ニュース
ホンダ 松本宜之氏、マツダ 人見光夫氏、NVIDIA 林憲一氏が基調講演した産学連携「第5回 自動車技術に関するCAEフォーラム in 東京」レポート
2018年4月2日 08:00
- 2018年2月20日~21日 開催
2月20日~21日の2日間にわたり、御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター(東京都千代田区)において産学連携「第5回 自動車技術に関するCAEフォーラム in 東京」が開催された。本イベントは、CAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれるコンピュータを利用した工業製品を設計、なかでも自動車の設計をテーマとしたイベントで、今回で5回目となっている。
基調講演には本田技術研究所 代表取締役 社長執行役員 松本宣之氏、マツダ 技術研究所・統合制御システム開発担当 常務執行役員・シニア技術開発フェロー 人見光夫氏、エヌビディア合同会社 エンタープライズマーケティング本部 本部長 林憲一氏が登壇し、それぞれ講演を行なった。
研究開発というのはゴールにたどり着くまでに失敗がたくさんあり、それを乗り越えていく必要がある
本田技術研究所 代表取締役 社長執行役員 松本宣之氏は、ホンダの開発を担う本田技術研究所の開発哲学を説明した。松本氏はホンダの創業者である本田宗一郎氏の「すべての人の生活の質を高める。その実現のためには技術が必要である」という言葉を紹介し、ホンダがこれまで開発してきた数々の技術や挑戦について話をした。1961年のマン島TTレース125/250cc完全制覇、1963年の4輪車市販、世界発のカーナビゲーションの開発、2015年のHonda Jet引き渡し開始など、歴史を紹介し、ホンダの歴史が挑戦に彩られてきたことを強調した。
その上、2001年にホンダが発売し、グローバルに大ヒット車となった「フィット」の開発について紹介した。松本氏はこの初代フィットの開発主任で、1997年からその開発に従事してきたという。「当時ターゲットにしていたのは、世界一のスモールカーを作るということ。特に欧州では大人4人がゆったり座れ、荷物がたくさん載ることが求められていた」と述べ、スモールカーでも1つ上のクラスの居住性と容積を目指したとのこと。そこで、松本氏は当時様々なレイアウトを考えたそうだが、フロントシートの下にタンクを置くという後に「センタータンクレイアウト」を考案して、それを製品化しようと考えたとのこと。
ところがそれを商品化の会議に出すと、叱られたのだという。その理由は一番大事だと思われていた燃費への取り組みが甘く、パッケージだけでなくすべての領域で高めないと勝てないのだと再認識したとのことだ。その後燃費などもクリアして市販にこぎ着けたそうだが「研究開発というのはゴールにたどり着くまで失敗がたくさんあり、執念でそれを乗り越え行く」(松本氏)ということを学んだそうだ。
今後の課題としては、2030年までに電動化比率を2/3以上にしていくことをホンダは掲げており、現在はグローバルで見るとわずか4%だということで、今後EV、FCV、PHEV/HEVなどの比率を上げて行くべく様々な取り組みを行なっていくと説明した。
今後の自動車開発のキモとなるのがモデルベース開発、日本で統一モデルの構築を提案
マツダ 技術研究所・統合制御システム開発担当 常務執行役員・シニア技術開発フェロー 人見光夫氏は、マツダのCAEを活用したモデルベース開発についての講演を行なった。人見氏はガソリンエンジンとして世界最高レベルの高圧縮比を実現したSKYACTIV-G、ディーゼルエンジンとして世界一の低圧縮比を実現したSKYACTIVE-DなどのSKYACTIV TECHNOLOGYの開発を主導した開発リーダーとして知られており、現在ではマツダの研究開発をリードする立場にある。
人見氏は「マツダは大手のメーカーに比べると開発にかけられるリソースは大きくない。それで大手メーカーと同じようなやり方をしていては勝てない。そこで選択集中を意識して開発を行なっている。試作してはテスト、試作してはテストというやり方をしていると、検証サイクルを回している間に締め切りが来てしまうという悪循環になり、エンジニアがチャレンジをさけるようになる。それを避けるためにも、数ある課題の中からどれがボーリングの1番ピンであるかを見極めて、そこにボールをぶつけることが大事だ」と述べ、少ないリソースを有効活用する場合には、一番の課題が何であるかを見極めて、そこにリソースを一点集中的に投入することが大事だと述べた。
人見氏によればマツダにとってそのボーリングの1番ピンがエンジンの燃焼効率だったということで、人見氏が開発リーダーに就任してからは、できるだけそこに人材を配置するなどしてやってきたとのこと。
人見氏は「電気自動車を本気で普及させようと考えたら、現在の2倍ぐらいの発電能力が必要になる。それよりは、内燃機関の効率を上げた方がトータルでは環境影響も小さく抑えることができる」と述べ、単にEV(電気自動車)を増やすよりも、内燃機関の効率をあげることも同時に行なうことで、結果的に発電能力を増やすことなく環境へ好影響を実現できるという持論を説明した。
そして、今後自動車メーカーにとっての一番ピンとなるのがモデルベース開発だと強調し、それを1社でやるのではなく、オールジャパン、つまり日本の自動車メーカーが横連携して実現したらどうかと提案した。人見氏は「モデルベース開発のモデルを統一して作る。それによりサプライヤーにもメリットがあるし、そのコンピューターツールを標準化することで日本のソフトウェアメーカーにもいい影響がある」と述べ、モデルベース開発の共通化などが日本の自動車産業にとってメリットがある方向性だと強調した。
GPUを導入することで計算時間と消費電力を節約することができる
エヌビディア合同会社 エンタープライズマーケティング本部 本部長 林憲一氏は、NVIDIAの自動車向け事業の概要を説明した。
その具体例として、VR空間で複数人が協力して作業を行なうことができるNVIDIA Holodeckなどの説明を行ない「プロセッサーの性能は過去30年で100万倍になっている。1990年代後半は年率1.5倍ぐらいで性能が上がっていったが、2000年代から頭打ちになっており、現在はシングルスレッド性能は1.1倍ぐらいにしかなっておらず、マルチコアからメニーコアへと移行している。こうした時代に新しいコンピューティングの仕組みが必要だろうということで考えられたのがGPUコンピューティングで、ポリゴンの演算を行なうのに利用していた数千個のコアを持つGPUを使って汎用演算しようという仕組みだ。その基盤となったのが12年前に導入したCUDAだ」と述べ、NVIDIAがCUDAを導入し、GPUを利用した汎用演算の仕組みの構築にかけてきた歴史を説明した。
そしてそのGPUコンピューティングの特徴として、省電力でかつ高性能であることを説明した。例えば自動車の設計でよく使われるABAQUS、ANSYSなどでGPUを演算に利用すると、計算にかかる時間も電力も節約できるとした。「すでにメジャーなアプリケーションがGPUに対応している。弊社のCEOが昨年のイベントで使ったメッセージだが、GPUを買うとお得なんです」と述べ、GPUを導入すると計算時間を節約でき、かつ消費電力を節約できるのでサーバーにかかるコストなどを節約できるとした。
また、林氏はNVIDIAが自動車メーカーなどに提案しているAIを活用した自動車向けのソリューションNVIDIA DRIVE AIカープラットフォームを紹介し、AIを利用することで高度な自動運転車がより早く構築することが可能になることなどを説明した。