドで開発を進めていました。その理屈ははっきりしていて、GT-Rをハイランドで車両のセッティングをするとそのままニュルブルクリンクで使えるから。ニュルとの共通性でハイランドを使ったのです。今回はSUVなどを開発していくときに、市販車として開発するには実はオートポリスが向いているのです。アップダウンがあったりヘアピンがあったり、ブラインドがあったりなど、ドイツなどのカントリーロードや高速道路を想定するのにちょうどよいのです。もう1つは敷地内にレイクサイドというやや荒れた(路面の)ショートコースがあり、乗り心地や実用性、ロードノイズ、ハンドリングなどを見るのにちょうどよい。さらに誘導路、連絡路では山岳路として見ることができるのです。メーカーのテストコースというのはフラットで、まったいらなところでクルマの開発をしていていいのかというのが僕が1年中言っていること。ARTCでは法規や耐久性の対応などを、オートポリスでは運動性能やクルマの楽しさなどを開発しています」と、開発を2拠点で行なっていることを説明。

 そして「『なんでSUVをサーキットで開発しているんだ、お前まだサーキットかぶれしているのか』と言われるかもしれませんが、例えばU6でオートポリスを走ると、ブレーキGは1.1Gくらい、旋回Gも1.2Gほどになり、こういう過酷ななかで色々なものの動きや制御を確認していかなければいけない。ましてやこれから自動運転化されるともっともっと機械に頼ることになります。そのときにクルマの動きと電子制御をどうリンクさせていくのか、僕はここをもっと真剣にやらなければいけないところだと思います。将来を見据え、高いスタビリティのところでクルマを開発する、こういうことが必要だと思っています。自動運転ともてはやしていますが、しょせん機械は制御しているだけであり、制御の限界が何で決まるかと言えばクルマの持つ運動限界。みんなこの運動限界に入らずして、制御の話だけで“自動運転でクルマは安全だ”と考えているのならば、僕は大間違い、ふざけるなと言いたい。機械に頼れば頼るほどクルマが持つ運動性能の懐がもっと大事になってくるのです。だから(サーキットを用いる)こういう開発をやっていかなければならないと思う」と、サーキットで開発を行なう意義について説く。

開発は台湾のARTCテストコースおよびオートポリスで行なっている

 また、オートポリスにおける開発内容については“GT-Rよりも進んだ”車両の総合開発システムを用いていると述べるとともに、「ガレージのなかにはショックアブソーバーのチューニングルームを作っちゃいました。おそらくサーキットにビルシュタインを含めてショックアブソーバーの開発ができる設備を作ったというのは、世界でも僕らだけなんじゃないか。もちろん、これから電気自動車(EV)など色々なものが出てきたときに向けた設備を、このガレージの中に作っています。そういう意味で、テストしているだけじゃなくGT-Rよりも2歩も3歩も進んだサーキットでの開発体制を作ってあります」と、万全の態勢で開発に望んでいることを報告した。

 さらに、「オートポリスは冬は非常に寒く、雪上試験などもここで行なっています。本当の試験は中国の山奥でやっていますが、一般的な雪上性能試験はここでも行なえます」とし、標準車のU6 GTではブリヂストンのオールシーズンタイヤ(エコピア H/L 422 Plus)を採用していることを報告するとともに、「鈴木利男さんがサーキットで1日中走れ、転がり抵抗はBMW i3くらい小さい。だけど雪の上も走れる、こういうタイヤです。本日もブリヂストンさんのトラックが来ていますが、だいたい1つのタイヤを作るのに500本ほどテストしていて、あのトラックのなかに何種類も試作タイヤを作ってきてもらっています。転がり抵抗が電気自動車ほど小さくて、雪の上を走れて、サーキットを1日中走れる。そんなオールシーズンタイヤありますか? ないからここで作っているんです」と、タイヤ開発も妥協なく行なわれていることが述べられた。

ビッグマイナーチェンジしたU6シリーズの変更点など

 U6シリーズについては、エクステリアではLEDヘッドライトや性能向上アイテム(NACAダクト、アンダーカバー、大容量インタークーラーなど)、インテリアでは12インチの大型モニターや新開発のシートなどを採用。また、1.8リッターターボエンジン&2WD(FF)というパワートレーンを採用しつつ、欧州ブランドの2.0リッターターボエンジン&4WD車に並ぶ性能が与えられた新スポーツバージョン「GT220」を新たに設定したことを紹介。

 東名エンジンと共同開発したエンジンでは、インテークマニホールド、エキゾーストマニホールド、インジェクター、ピストンに至るまで、ブロック以外ほぼすべてを新規開発したという。トップクラスの薄い混合比と最新2ステージターボの採用によって「実用域の高トルクと燃費向上」、ハイブーストと適正混合比で「高出力とハイレスポンス」を実現したとし、水野氏は「欧州ブランド並みの走りと面白さを目指しました。メインは楽しさで、我々が直面しているテーマとして、これから自動運転であったり環境問題と照らし合わせたりしたときに、クルマに対して人が面白さと興味を失ってしまった。クルマを単なる便利道具にしてしまってよいのか、僕は違うと思うんです。クルマのキーワードはやっぱり“自由”であり、自由にスピードも時間もデザインも楽しめる商品だから、本来はエモーショナルな道具だったはず。それを単に冷たい家電製品に置き換えてしまってよいのか、非常に危機感を持っています。ですからLuxgenで追っかけたいのはクルマの楽しさなんです」と、開発の根底にある考え方について持論を展開した。

 また、他の欧州ブランドのモデルとの出力や価格を比較し、U6シリーズが欧州ブランドのモデルと遜色ない出力&トルクを実現しつつ、価格が半値であることを説明するとともに、「とくに0-100km/h加速は大事なものだと思っています。GT-Rのときもこだわりましたが、0-100km/h加速で重要なのは速さではなくいかに低回転から太いトルクを出すかということ。500PSのGT-Rが700PSのポルシェより速いというのはここの部分。ここ(低回転)でトルクがあるエンジンは、街を走っているときにアクセル開けるのが半分で済むんです。速いというのは燃費がいいということなんです。0-100km/h加速にこだわるというのは、実用域の燃費をよくすることと加速性能をよくすることが両立するからなのです」と、0-100km/h加速タイムになぜこだわるかという点について説明する。

 その新型U6シリーズでは、0-100km/h加速が従来モデルより1秒短縮の7.5秒(GT220)を実現しており、「2WDでも4輪駆動のSUV並みの性能を持っている。これはいかにトルクが太くて、タイヤの接地荷重が安定しているかを示しています」と自信をのぞかせた。なお、オートポリスで行なった燃費テスト(本コース3周、山道2往復、レイクサイドコース3周を2セット。約56.3km)では、U6 GTで11.38L/100km、U6 GT220で10.49L/100kmと、いずれも従来モデルから20%以上の燃費改善を実現できたことが報告された。

 なお、新型U6シリーズの試乗記については後日掲載する予定。

直列4気筒DOHC 1.8リッターターボエンジンについて
欧州メーカ車との性能、価格比較
0-100km/h加速について
新型U6シリーズの燃費性能
サスペンションとブレーキについて
U6 GT/U6 GT220主要諸元
U6 GTU6 GT220
全長×全幅×全高[mm]4630×1825×16204640×1825×1610
ホイールベース[mm]2720
駆動方式2WD(FF)
エンジン直列4気筒DOHC 1.8リッターターボ
最高出力(PS/rpm)202/5200222/5200
最大トルク(kgm/rpm)30.6/2000-4000(ピーク値:32.6/2000)31.6/2000-4500(ピーク値:33.6/2000)
トランスミッション6速AT
前/後タイヤ225/50 R18225/45 R19

【お詫びと訂正】記事初出時、搭載エンジンについて東名パワード製と記載いたしましたが、正しくは東名エンジン製でした。お詫びして訂正させていただきます。