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フォーミュラE用レーシングタイヤについて、ワンメイク供給を行なうミシュランのサージュ・グリサン氏に聞く
「開発した技術は、パイロット スポーツにダイレクトに反映」
2019年3月25日 13:15
ABB FIA Formula E選手権(以下、フォーミュラE)第5戦「2019 HKT Hong Kong E-Prix」が3月10日(現地時間)、香港で開催された。現在はシリーズ5(2018年~2019年)に突入しているフォーミュラEだが、2014年に始まったシリーズ1から一貫してタイヤをワンメイク供給しているのが、フランスのタイヤメーカー「ミシュラン」だ。
同社は日本ではSUPER GTのGT500クラスにタイヤを供給しているほか、世界選手権ではWEC(世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)などにもタイヤを供給しており、モータースポーツ活動に熱心なタイヤメーカーとして知られている。ビジネス面では日本のブリヂストンと世界でシェアを争うトップメーカーになる。
そうしたミシュランのフォーミュラEへのタイヤ供給に関して、ミシュラン モータースポーツ フォーミュラE マネージャー サージュ・グリサン氏にお話をうかがってきたのでその模様をお伝えしていきたい。
シーズン5向けには新しいタイヤを投入。それも将来的にはミシュランの市販タイヤとして登場する可能性がある
──ミシュランのフォーミュラEのタイヤ供給体制に関して教えてほしい。
グリサン氏:われわれは2014年にこのシリーズが始まった時からオフィシャルサプライヤーとしてタイヤを供給してきている。そうしているのは、この新しいバッテリーを利用したフォーミュラEでわれわれのタイヤを利用して競争してほしいからだ。
このシリーズは、従来のモータースポーツとコンセプトが異なっており、非常に興味深いものとなっている。われわれにとってもバッテリーとモーターで動くこの車両できちんと使えるタイヤを開発するというのは大きな意味がある。というのも、電気自動車におけるエネルギー効率の改善にタイヤは大きく関与しており、おおむね20~25%の貢献があると考えられているからだ。
また、このレースはストリートサーキットが中心で、タイヤへの入力は小さくないし、リアではブレーキ回生も行なわれており、技術的なチャレンジがある。このため、こうした特徴のあるシリーズに協力していくことは、われわれにとって、マーケティング的にも技術開発の観点からも大きな意味がある。
──フォーミュラEのタイヤの特徴とは?
グリサン氏:このレースではレースごとに1スペック/2セットを各車両に提供する。タイヤの持ち越しをすることはできない。タイヤはフォーミュラカーとしては珍しい18インチになっている。F1は13インチ、WECなどは18インチになっており、フォーミュラカーとしては珍しい選択であることは事実だ。しかし、18インチにすることでサイドウォールは減ることになり、それは燃費の改善を意味する。このレースでは環境への配慮から、いかに少ないエネルギーを効率よく利用するかに注力しており、それはタイヤも同様だ。なお、このタイヤは市販車用のタイヤと同じように、ドライとウェット両対応のタイヤになっており、基本的には市販車用のタイヤにかなり近いタイヤになっている。今シーズンからは第3世代となる新しいタイヤを投入している。
われわれはフォーミュラEのタイヤで開発した技術をそのままダイレクトに市販車用のタイヤに反映させたいと考えている。実際、第2世代のフォーミュラE用のタイヤは、すでに市販されている「MICHELIN Pilot Sport 4」とかなり似た構造となっている。
──現在のシリーズ5に投入しているタイヤに関して教えてほしい。
グリサン氏:われわれが投入している新しいレース用タイヤ「MICHELIN Pilot Sport」はフロントタイヤで2kg、そしてリアタイヤで2.5kg軽量になっている。これにより約9kgの削減になっており、おおむね全体の20%の削減が実現されている。そうした軽量化を実現したのは、1つの工夫だけでなく、複数の要因が重なってのことだ。
ゴムの材質、そして構造に関しても手を入れており、それらが合わさってこうした軽量さを実現することが可能になった。また、パターン(溝)も新しくしている。
では、この新しいMICHELIN Pilot Sport(の技術)が将来の市販タイヤであるかどうかだが、将来の製品については現時点ではお話しすることはできないが、そうしたタイヤが将来どこかのタイミングで登場することが間違いないことはお伝えできると考えている。
──明日の(香港戦の)予選や決勝はウェットになりそうだが、その影響は?
グリサン氏:すでに述べたとおり、このタイヤはドライとウェット両対応になっており、雨が降っても問題ないし、逆にドライであっても低温のトラックも問題がない。例えば、モロッコのマラケシュではひと桁台の低温環境で走ったが、問題がなかった。以前チリで行なわれたレースでは42℃という高温の中だったが、やはり問題がなかった。われわれはこうした、どんな気温やどんな天気であっても問題がないようなタイヤ作りを目指しているのだ。
SUPER GTやWECなどのタイヤ戦争があるレースからの技術もフォーミュラEのワンメイクレースに
──ドライバーのコメントを聞いていると、ウォームアップが難しいという意見を言うドライバーが多いようだが……。
グリサン氏:まず最初に言っておきたいことは、このフォーミュラEの車両は、ほかのフォーミュラカーなどと比べると圧倒的にダウンフォースが小さい車両だ。このため、タイヤへの攻撃性は低いため、ほかのフォーミュラカーのシリーズから来たドライバーなどがそう言うのは無理もないと考えている。
しかし、このタイヤはそれこそ気温が2℃しかないようなところから、30℃を軽く超えて、路面温度はもっと高いような気温にまでワーキングレンジを広く取っている。このタイヤは市販車に近いタイヤというコンセプトで作っているので、他のレーシングタイヤのように狭いワーキングレンジでしか作動しないというタイヤではないのだ。
──新しいタイヤでは構造とゴムとどちらが性能向上などに貢献しているのか?
グリサン氏:両方で、どちらがということはできない。両方の分野で大きな向上を見せている。10年前に比べてシミュレーションの技術や解析の技術は大きく向上しており、それが新しい構造や新しい素材の開発を加速することに繋がっている。
──SUPER GTなどの競争があるレースでの技術開発はフォーミュラEの開発に役立てられているか?
グリサン氏:われわれは同じ技術開発の拠点ですべてのレーシングタイヤを開発している。このため、日本のSUPER GTだけでなく、WECなども含めてレースタイヤの開発では相互に情報のやり取りを行なっており、SUPER GTの開発でよいものが見つかれば、それをWECに、あるいはフォーミュラEに採用するということは当然あり得る。