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トヨタ、WRCで19年振りにタイトルを獲得したトミ・マキネン代表らのWRCチームを名古屋オフィスで歓迎

シトロエンに移籍するラッピ選手らには友山TGRプレジデントから特別プレゼント

2018年11月21日 実施

TOYOTA GAZOO Racing WRT チーム代表 トミ・マキネン氏。トヨタは参戦2年目で、19年振りのWRC マニファクチャラーズ・タイトルを獲得

 トヨタ自動車の社内カンパニーとなるTOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)は名古屋駅前にある名古屋オフィスで11月21日、1999年以来となるWRC(世界ラリー選手権)のマニファクチャラーズ・タイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racing WRT(World Rally Team)の3車(7号車、8号車、9号車)のクルー(ドライバー+コ・ドライバー)と、2019年シーズンからチームに加わるクリス・ミーク選手、チーム代表のトミ・マキネン氏、トヨタ自動車 WRCエンジン・プロジェクト・マネージャの青木徳生氏を招いての、お祝いセレモニーを開催した。

 お祝いセレモニーには名古屋オフィスに努めるトヨタ社員が多数参加し、マキネン代表やドライバー代表のヤリ・マティ・ラトバラ選手のあいさつなどが行なわれた。

豊田章男チーム総代表からは全員にTシャツが、友山茂樹TGRプレジデントからは去りゆく2人に餞別が……

 トヨタのWRCワークスチームであるTOYOTA GAZOO Racing WRTは、1996年~1999年に4度のWRCワールドチャンピオンに輝いたトミ・マキネン氏がチーム代表に就任してチームを作り上げ、トヨタ自動車 代表取締役社長 豊田章男氏自らがチーム総代表に就任するという力が入っている体制でWRCに復帰。2016年はテストに当て、2017年から参戦を続けてきた。

 復帰から参戦2年目となる2018年は、フォードから移籍してきたオットー・タナック選手が第5戦のラリー・アルゼンティーナで優勝し、第8戦ラリー・フィンランド、第9戦 ラリー・ドイチェランド、第10戦 ラリー・トルコを3連勝。ドライバータイトル争いでも上位になったほか、マニファクチャラーズ・タイトルでもランキングトップに浮上した。

 タナック選手はその後の第11戦~最終戦までの3戦で上位に入ることができず、残念ながらドライバーズランキングでは3位に終わったが、マニファクチャラーズ選手権ではトヨタが2位のヒュンダイや3位のフォードを振り切ってランキングトップのまま選手権を終了し、1999年以来4度目となるWRCのマニファクチャラーズ・タイトルを獲得した。

名古屋オフィスで行なわれたお祝いセレモニーに入場するTOYOTA GAZOO Racing WRTのドライバーたち
トミ・マキネン氏(左)らがあいさつ

 お祝いセレモニーは、マニファクチャラーズ・タイトルを獲得したことを記念して行なわれたイベントで、トヨタ自動車の従業員などが参加して行なわれた。あいさつに立ったチーム代表のマキネン氏は「強いクルマを作ることができたのは、ひとえに日本の従業員の皆さんのサポートがあればこそ」と述べ、詰めかけたトヨタ自動車の従業員を沸かせた。

 その中でも盛り上がったのは、チーム総代表でもあるトヨタ自動車の豊田章男社長からのプレゼントが届いたときかもしれない。今回は業務の都合で参加できないという豊田社長からのプレゼントは、ポディウムで豊田社長とドライバー、コ・ドライバーがクルマの上に乗っているイラストが描かれている特製Tシャツで、2019年からシトロエンに移籍するエサペッカ・ラッピ選手とコ・ドライバーのヤンネ・フェルム選手の車両はシトロエンC3になっているという実に凝ったものになっていた。

豊田章男社長からプレゼント

 さらに、TGRカンパニープレジデントの友山茂樹氏からはシトロエンへ移籍する2人へのスペシャルプレゼントも用意されており、開けてみると中から出てきたのは「The Oxford-Hachette French Dictionary」というフランス語の辞書(ハードカバー版)。もちろん友山氏からの「頑張ってフランス語勉強しろよ」というジョークで、シトロエンでより強力なドライバーになって正々堂々とコースで戦ってお互いを高め合おうという意味があると説明された。

シトロエンに移籍するエサペッカ・ラッピ選手とコ・ドライバーのヤンネ・フェルム選手へは、友山TGRカンパニープレジデントからはフランス語の辞書が贈られた
お祝いに駆けつけたトヨタ従業員と記念写真

2019年はドライバータイトルを奪取できる自信があるとオットー・タナック選手

お祝いセレモニーのあと、会見が行なわれた

 トヨタ社員によるお祝いセレモニー終了後、会見室で報道陣向けに会見が行なわれた。会見では、トヨタ自動車 GAZOO Racing Company GRマーケティング部 モータースポーツ推進室 海外競技グループ長 市川正明氏から今シーズンの振り返りが行なわれたほか、チーム代表のトミ・マキネン氏、7号車ドライバーのヤリ-マティ・ラトバラ選手、8号車ドライバーのオットー・タナック選手、9号車ドライバーのエサペッカ・ラッピ選手、そして2019年からTOYOTA GAZOO Racing WRTに移籍してくるクリス・ミーク選手の4人のドライバー、さらにはトヨタ自動車 WRCエンジン・プロジェクト・マネージャ 青木徳生氏が質問に答えた。

市川氏:2018年シーズンは参戦2年目。開幕戦で2位と3位になりそのまま行けるかと思ったが、第2戦のラリー・スウェーデンで苦しみ、第3戦のラリー・メキシコでは昨年の課題だったオーバーヒート対策をしたが足りなかった。その後第5戦ラリー・アルゼンティーナでタナック選手が勝ち、第9戦ラリー・フィンランドから3連勝し、最終戦のラリー・オーストラリアでラトバラ選手が優勝し、マニファクチャラーズ・タイトルを獲ることができた。しかしまだ課題もある。10回のリタイヤをしており、まだわれわれのクルマには足りないところがある。来年は新しいドライバーラインアップでダブルタイトルに向けて頑張っていく。

トヨタ自動車株式会社 GAZOO Racing Company GRマーケティング部 モータースポーツ推進室 海外競技グループ長 市川正明氏

──参戦2年目という早い時期にタイトルが獲れた要因は? また、19年ぶりにトヨタはタイトルを獲得したが、そのことについての感想を。

マキネン氏:チームがプロフェッショナルな仕事をしたからだ。このプロジェクトを始めるにあたり、戦略を立てた。2016年はかなり長い距離のテストを行ない、2017年は経験を積むことに集中、特にデータ解析には時間をかけた。そしてそれらが今年のシーズン後半に結果として結実した。シーズン後半には大きな進化を遂げたが、異なるコンディションではまだ課題もあり、すでに来年に向けた取り組みを行なっている。

 (トヨタの前回WRC参戦最終年である)1999年には、当時自分は三菱自動車に在籍していてトヨタの強力なドライバーと戦って最後のタイトルを獲った年でもあり、よく覚えている。上手い言葉が見当たらないけど、マニファクチャラーズ・タイトルは非常に大きな意味がある。

トミ・マキネン氏

──青木氏に、エンジンの進化に関してうかがいたい。

青木氏:エンジンはあくまで車体の一部なので、ドライバーとの接点はペダルだけ。当初からトミがずっと言っていたのは「パワーじゃなくてトルクやねん」ということ。トルクというとトルクカーブを思い浮かべるんだけど、トミがいうトルクというのがどういう意味か理解できたシーズンだった。それによりドライバーの意志を反映できるようなエンジンになった。パワーは(ほかより)出ない、加速は一番ではないかもけど、それでも勝てるようになっている。

 スキーに例えると、全開性能がただ落ちていくだけだとすると、本当にすごいのは曲がるときにパワーをかけられるようなもの。それがよい結果に結びついている。

──ラトバラ選手に、最終戦後のFIA会見で「よいクリスマスを迎えたかったから」という話をしていて、走り終わった後よい笑顔だったけど、その時の喜びを教えてほしい。

ラトバラ選手:1年前に戻ってみれば、昨年の最終戦のパワーステージではゴールの3km前で2位からリタイアになってしまいとても悲しいクリスマスになってしまった。今年のパワーステージに向かう前はとてもナーバスになっていた、なぜならこの結果次第では、Hero(ヒーロー)になるか、Zero(ぜろ)になるか天国と地獄みたいな状況だったからだ。Zeroだったらまた悲しいクリスマスになってしまうところだったから笑顔だったんだ。

ヤリ・マティ・ラトバラ選手

──マキネン氏に3年という短いスパンでタイトルが獲れたのはなぜか?

マキネン氏:チームのみんなが努力したからだ。大事なプロセスを短い時間でこなした。また、トランスミッションやサスペンション、ラジエーターなど多くの重要なパーツを提供してくれたサプライヤーの力も大きかった。2016年に開発を始めて、最初の6か月でプロトタイプを作り、2016年の5月には走らせた。その時は非常に長い一日だった。チームや関係者全員に感謝したい。

──ラッピ選手とミーク選手、それぞれに新しいチームで上手くやるアドバイスを。

ラッピ選手:そうだな、フィンランド語を勉強した方がいいと思う、フィンランド語の辞書はこの辞書(友山氏から贈られたフランス語の辞書)ほどは厚くないと思う(笑)。実はすでにクリスとはその話をしていた。ここはシンプルなチームで政治的ではないので、チームに溶け込んでいくのは難しくないよ、と。

ラッピ選手

ミーク選手:フィン語も日本語もまだまだだけど、フランス語はもっと難しかった(笑)。新しいチームでの仕事はとても楽しみにしているし、いいドライバーでもあり、いいチームマネージャーでもあるトミと仕事することは本当に楽しみだ。エサペッカはチャンピオンチームの一員として、新しいチームにいくので胸を張っていっていいと思う。

ミーク選手

──タナック選手に、アルゼンチンでこのチームで初優勝し、フィンランドからは3連勝、オーストラリアでは残念な結果だったが、総じてはいいシーズンだったと思うが振り返ってどうか?

タナック選手:おっしゃるとおり非常にいいシーズンだったと思う。まだまだ勉強を続けているし、毎戦毎戦よくなっていっている。特に後半は非常に強さを出すことができたと思う。確かに最終戦ではドライバータイトルの可能性もあっただけに残念だが、来年に向けて課題を克服していきたい。僕たちは今非常にいい位置にいると思うから。

タナック選手

──来年チャンピオンを獲れそうか?

タナック選手:ラリーだから絶対とは言えないけど、来年に向けて自信はある。今年ミスしたところから学んでそれを修正して望めば、自信をもって取り組むことができるとは思う。

──FIA会見で、マキネン氏がミーク選手を獲得したのはチームプレイヤーであるからだと言っていた。そうしたフォアザチームというチームの文化についてどう考えているか?

ラトバラ選手:前にいたチームでは、すべて個人個人が勝手に仕事をして、ドライバータイトルを獲って、その先にマニファクチャラーという意識だった。このチームに来て驚いたのは、みんながチームとしてトヨタが勝つという同じゴールを向いているということ。それがこのチームの文化だ。ドライバータイトルはその先にある。その証拠に、このチームではドライバー同士でデータをシェアして、秘密にしたりしない。エサペッカが卒業してクリスが来ても、これからも変わらないと思う。

タナック選手:エサペッカとは上手くやっていたので、彼がチームを去るのは残念だ。チームのために協力するのは当然だけど、最終的にはチームの中で速いドライバーが勝つとは思う。ヤリ-マティも当然勝ちたいと思っているだろうし。そこは大きな競争になるけど、チームとして勝つということには変わりはなくてやはりチームは強いままでいられると思う。

ラッピ選手:このタイトルはみんなで協力して勝ち取った結果だ。情報はすべてチームのためにシェアしており、オープンにやっている。そこがほかのチームとは違っており、それがセカンドシーズンでタイトルを獲れた理由だと思う。

ミーク選手:チームの文化に関しては他の3人が言ったとおりだと思う。もちろん3人がチャンピオンになれるわけではないけど、まずはクルマをよくすることが仕事だ。その結果として来年もNo.1チームになり、3人のうち誰かがチャンピオンになれればいいと思う。

──ダブルタイトルに向けて改善できるところはどこか?

マキネン氏:情報を共有して、チームの誰もが一体になってやっていくことが大事。チームの誰にとっても情報は車を改善していくことに役立つ。そしてドライバーからの情報は誰もが見えるようにして、エンジニアも含めて議論している。このように情報をシェアしていくことが大事だと考えている。

──ヤリス WRCの今後の改良は?

青木氏:2年目を終えたところだが、今のタイプのエンジンがベンチで回ったのが2016年の4月で、クルマに乗ったのは6月頃。その頃から外見は変わっていないが、この2年で別物になってきている。今はドライバーにとって運転しやすいドライバビリティに優れたエンジンを目指しており、ストレートでの速度だけでなくトルクを改善してきている。強いエンジンになりつつあるけど、当初の設計では気がつかなかった弱い部分も見えてきており、そこを大きく直すチャンスでもあるので、間違いなく勝てる強いエンジンにしていきたい。

──日本ではWRCの日本ラウンドの誘致を進めている。残念ながら2019年開催はなくなったがが、2020年に向けて進んでいる。そうした動向に関してどう思うか?

マキネン氏:FIAやWRCのプロモーターなどと、ずっと話し合っている。言うまでもなく日本は大きな市場で、多くの自動車メーカーがあって、モータースポーツの人気が高い。2019年は残念だったが、2020年には開催できるといいと思っている。トヨタにとっても、ここに実際にラリーを走る形でクルマを持ってくることに大きな意味がある。そしてもう1つ重要なコトは、我々はヤングドライバープログラムをやっており、勝田貴元選手を育成している。彼がそうしたラリーをヤリスを駆って走るようになれば最高だ。