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フォーミュラ E 第5戦 香港、アンドレ・ロッテラー選手とのマッチレースを「追突」で終わりに。議論を呼ぶ優勝をサム・バード選手が獲得

終盤まで僅差の争いが続いたフォーミュラ E 第5戦 香港。アンドレ・ロッテラー選手(36号車 DS TECHEETAH/DS E-TENSE FE19)に、サム・バード選手(2号車 Envision Virgin Racing/Audi e-tron FE05)が僅差で続く。両車が優勝、バード選手が暫定優勝に

 ABB FIA Formula E選手権(以下、フォーミュラ E)第5戦 2019 HKT Hong Kong E-Prixは、中華人民共和国香港特別行政区の香港島において3月10日(現地時間)に予選と決勝が行なわれた。Formula Eは、予選、決勝が1日で行なわれるワンデーレースになっており、現地時間の11時45分から予選が、16時03分から決勝レースが行なわれた。

 予選でポールポジションを獲得したのは、2018年までマクラーレンからF1に参戦していたストフェル・バンドーン選手(5号車 HWA RACELAB/Venturi VFE05)。バンドーン選手はこのシーズン5からFormula Eに参戦しており、キャリア初ポールとなった。

 決勝レースでは予選4位からスタートしたアンドレ・ロッテラー選手(36号車 DS TECHEETAH/DS E-TENSE FE19)、予選7位からスタートしたサム・バード選手(2号車 Envision Virgin Racing/Audi e-tron FE05)のマッチレースとなり、ほとんどロッテラー選手が勝利を手中にしていたが、バード選手がロッテラー選手の右リアに追突してタイヤがパンク、それによりパンクの原因を作ったバード選手がそのまま優勝するというすっきりしない展開で、今季初の2勝目を挙げたウィナーが誕生してレースは終了した。

予選ではスーパーフォーミュラにも参戦していた、元F1ドライバーのバンドーン選手がポールを獲得

 現地時間午前11時45分より行なわれた予選では、前日より降ったり止んだりというウェットコンディションの中行なわれた。フォーミュラ Eの予選の1回目(Q1)は4つのグループで、それぞれ5~6台に分かれてタイムアタックをし、その結果をマージして上位6台が「スーパーポール」と呼ばれる1台ずつアタックする形のシングルカーアタックとなる形で行なわれる。これまでも路面温度などの差で、どのグループに入るかで若干の差が出ていたが、雨の中での予選となった香港戦の予選では、どのグループに入るかで有利不利がダイレクトにでる形になった。実際、グループ1が走り始める前に降り出した雨は、グループ1、グループ2…都進んでいく中で、グループ4では雨が弱くなっており、グループ4に入った車両が優位となる状況になった。

 そうした状況の中でトップタイムをマークしたのはストフェル・バンドーン選手(5号車 HWA RACELAB/Venturi VFE05)。2015年のGP2王者で、2016年はスーパーフォーミュラに参戦し、2017年と2018年はマクラーレンからF1に参戦していたバンドーン選手は、このシーズン5よりフォーミュラ Eに参戦を開始しており、現在のシーズンがルーキーシーズンとなる。チームのHWA RACELABは事実上のメルセデス・ワークスと言っていい存在で、バンドーン選手は今シーズンからフォーミュラ Eに参戦すると共に、F1ではメルセデスF1チームのシミュレータードライバーも務めることになる。

 2位はチームメイトのゲーリー・パフェット選手(17号車 HWA RACELAB/Venturi VFE05)、3位はオリバー・ローランド選手(22号車 Nissan e.dams/Nissan IM01)、4位はエドアルド・モルタラ選手(48号車 Venturi Formula E Team/Venturi VFE05)、5位はアンドレ・ロッテラー選手(36号車 DS TECHEETAH/DS E-TENSE FE19)、6位はルーカス・ディグラッシ選手(11号車 Audi Sport Abt Schaeffler Formula E Team/Audi e-tron FE05)となり、ここまでがスーパーポール進出となった。

 グループ4のタイムアタックが終わった瞬間にコースには大粒の雨が降ってきて、コースは瞬く間に水浸しになってしまい。スーパーポールの開始は当初の予定より5分遅れることになった。その間に雨は弱くなり、徐々にコースコンディションは改善していく方向になった。このため、Q1の順位のトップ6の下位からタイムアタックすることになったため、Q1首位だったバンドーン選手が有利な方向になっていった。結局、その後も雨は再び強くなることはなく、タイムアタックで大きなミスをしたゲーリー・パフェット選手が5位に後退した以外はQ1の結果とおりになった。

 これにより、バンドーン選手は参戦5戦目にしてキャリア初ポールポジションを獲得し、2位にNissan e.damsのオリバー・ローランド選手、3位にエドアルド・モルタラ選手という予選結果となった。

予選結果
順位カーナンバードライバーチームマシンタイム(Q1)タイム(スーパーポール)予選グループ
15ストフェル・バンドーンHWA RACELABVenturi VFE051:11.5921:11.5924
222オリバー・ローランドNissan e.damsNissan IM011:12.1401:11.9033
348エドアルド・モルタラVenturi Formula E TeamVenturi VFE051:12.1561:12.3102
436アンドレ・ロッテラーDS TECHEETAHDS E-TENSE FE191:12.2041:12.8682
517ゲーリー・パフェットHWA RACELABVenturi VFE051:12.0931:13.0334
611ルーカス・ディグラッシAudi Sport Abt Schaeffler Formula E TeamAudi e-tron FE051:12.3211:14.1771
72サム・バードEnvision Virgin RacingAudi e-tron FE051:12.5291
823セバスチャン・ブエミNissan e.damsNissan IM011:12.5293
919フィリペ・マッサVenturi Formula E TeamVenturi VFE051:12.5703
104ロビン・フラインスEnvision Virgin RacingAudi e-tron FE051:12.6002
118トム・ディルマンNIO Formula E TeamNIO Sport 0041:12.8394
1266ダニエル・アブトAudi Sport Abt Schaeffler Formula E TeamAudi e-tron FE051:12.8503
1327アレクサンダー・シムスBMW i ANDRETTI MOTORSPORTBMW iFE.181:12.8613
147ホセマリア・ロペスGEOX DRAGONPenske EV-31:13.0734
153ネルソン・ピケ JrPanasonic Jaguar RacingJaguar I-Type III1:13.4214
166フィリペ・ナッサーGEOX DRAGONPenske EV-31:13.8854
1720ミッチー・エバンスPanasonic Jaguar RacingJaguar I-Type III1:13.9202
1825ジャン-エリック・ベルニュDS TECHEETAHDS E-TENSE FE191:13.9272
1916オリバー・ターベイNIO Formula E TeamNIO Sport 0041:14.1333
2028アントニオ・フェリックス・ダ・コスタBMW i ANDRETTI MOTORSPORTBMW iFE.181:14.3841
2194パスカル・ウェレインMAHINDRA RACINGMahindra M5Electro1:14.8301
2264ジェローム・ダンブロシオMAHINDRA RACINGMahindra M5Electro1:15.3471

レースがスタートするとアンドレ・ロッテラー選手とサム・バード選手のマッチレースに

 45分+1周という変則的なフォーマットで行なわれる決勝レースでは、直前まで雨が降っていた影響もあり、コースはドライに限りなく近づいているがウェットパッチが残った状況のまま行なわれるレースになった。雨はすでにやんでいたため、徐々に路面が乾いていくという難しいレースとなった。

 ただし、フォーミュラ Eのオフィシャルタイヤサプライヤーのミシュランが供給している18インチの「MICHELIN Pilot Sport」はドライ、レイン共用というレーシングタイヤとしては珍しい、市販車用のタイヤと同じ仕組みになっており、仮に路面が完全にドライになっても、タイヤが摩耗して使えない、ないしはバーストでもしない限りは基本的には交換する必要はない。

 16時3分に全車がグリッドに着いた後、レースはスタートした。スタートで飛び出したのは、2番手グリッドからスタートしたNissan e.damsのオリバー・ローランド選手。1コーナーまでにバンドーン選手をオーバーテイクしトップに浮上する。その後HWAのバンドーン選手は、3位を走っていたサム・バード選手(2号車 Envision Virgin Racing/Audi e-tron FE05)にも抜かれ、3位に後退することになる。

レース序盤、オリバー・ローランド選手(22号車 Nissan e.dams/Nissan IM01)がトップに立つ

 ところがレースは2周目の終わりに、フィリペ・ナッサー選手(6号車 GEOX DRAGON/Penske EV-3)がバリアに刺さったところに、パスカル・ウェレイン選手(94号車 MAHINDRA RACING/Mahindra M5Electro)とジェローム・ダンブロシオ選手(64号車 MAHINDRA RACING/Mahindra M5Electro)が追突するアクシデントが発生し、フルコースイエロー、次いでセーフティカーが導入され、結局それらの車両を排除するために赤旗になってレースは中断した。これで3人はリタイヤとなり、特にポイントリーダーのダンブロシオ選手にとっては厳しいレースになってしまった。

フォーミュラ Eでは激しい争いが続く
イエローフラッグも出るし
レッドフラッグによる中断も発生

 暫くの中断の後、16時25分にレースは再開された。レースは37分前後で中断されたため、残り37分30秒前後からレースは再開されたが、まずはセーフティカーに先導される形で始まり、すぐにセーフティカーがピットに入りレースはリスタート。このリスタートで、4位を走っていたロッテラー選手が、3位を走っていたバンドーン選手がオーバーテイク、これで3位に上がった。その後、トップを走っていたニッサンのローランド選手に、2位を走っていたバード選手がオーバーテイクを仕掛ける。そこは追突されつつも守ったように見えたローランド選手だが、直後にローランド選手がスローダウン。これで、Nissan e.damsの初優勝は夢と消えた。

アタックモードのあるコーナーを加速していく、23号車 セバスチャン・ブエミ選手

 その後トップに立ったバード選手を、今度は2位に上がっていたロッテラー選手が目の覚めるようなオーバーテイク、これでロッテラー選手がトップにたった。しかし、その後もバード選手はロッテラー選手に引き離されることはなく、2台によるテールツーノーズの戦いが繰り広げられることになった。3番手は変わらずバンドーン選手だが、このロッテラー選手、バード選手というトップ2台には完全に引き離されてしまっており、この時点で優勝争いは2台に絞られた形だ。

ロッテラー選手とバード選手の争いが続く

最後はバード選手がロッテラー選手のリアに追突して優勝し、議論を生む優勝を獲得

右リアからタイヤがなくなったロッテラー選手のマシン

 ロッテラー選手、バード選手という2台のレースは、レースが再開されてからずっとコース上で展開されていった。3位のバンドーン選手が4位以下を抑える形になったため、完全に2台だけのレースになって、残り時間が刻々と減っていくというレースになった。コース上では明らかにバード選手が追い上げており速く見えるが、今回の香港の市街地コースは決してコース幅が広い訳ではなく、前の選手が上手なブロックをすると、簡単に抜けるコースではない。日本のレースファンにとってはよく見た光景だが、ロッテラー選手のブロックはほぼ完璧で、ストレートでは微妙に中央を走るなどしてバード選手につけいる隙を見せない。毎ラップ毎ラップバード選手が激しくロッテラー選手を追い回すものの、決定的なチャンスはつかめないまま、レースの残り時間が刻々と減っていく。

 そのままの状況のまま、3位を走っていたバンドーン選手の車がコース上に止まり、デブリもコース上に散らばったため、セーフティカーが導入されることになった。3位に上がったのはモルタラ選手で、5位はルーカス・ディグラッシ選手、そして6位ばロビン・フラインス選手(4号車 Envision Virgin Racing/Audi e-tron FE05)という順位になった。このセーフティカーで、引き離されていた3位以下も1位、2位に追いついた為、再びレースは振り出しに戻ることになった。

残り12分でレースは再開。再びロッテラー選手は、2位のバード選手の厳しい追い上げに晒されることになった。だが、結局バート選手がロッテラー選手を抜けないまま、コース上に止まってしまったオリバー・ローランド選手の車両を排除するために、再びセーフティカーが導入されることになった。

 そのままロッテラー選手がトップのまま終わるかと思われたが、ドラマは45分が経過して残り1周となった時に訪れた。なんどかバード選手がロッテラー選手をフロントウイングでリアをつついた結果だと思われるが、ロッテラー選手のタイヤはパンクしてしまいスローダウン。それで勝負あり、そのままバード選手がトップでゴールし、2位はモルタラ選手、3位はディグラッシ選手となった。バード選手は第3戦に次ぐ2勝目で、今シーズン初めて2勝目をあげたドライバーが登場したことになった。しかし、バード選手がロッテラー選手に追突してタイヤをパンクさせたのではないかということで、レースは審議委員会の審議となり、レース結果は審議結果が出るまで分からないことになった。

ロッテラー選手がリタイヤしたため、バード選手が独走状態に

 レース後の審査の結果、トップのバード選手は5秒追加で6位になり、2位のモルタラ選手以下が繰り上がることになった。結果は確定。


 ロッテラー選手、バード選手による素晴らしいテールツーノーズのレースが繰り広げられていただけに、最後の結末はちょっと残念としか言いようがないが、それもレースというような劇的な幕切れだったことは間違いないだろう。


1位はサム・バード選手、2位はエドアルド・モルタラ選手、3位はルーカス・ディグラッシ選手。その後、1位のバード選手は5秒追加で取り消しに。結果は確定
決勝レース結果(バード選手取り消し後の暫定)
順位カーナンバードライバーチーム車両周回数時間
148エドアルド・モルタラVenturi Formula E TeamVenturi VFE053659:36.119
211ルーカス・ディグラッシAudi Sport Abt Schaeffler Formula E TeamAudi e-tron FE053659:37.107
34ロビン・フラインスEnvision Virgin RacingAudi e-tron FE053659:37.655
466ダニエル・アブトAudi Sport Abt Schaeffler Formula E TeamAudi e-tron FE053659:38.104
519フィリペ・マッサVenturi Formula E TeamVenturi VFE053659:39.377
62サム・バードEnvision Virgin RacingAudi e-tron FE053659:39.425
720ミッチー・エバンスPanasonic Jaguar RacingJaguar I-Type III3659:40.136
817ゲーリー・パフェットHWA RACELABVenturi VFE053659:40.487
916オリバー・ターベイNIO Formula E TeamNIO Sport 0043659:41.743
1028アントニオ・フェリックス・ダ・コスタBMW i ANDRETTI MOTORSPORTBMW iFE.183659:42.611
117ホセ・マリア・ロペスGEOX DRAGONPenske EV-33659:43.337
128トム・ディルマンNIO Formula E TeamNIO Sport 0043659:43.944
1325ジャン・エリック・ベルニュDS TECHEETAHDS E-TENSE FE193659:52.723
1436アンドレ・ロッテラーDS TECHEETAHDS E-TENSE FE19361:00:00.389
R22オリバー・ローランドNissan e.damsNissan IM012949:58.428
R5ストフェル・バンドーンHWA RACELABVenturi VFE052038:44.734
R23セバスチャン・ブエミNissan e.damsNissan IM011937:45.880
R27アレクサンダー・シムスBMW i ANDRETTI MOTORSPORTBMW iFE.181634:49.744
R6フェリペ・ナッサーGEOX DRAGONPenske EV-311:25.894
R94パスカル・ウェレインMAHINDRA RACINGMahindra M5Electro11:27.028
R64ジェローム・ダンブロシオMAHINDRA RACINGMahindra M5Electro11:27.584
R3ネルソン・ピケ JrPanasonic Jaguar RacingJaguar I-Type III--
優勝を喜ぶサム・バード選手(右)