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フォーミュラ Eに参戦している元F1ドライバー マッサ選手とVenturi FE Teamの活躍を支えるロームの武器とは?

シーズン5からフォーミュラ Eに参戦しているフィリペ・マッサ選手。ロームがインバーターを供給するVenturi Formula E Teamのマシンを駆っている

 ここ数年で急速に注目が高まっているABB FIA Formula E選手権(以下、フォーミュラ E)に参戦する「Venturi Formula E Team」(以下、Venturi FE Team)は、フランスの自動車メーカー「Venturi Automobiles」により設立されたレーシングチーム。現在はメルセデスF1などメルセデス・モータースポーツの責任者であるトト・ウォルフ氏の配偶者で元レーシングドライバーのスージー・ウォルフ氏がチーム代表となり運営されている。

 同チームには今シーズンから、元F1ドライバーで、通算11回のF1優勝の実績を誇るフィリペ・マッサ選手がドライバーとして加わり、大きな話題を集めている。

 そのVenturi Formula E Teamにファイナンシャルスポンサー、そしてテクノロジーパートナーとしてオフィシャルパートナーとなっているのが、半導体メーカーの「ローム株式会社」だ。ロームは1954年に創業した日本の半導体メーカーで、創業時には抵抗を提供するメーカーだったが、現在では各種のICやパワーデバイスなどの半導体を提供するメーカーとして、老舗の半導体メーカーの1つとなっている。

 今回はフォーミュラ Eの第5戦「2019 HKT Hong Kong E-Prix」の会場で、チームにロームとの提携などについて聞いてきた。

フィリペ・マッサ選手がVenturi FE Teamからフォーミュラ Eに参戦

Venturi FE Teamのフォーミュラ Eマシン、ロームのロゴは左右のフェンダーとHaloの左右についている

 Venturiと言えば、日本のモータースポーツファンにとっては「懐かしい名前」ではないだろうか。1992年に片山右京氏(現在はSUPER GT/GT300に参戦しているGOODSMILE RACING & Team UKYOの監督を務めている)がF1に初参戦した時のチームがVenturi Larrousse(ベンチュリー・ラルース)だったからだ。

 当時片山氏がドライブしていたLarrousseチームは資金的に苦しい状況にあり、それを救ったのがフランスの小規模生産の高級車メーカー「Venturi」だったからだ。ただし、現在のVenturi Automobilesは、2000年に現在のオーナーにより買収されており、当時のVenturiとは大分違ったメーカーになっている。

 そのVenturi Automobilesが2014年に設立し、フォーミュラ Eのシーズン1から参戦しているチームがVenturi フォーミュラ E Teamだ。現在のVenturi FE Teamは、元レーシングドライバーでありメルセデス・モータースポーツ責任者 トト・ウォルフ氏の配偶者であるスージー・ウォルフ氏が今年からチーム代表となり率いていくチームになっており、体制も大きく強化されている。

マシンの左右に書かれたマッサ選手の名前
カメラ部にも「MAS」の表示

 その最大の強化点は、2017年最終戦でウィリアムズF1での走行を最後にF1を引退したフィリペ・マッサ選手を獲得したことだ。

 F1で通算11勝を誇り、2008年の最終戦ブラジルGPでは優勝したものの、最終ラップの最終コーナーでルイス・ハミルトン選手が前を走っていたトヨタのティモ・グロック選手抜くまではF1チャンピオンになったと思われてきた劇的な幕切れのもう一人の主人公だったことはよく知られているだろう。なお、フォーミュラ Eには複数の元F1ドライバーが参加しているが、F1で優勝経験があるのはマッサ選手ただ一人だ。

 そうした知名度高く、かつ確実な実力の持ち主であるマッサ選手の加入、さらに2017年からチームに参加しているエドアルド・モルタラ選手(2009年、2010年とマカオGPの2連勝した実力の持ち主)の二人で、チームとして悲願の初優勝を目指している。

バッテリーからモーターの間にあるインバーター向けにSiCパワーデバイスを供給

マッサ選手のマシンを整備するチームメカニック。グリーンライトが点いているときには、このように感電対策をしたメカニックが整備することができる

 そうしたVenturi FE Teamのファイナンシャルスポンサー、そしてテクニカルパートナーを務めているのが日本の半導体メーカーのロームだ。ロームは京都府で1969年に創業した老舗の半導体メーカーで、当初は抵抗を、そして現在では各種のICやパワーデバイスなど各種の製品を提供している。

 チームの関係者によれば、ロームがチームに提供しているのはインバーターのSiCパワーデバイスだという。インバーターとは、バッテリーとモーターの間にあり、バッテリーから供給される電力を制御してモーターに送る役割を果たしている。ドライバーがアクセルを踏むのに合わせてモーターに送る電力を増やしてモーターの回転数を上げ(つまりパワーを出し)、その逆にアクセルを抜けば電力を減らしたりしてモーターの回転数を下げる(つまりパワーを絞る)といった制御を担当する。

 そうした非常に重要な役割を果たすインバーターの重要な部品であるパワーデバイスは、直流を交流に変えたり、あるいは電圧を上げたり下げたりするという重要な役割を果たすパーツだ。例えば直流を交流に変えたりするときには、必ずある程度のロスがでる。そのロスは熱に変わって車両側に伝わることになり、その熱が大きければバッテリーに熱が伝わってしまい、バッテリーから出力される出力が減るなどの性能低下が起こる。また、そうしたロスが大きければ大きいほど、モーターに送る電力が減ってしまい、モーターの回転数が減ったりするので、パワーがでないという原因になる。

大電流を流すことができるバッテリーが搭載されているため、感電対策としてこうした器具も用意されている。感電している人をマシンから引き剥がすツール

 そこで、ロームが提供しているインバーター向けに提供しているSiCデバイスはそうしたロスを最小限に抑え、かつフォーミュラカーのような高温になってしまう環境でも安定して使えるようにしているとのとだった。

 なお、ロームはファイナンシャルスポンサーでもあるので、チームの車両にはロームのロゴマークも貼られている。新しい形のモータースポーツであるフォーミュラ Eを観戦するなら、チームやドライバーを応援するのはもちろんだが、そうしたサプライヤーの戦いも結構熱いということに注目して見ると、違った観点でのレース観戦が可能になるのではないだろうか。