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アウディ、フォーミュラEの新型車両「Audi e-tron FE07」公開 世界選手権に生まれ変わるシーズン7に向け公式テスト開始へ

マシン全体の効率は95%、パワートレーンの重量は35kg未満

2020年11月26日(現地時間) 発表

Audi MGU05(右)とAudi e-tron FE0(左)

 従来はFIA公認のカップシリーズ(世界選手権ではないがFIA公認のシリーズのこと。WTCRやFIAドリフティングカップなどが該当する)として開催されてきた「フォーミュラE」だが、シーズン7と呼ばれる2020~2021シーズンからFIA公認の世界選手権に格上げされ、開催されることになった。FIA世界選手権は「F1」「WEC」「WRC」などのレースがあるが、フォーミュラEもそれらの世界選手権と同等の格式で開催されることになる。

 そのフォーミュラEにワークス参戦しているドイツの自動車メーカー「アウディ」は11月26日(現地時間)に報道発表を行ない、同社が2021年の1月にメキシコのサンチアゴで開幕するシーズン7(2020~2021シーズン)に参戦させる新型車両「Audi e-tron FE07」(アウディ・イートロン・エフイーオーセブン)を公開した。

 Audi e-tron FE07はAudi MGU05(アウディ・エムジーユーオーファイブ)という新しいパワートレーン(モーター+ギヤボックス)を搭載しており、250kW(340HP)の出力を発生。同じ出力の内燃エンジンに比べて効率は2倍になっており、そのパワートレーンの効率は95%を超えていると説明した。

 Audi e-tron FE07は11月28日からスペイン王国バレンシアにあるバレンシア・サーキットで行なわれる公式テストでデビューし、12月1日まで走り込み、開幕戦が行なわれる南米へ向かうことになる。

記者会見ではアウディワークスチーム代表のアラン・マクニッシュ氏とドライバーのルーカス・ディ・グラッシ選手が登場

記者会見に登壇したルーカス・ディ・グラッシ選手(左)とアラン・マクニッシュ氏(右)

 報道発表に先立って行なわれたオンライン記者会見では、アウディのワークスチームである「Audi Sport ABT Schaeffler」(アウディスポーツ・アブト・シェフラー)のチーム代表となるアラン・マクニッシュ氏とチームのドライバーとなるルーカス・ディ・グラッシ選手の2人が登場し、FE07とMGU05などの説明を行なった。

 アラン・マクニッシュ氏は往年の名ドライバーで、イギリス出身。1990年代には欧州F3000で活躍した若手ドライバーで多くのチームのテストドライバーを務めたが、なかなかF1に上がる機会を得ることができず、スポーツカーなどに活路を見いだした。1998年のル・マン24時間レースで総合初優勝した後、トヨタF1のテストドライバーになり、2002年のトヨタF1の初年度には正ドライバーとしてF1にデビューしたこともあるため、日本のファンにもおなじみの存在だ。その後はアウディのスポーツカープロジェクトに加わり、2008年、2013年にル・マン24時間レースの総合優勝を果たしており、通算キャリア3勝を挙げている。

 ルーカス・ディ・グラッシ選手はブラジル出身のレーシングドライバーで、2010年にヴァージン・レーシング(後にマルシアとなり、その後撤退)からF1にデビューしたが、新規参戦チームだったこともあり苦戦。その後アウディのWECのドライバーとなった後、2014年からはフォーミュラEへの参戦を開始し、シーズン3(2016~2017シーズン)で見事チャンピオンを獲得している。その後もアウディのワークスチームに昇格したAudi Sport ABT Schaefflerのドライバーを務めている。

 なお、今回の会見には参加してなかったが、もう1人のドライバーは、2017年、2019年、2020年と3度のDTM王者に輝いているレネ・ラスト選手だ。

Audi Sport ABT Schaeffler チーム代表 アラン・マクニッシュ氏

 チーム代表のマクニッシュ氏は「モータースポーツはアウディのDNAであり、この会社の重要な一部だ。今はこのEVの開発に力を入れており、フォーミュラEで開発した新しいテクノロジーをアウディのEVへとフィードバックしており、日々よくなっていっている」と述べ、アウディにとってのフォーミュラEの活動が、「走る実験室」としての役割を果たしており、それを市販車のEVにもフィードバックしていると強調した。

ルーカス・ディ・グラッシ選手

 また、ドライバーのディ・グラッシ選手は「フォーミュラEが始まったばかりの頃、このEVのレースが続くなんて誰も信じていなかった。しかし、テクノロジーがどんどん進化して、2台必要だった車が1台になるなど、どんどん進化している。今後は環境保全、気候変動などに対処するためにも、EVの技術は重要で、フォーミュラEは持続可能な社会を実現する助けになると思っている」と述べ、持続可能な社会を実現するためにもEVへの取り組みは必要で、フォーミュラEはそのためにも重要だと強調した。

フォーミュラEでの数少ない競争領域であるパワートレーンの開発に注力。35kg未満で効率95%を実現

アウディが開発したフォーミュラE 主要パワートレーンAudi MGU05

 今回アウディから発表されたAudi e-tron FE07、およびそのパワートレーンとなるMGU05の主要諸元は以下のようになっている。

Audi e-tron FE07の主要諸元(Audiの資料より筆者翻訳、作成)
車両車両タイプシングルシーター (ABB FIA Formula E)
モノコックワンメイク・スパークシャシー(カーボンコンポジット/アルミハニカムコア、クラッシュセーフティ基準(フロント/リア/サイド、CFRP)、Halo
ボディワンメイク・スパーク・カーボンボディ、ワンメイク空力
モーター/バッテリーMGUAudi MGU05
パワー出力(練習走行/予選)最大250kW(340HP)
パワー出力(レース)最大200kW(272HP)
アタックモード最大235kW(320HP)
ファンブースト最大250kW(340HP)
バッテリーマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ製(ワンメイク)、385kg/リチウムイオンバッテリー/52kWh(バッテリー容量)/充電時間約45分
モーターコントローラーボッシュ製ECU
駆動系駆動輪RWD(リア駆動)
トランスミッション高効率1速レーシングトランスミッション
シフト等速ジョイントシフト
シャシー/ステアリング/ブレーキステアリングラック&ピニオンステアリング(リムーバブル/デジタルディスプレイ/パドル/FIAマーシャル表示付き)
サスペンションロワー&アッパーウィッシュボーン式フロント/リア独立式、プッシュロッド、フロント:トーションバー、リア:スプリング、ショックアブソーバー(フロント/リア)、調整式スタビライザー(フロント/リア)、調整式ライドハイト/トー/キャンバー
ブレーキハイドロリック方式デュアルサーキットブレーキ、軽量金属製キャリパー、カーボンディスク(フロント/リア)、電気制御方式、ブレーキ・バイ・ワイヤ(リアアクセル)
ホイールアルミホイール(フロント:9×18インチ/6kg、リア:11×18インチ/7kg)
タイヤミシュラン・パイロット・スポーツ(フロント:245/40/R18、リア:305/40/R18)
サイズ/重量全長5,200mm
1,800mm
高さ1,250mm
ホイールベース3,100mm
最低重量903kg(ドライバーを含む)
性能0-100km/h加速平均2.8秒
最高速240km/h
Audi MGU05のスペック
Audi e-tron FE07の説明

 フォーミュラEではコストがかかる過度の開発競争を避けるため、レーシングカーを構成する多くのコンポーネントは共通化されている。例えば、シャシーにはスパーク・レーシング・テクノロジーズが開発するシャシー(モノコック+標準空力パーツ)が使われている。現在のシャシーは「Gen2」(第2世代)と呼ばれるシーズン5(2018~2019シーズン)に導入されたシャシーで、Audi e-tron FE07ももちろんこのシャシーをベースに構成されている。また、バッテリーはマクラーレン・アプライド・テクノロジーズ(マクラーレンF1チームも属するマクラーレン・グループの子会社)が開発している共通パーツで、容量は52kWh、重量は385kg、45分でフル充電可能な仕様になっている。

 唯一技術開発が許されている領域がパワートレーンで、アウディではAudi MGU05という独自のパワートレーンを開発して、ワークスチームとなるAudi Sport ABT Schaefflerに供給している。こうしたパワートレーンの開発、そしてシャシーなども含めたメンテナンスは、いずれもアウディ・スポーツの本拠地があるドイツ・ノイブルグのファクトリーで行なわれており、日々パワートレーンの開発やソフトウェアの開発などが行なわれている。

アウディ・スポーツ Eパワートレーン開発責任者 ステファン・アイヒャー氏

 記者会見に登場したアウディ・スポーツ Eパワートレーン開発責任者 ステファン・アイヒャー氏は「われわれは2016年にWECへの参戦を取りやめた後、この電気によるレーシングカーの開発に力を入れてきた。現在では多くのマニファクチャラーがこのシリーズに注力している。その中で開発が許されているパワートレーンの開発に力を入れている」と述べ、アウディがパワートレーンの開発に力を入れてきたことを強調した。

アウディ・スポーツ Formula Eプロジェクトリーダー トリスタン・サマースケイル氏

 また、アウディ・スポーツ Formula Eプロジェクトリーダー トリスタン・サマースケイル氏は「パワートレーンはMGU、ギヤボックス、そしてインバーターなどを非常に小さいパッケージにまとめる必要があるが、重量はわずか35kg未満で効率は95%を超えている」と述べ、アウディが高効率なパワートレーンを開発することに力を入れ、それに成功したとアピールした。アウディによれば、このパワートレーンの最高出力は250kW(340HP)で、0-100km/h加速はわずか2.8秒だということだ。

 なお、このAudi MGU05などのパワートレーンはアウディのカスタマーチームとなるEnvision Virgin Racing Formula E Teamの車両にも搭載されて、シーズン7(2020~2021シーズン)を戦うことになる。

記者会見場に展示されていたAudi e-tron FE07

 アウディによればこのAudi e-tron FE07は、シーズン7(2020~2021シーズン)の開幕戦となるメキシコ共和国サンチアゴ市での市街地サーキットでのラウンド1とラウンド2でレースデビューする計画となっている。また、それに先だって11月28日~12月1日の日程で計画されているフォーミュラEの公式テストでも走行する計画で、そこでメディアなどにお披露目されることになる。

開幕戦が行なわれるサンチアゴ市の市街地コース
Audi e-tron FE07