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「ロケーションビジネスジャパン2019」でGoogleマップの識者が地図・ナビアプリに関するセミナーを実施
ゼンリンが考えるMaaS時代に求められる位置情報・地図情報の利活用とは
2019年6月14日 19:33
- 2019年6月12日~14日 開催
6月12日~14日の3日間、幕張メッセ(千葉県)で行なわれている「Interop Tokyo 2019」の併催イベントとして、「ロケーションビジネスジャパン(LBJ)2019」が開催されている。同イベントでは位置情報ビジネスをテーマとした展示が行なわれたほか、位置情報に関わるさまざまな企業や識者による講演やセミナーも行なわれた。
今回はその中から、多くのドライバーに人気の地図・ナビアプリ「Googleマップ」に関する識者によるセミナーと、地図会社のゼンリンによるMaaS(Mobility as a Service)をテーマとしたセミナーをレポートする。
GMS(ジオメディアサミット)の古株が語る「地図作りの未来~Google Mapsから考える地図作りのターニングポイント~」
ジオメディアサミットとは、2008年ごろに始まった日本最大の位置情報メディア向けフリーカンファレンスで、「オープン」「中立」「交流重視」というモットーを掲げて開催しており、最近ではそこから派生した、公共交通とITをテーマとした「交通ジオメディアサミット」も人気を呼んでいる。今回のセミナーでは、ジオメディアサミットの元代表である関治之氏(Georepublic Japan CEO/コード・フォー・ジャパン 代表理事)がモデレーターとなり、位置情報サービスクリエーターの大塚恒平氏と、青山学院大学 地球社会共生学部 教授の古橋大地氏がパネリストとして参加した。
関氏は、まず2019年3月にGoogleマップのデータが変更されたことについて説明した。Googleは地図の更新スピード向上を目的に、地図データをゼンリン製から自社製へと変更し、衛星/航空写真やストリートビューなどの地上写真、通行実績などのさまざまなデータに加えて、ユーザーからの口コミ投稿などを集めた「ローカルガイド」や、ユーザーからのフィードバックなども加味して地図データを構築している。その一方で、地図としての正確性が従来よりも下がったために混乱したユーザーも少なくなかった。
オープンソースの古地図ビューアライブラリ「Maplat」の開発者でもあるエンジニアの大塚氏は、そのような地図作りの自動化について問題提起を行なった。大塚氏は、Googleマップが衛星/航空写真をもとに道路の形状を地図化していることについて、「人間の目で見る限りは、ジオメトリ(形状)が整備されていれば地図として役に立つと言えるが、地図アプリにおいてナビゲーションなどの機能を使うとなると、ジオメトリだけでは動作しません」と語った。例えばGoogleマップでは実際に、徒歩ナビにおいて横断歩道のない場所で道路を渡るように指示されたり、カーナビにおいて一方通行や右左折禁止などの規制を無視したルートが提示されたりする問題が起きている。
このような問題を発生させないために必要なのは、道路ネットワークや建物情報に付けられた膨大な属性情報であり、細かい属性情報までも自動生成するのは技術的にまだ難しい。省力化などのために、いずれすべての地図情報が自動化される流れであることは必至であるが、現時点ではどうしても自動化できない点はあり、そこを解決しないまま自動化の流れが加速すると、使い方によっては不便な点も出てくる恐れがあると大塚氏は指摘した。
一方で古橋氏は、「5分で学ぶ地図学の基礎」と題して、Web地図の登場による地図の変化について語った。Web地図では地図画面がシームレスに移動できるため、範囲を区切って地図を提供する「図郭・図幅」という概念はほぼなくなった。「縮尺」についてもデバイスによってディスプレイのサイズが異なるため、紙の縮尺ではなくデータの解像度によってズームレベルを変えるという使い方になってきている。地図記号についても国際的な標準化を考える必要があるし、クリック(タップ)すればポップアップして属性情報が表示されるため、アイコンの役割も変わってきている。
注記のフォントも判別しやすい書体を使うようになり、地形表現についても、従来は「ケバ」と呼ばれる細かい線で表現していたものが、等高線から陰影図、赤色立体地図などの立体表現へと移り変わり、スマホの地図アプリやカーナビでは鳥瞰表現が多用され、もはや地図は真上からではなく斜めから見るものになってきている。
さらに、紙地図の時代では、重なる地物を見やすくするために本来の位置からわざとずらして描く「転位」や、地図を読み取りやすいように表現する「総描」という技術が使われていた。このような概念はまだWeb地図では実現できておらず、例えば日光のいろは坂の場合、紙の地図では本来のカーブの数より減らして線をシンプルに描いていたが、Googleマップでは省略していないため、多くの道路が重なって見えづらいという難点がある。古橋氏はこのような例を挙げた上で、現時点でのWebマップは大縮尺に作られすぎており、人間にとって適切な「総描」などの地図表現はまだまだ進化する余地があると締めくくった。
2人の発表後にはディスカッションも行なわれた。「今回のGoogleマップの取り組みについて、最も重要だと思われる変化は何か?」という関氏の問いに対して、古橋氏は「人間が面倒だと思う作業を自動処理できるようになったのは大きな変化」と返答。また、大塚氏は「機械ができることは機械に任せて、細かい属性情報などの人間でないとできないような情報は人間が担当するというように、分業するのがいいのではないか」と語った。
古橋氏はさらに、Googleマップでは交通規制情報について、GPSログなどのユーザーの動きも加味して判断しており、結果としてそれがうまくいきつつあるとコメント。ただし、コンビニの駐車場を斜めにショートカットする人が多いために、その通った軌跡が道として描かれてしまったという失敗の事例もあることに触れた。
一方、大塚氏は「現時点では地図作りを完全に自動化することはできないものの、自動化のスキームをあらかじめ作っておくことで、次にブレークスルーが起きた際に、これまでできなかったことが新たに実現できるようになる可能性はある」と語る。続けて「例えば、現時点では『地図作成の自動化と自動運転とは関係ない』とGoogleはコメントしていますが、衛星測位技術が進化して、スマホでセンチメートル級の測位でプローブが取れるようになったら、自動運転用のデータも生成可能となり、結果的に自動運転の基盤として使えるようになることは十分あると思います」と述べた。
関氏はディスカッションの後半で、「今後も自動化の流れが進んだ場合、何が人間の仕事として残ると思いますか?」と質問。これに対して古橋氏は、「GoogleローカルガイドやFacebookエディターでは、『この店はどうでしたか』など、ユーザーに質問してコミュニケーションを取ることで自動的にデータができあがっていく流れになっています。今後、クルマに音声認識機能が搭載されて、Googleローカルガイドがそこにつながっていくことで、目的地に着いたときに『ここで合っていますか?』『この店はどうですか?』といったフィードバックが行なわれて、それが地図に反映されるようになる可能性はあります」と語った。
MaaS時代に求められる位置情報・地図情報の利活用
住宅地図を日本国内で全国展開する唯一の地図会社であるとともに、さまざまなカーナビやアプリに地図データを提供するゼンリン。最近では、同社が提供する「3D高精度地図データ」が日産自動車のインテリジェント高速道路ルート走行「ProPILOT 2.0」に採用されたことでも話題を呼んでいる。今回のセミナーでは、同社IoT事業本部にてMaaS事業推進を担当する藤尾秀樹氏(IoTアライアンス営業部 営業二課)が登壇し、自動運転やMaaSが進化している今の時代において地図が果たす役割について語った。
藤尾氏はMaaSの市場を、都市間を結ぶ鉄道の線路を中心としたサービスの連携に注目する「サービス型MaaS」と、都市と郊外・観光地・過疎地と結ぶ道路を中心としたモビリティの連携に注目する「課題解決型MaaS」の2種類に分類。そのうえで、MaaSにおける地図の役割は「モビリティをつなぐ」ことと「サービスをつなぐ」ことであり、地図の上に同じ位置で情報を共有することで、色々なサービスがつながり、人の移動に貢献できると語った。
モビリティをつなぐためのゼンリンの取り組みとしては、さまざまな交通手段に対応した交通ネットワークの構築や、地図を初めて扱うMaaS事業者に向けたソリューション開発の検討などを挙げた。地図を媒介とすることで公共交通事業者やモビリティ事業者、各種サービス事業者が情報を共有することが可能になり、例えばユーザーがバスを降りた際に、その先にどのような交通手段があるのかを提案することが可能となる。
ゼンリンが保有する交通ネットワークは、自動車や歩行者、航路、駅構内などさまざまな用途に最適化したデータベースとして管理しているが、MaaS時代への対応に向けて、あらゆる移動に関するネットワークを連携したいと考えている。そこで重要となるのが、バス停や鉄道の駅、駐車場といった各ネットワークの結節点(ノード)であり、どこで何に乗り換えるのかという情報提供が必要となる。
さらに、このような交通ネットワーク構築の仕組みについても、従来は住宅地図やカーナビなど、利用方法ごとにデータを整備して提供するというやり方だったが、その方法ではほかの用途に応用しにくく、提供が遅くなり地図の鮮度が落ちてしまうという課題があった。ゼンリンが数年前から整備を進めている「時空間情報システム」では、住宅地図の調査員や調査車両など複数の方法で集めてきた情報を1つの「出典」に集約し、そこからオペレーターによる手動での入力や機械による自動入力により、地物の情報を追加する。さらに、そのようにして作ったデータベースから、用途に応じて自動変換で地図データを生成するという流れに変更しているという。
地図データの整備をこのような仕組みに切り替えたため、ゼンリンはMaaSで求められる多様なニーズに応える態勢を整えている。例えば地物からバス関連のデータだけが必要となった場合でも、素早くデータを生成し、更新についても従来よりも大幅に短納期で対応できる。「ゼンリンは以前より鮮度向上に向けた仕組み作りを構築しています。MaaS時代においても高鮮度・高精度・多様性にこだわり、皆さまのニーズに応えられるように進めていきたいと考えています」と藤尾氏は語る。
一方、サービスをつなぐための取り組みとしては、鉄道やバス、新たなモビリティの結節点となるところに、交通情報やバリアフリー情報、広告・クーポン、地域情報、モビリティの提案や乗り降りポイントの提供など、さまざまな情報を地図上に集約することで、例えば「駅構内に工事中の出入口がある」というような情報を、駅を利用するバスの乗客やマイカーのドライバーなど、これからそこへ行く人に対して届けられるようになる。
藤尾氏は、このほかの地図情報の役割として、人や車両の移動の可視化も挙げている。ユーザーの移動を地図上に可視化することで定量的な効果測定が実現し、新たなモビリティの創出や交通結節点の改善に貢献できるとしている。例えば、ライドシェアにおけるドライバーと移動車との待ち合わせ場所についても、地図上で移動の状況を可視化することにより、素早く決めることができる。
このような取り組みを進めるため、ゼンリングループのWill Smartでは、カーシェアプラットフォーム「Will-Mobi」を今秋にリリースする予定だ。同プラットフォームは、ユーザーがスマホで利用を予約し、ICカードやスマホで鍵を解錠してキーレスでエンジンを始動させることが可能で、車両の提供者には車両動態管理サービスも提供する。これらをワンパッケージで提供することで、事業者は簡単にカーシェアサービスを提供可能となる。
ゼンリンとしては、交通データや鉄道検索・予約・決済システムなどを提供するMaaSプラットフォーム事業者とは競合するつもりはなく、それらのプラットフォーム事業者に地図を提供し、協力しながら一緒にサービスを作るための基盤となる「MaaS空間情報プラットフォーム」の提供を目指しているという。藤尾氏は締めくくりとして、「交通ネットワークや地図ソリューションなどを提供することで、MaaSのニーズの高度化に貢献していきたい」と語った。