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ブリヂストンや東京大学など、タイヤにモーターと受電機能を組み込んだ「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」説明会

東京モーターショー 2019にも展示

2019年10月10日 開催

東京大学大学院新領域創成科学研究科長 大崎博之氏と東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻/大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授 藤本博志氏

 東京大学大学院新領域創成科学研究科 藤本研究室とプリヂストン、日本精工(NSK)、ローム、東洋電機製造は10月10日、EV(電気自動車)の走行に必要な受電と駆動をタイヤに組み込んだ「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を開発したと発表し、走行中給電の様子を公開した。

 これにより、タイヤとホイールだけで走行中に電気を道路から受け取ることができ、駆動に必要なモーターも内蔵するため、車両への搭載性を大幅に改善するとしている。2022年までにタイヤを含めた車両での評価を行ない、2025年に実証実験フェーズへ移行することを目指すという。

左から東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻/大学院工学系研究科 電気系工学専攻 准教授 藤本博志氏、東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 特任助教 清水修氏、ローム株式会社 研究開発センター センター長 中原健氏、株式会社ブリヂストン 次世代技術開発第一部 主幹研究員 桑山勲氏、株式会社ブリヂストン 知的財産本部 本部長 荒木充氏、日本精工株式会社 パワートレイン技術開発部 副主務 郡司大輔氏

EVが持続可能になるために、走行中の給電は必要

 東京大学大学院新領域創成科学研究科は千葉県柏市の東大柏キャンパスにあり、研究成果発表と走行デモは同所にて実施。准教授の藤本博志氏をはじめ、ブリヂストン、ローム、日本精工の担当者によって「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の説明が行なわれた。

道路から電気を受けている実験車。側面のディスプレイに受電状況が表示されている

 藤本氏はまず、EVが持続可能になるための条件として、走るクルマに電気を送るといったバッテリー容量だけに頼らない方法が必要と訴えた。これは、バッテリーを多く搭載することによって車重が重くなり車両価格が高くなるといったほか、リチウム、コバルトといったバッテリー生産のための資源が不足するリスクがあるため。

 走行中のワイヤレス給電が実現できれば、バッテリー搭載量が少なくなり車両コストが下がって普及するというシナリオがあるという。経済的な観点で試算すると、増え続ける電池のコストに比べ、高速道路へ給電用のコイルを敷設した場合のコストのほうが低くなるとしている。

「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の開発成功とそのポイント
EVが持続可能になるにはバッテリー容量だけに頼らない方法が必要
走行中給電で持続可能になる
車両販売予測における走行中給電のインパクト

ワイヤレス給電インホイールモータは究極の電動システム

 走行中の給電システムは各国で研究されているが、車体に受電コイルを搭載するものがこれまでで、ホイール側で受電するワイヤレス給電インホイールモータのメリットもある。

 藤本氏は、車体側に受電コイルが付けば道路段差などサスペンションの動きで間隔が変化し、乗車人数や積荷の変化による間隔変動も給電の効率に大きく影響することを指摘。インホイールモータでは給電側のコイルと受電側のコイルの間隔の変化を少なくできるメリットを挙げた。

 さらに、路面に近いところに受電コイルを配置できるので、より効率的に受電することが可能になる。エネルギーの流れも受電してすぐモーターに供給できるのでロスも少ない。ドライブシャフトとディファレンシャルギヤといったパーツが不要になって軽量化でき、走行抵抗を減少するインホイールモータのメリットも活かされる。

 さらに、第3世代のワイヤレスインホイールモータは「ホイール外給電」と「ホイール内給電」を用意しているが、「ホイール内給電」では受電コイルまでホイールの内側に組み込むことで、給電側と受電側のコイル間に金属異物が進入する恐れをなくし、より安定した受電ができる。金属異物とは道路上にある空き缶などで、異物があれば過熱防止のため送電を止めなければならなくなる。

 これらのメリットを挙げ、藤本氏は走行中給電とインホイールモータを組み合わせる技術は「究極の電動システムと言うことができる」と強調した。

 今回の時点では「ホイール内給電」は単体での実験にとどまり、実際に走行実験を行なった車両は「ホイール外給電」によるもの。実現には炭素繊維などの非金属のホイールや、タイヤもスチールベルトではなく有機繊維ベルトを使ったタイヤを使う必要がある。

国家研究プロジェクト
国際的な研究開発動向
走行中給電の特徴
インホイールモータの特徴
ワイヤレスインホイールモータが実現する未来
ワイヤレスインホイールモータの進化
開発体制
第3世代で提案したのはホイールの内側と外側の給電方法
両タイプの特徴

第3世代では、すべてをタイヤの中に埋め込み、高出力化も実現

 続いて特任助教の清水修氏が第3世代のワイヤレスインホイールモータの特徴を解説した。「すべてをタイヤの中に」というコンセプトで小型化、高効率化、高出力化を実現し、高出力化では20kW給電と25kW駆動を実現。4輪では100kWの高出力化で「軽自動車から普通車になった」と説明した。

第3世代で実現する3つの要求
モーターの基本構造
モーター内部の技術

 モーター内部では細部に渡って高効率化を実現。85kHzで受電した電力をコンバーターで直流化し、さらに三相交流モーターのため駆動用のインバーターも必要で、超小型SiCを採用してそれらを1枚の円環型の基板に組み込んだ。さらに、高出力化のために冷却も強化。ラジエーターを含めた水冷ユニットまで組み込んだ。

インバーターとコンバーターのレイアウト
インバーター内部の技術として円環基板1枚にまとめた
新たなコイル設計手法を開発
第3世代コイルの構成
送電試験結果は92.5%の総合効率を実証

 一方で、新たなコイル設計手法を採用することで開発期間も短くなり、道路側のコイルも世代が新しくなり給電能力がアップ。給電、受電合わせたコイル効率も98.1%まで向上。試験では20kW給電において92.5%の総合効率を実証した。今後、効率は95%を目指していくという。

ホイール内給電タイプのカットモデル
タイヤは非金属のベルトを採用。ホイールも炭素繊維素材を使ったものを採用してオレンジ色にしてある受電コイルにロスなく電気が届くようになっている
有機繊維ベルトを採用したタイヤのカット部分
ホイール外給電タイプのカットモデル
ホイールの外に受電コイルがあるが、ばね下ということでインホイールということだという
近い位置で電気を受けることができる
タイヤの外形

パワーモジュール、タイヤ、給電環境も進化

 ロームからは研究開発センター センター長の中原健氏が、装置の小型化に貢献した超小型SiCについて説明した。半導体はチップそのものの性能を語られることが多いが、中原氏は「SiCの半導体のチップの特性を活かしきるにはふさわしい器が必要にある」とし、それが今回の5分の1サイズになった超小型SiCモジュールであるという。

 片面冷却で両面冷却よりも低熱抵抗、量産品で約80%の体積低減、熱劣化のない高耐久性の3つで、それらを汎用性を持たせたモジュールとして実現。これまでのもの対して優位性があるとした。

ロームの超小型SiCパワーモジュールの特徴
低熱抵抗化が重要
小型化し、さらに熱耐久性を高めた
超小型SiCパワーモジュールも展示された

 ブリヂストンは次世代技術開発第一部 主幹研究員の桑山勲氏がホイール内給電タイプにおける、有機繊維ベルトを採用したタイヤの説明を行なった。ラジアルタイヤは一般的に骨格部材としてスチールベルトを採用するが、ホイール内給電向けには給電の際のエネルギーロスとなるため、金属ではない有機繊維ベルトに置き換える。

 実験でもスチールベルトに対して有機繊維ベルトでは7.7%の給電効率のアップを確認。ベルトなしに対してもほとんど効率が落ちない結果も示した。その上で有機繊維ベルトのタイヤを試作し、タイヤの発熱もなくエネルギーロスもないことが確認できたという。

骨格に有機繊維を採用したタイヤを開発
スチールベルトでは送電エネルギーのロスがある
給電効率の試験結果
スチールベルトでは送電に反応して熱を持ちロスになるが、有機繊維ベルトはそうならない
有機繊維ベルトを採用した試作タイヤ。カットモデルということでホイールはアルミ素材だが、実際は東レ・カーボンマジックが開発したホイールを使う

 NSKはパワートレイン技術開発部 副主務の郡司大輔氏が、ワイヤレス給電で充電から解放されることの現実性を解説した。NSKではインホイールモータの機械部分の設計を行なっているが、あわせてフィジビリティスタディも行なっている。

 走行データの解析から、クルマの全走行時間の約25%の時間は、信号機の手前30mの範囲に滞在していることを発表。そのため、信号の停止線の手前30mに左右2輪でワイヤレス給電設備を設置したシミュレーションでは、バッテリーがほとんど減らない走行が可能となり「充電からの解放は夢物語ではない」と強調した。

充電作業はなくすことができる可能性
どこにどれだけ送電コイルを設置すればよいか
試験走行のデータでは、クルマの全走行時間の約25%の時間は信号機の手前30mの範囲に滞在
走行中給電をシミュレーションすると、200km走行でもバッテリー容量はほとんど減ってない

 さらに、ブリヂストン 知的財産本部 本部長の荒木充氏が知財管理について解説。「今回のオープンイノベーションは知的財産の共有できるプラットフォームが働いた」と言い、企業や団体が強みを持ち寄って融合し、高度なシステムで社会課題を解決するオープンイノベーションの知財管理プラットフォームの必要性を訴えた。

 ワイヤレス給電については企業が参画しやすいオープンポリシーの知財管理体制を構築したため、給電コンセプトは無償解放、基盤アプリケーションは被差別ライセンス、さらにその上の差別化アプリケーションについては個別ライセンスで活用する3層の知財共創エコシステムを構築したという。

3層の知財共創エコシステムを構築

 なお、発表した「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」については、10月23日に開幕する東京モーターショーでもカットモデルの展示を行なう。ホイール内給電モデルはブリヂストンのブースで、ホイール外給電モデルはNSKのブースに展示される。ブリヂストンのブースでは藤本氏と清水氏が登壇するトークショーを10月30日と11月1日に実施、NSKのブースでは動画など詳細な解説展示も行なうという。

東京モーターショーで「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」をブリヂストンとNSKのブースで展示

インホイールモータはばね下重量の問題は解決済。さらにメリットがある

 また、質疑応答に答えるかたちで、インホイールモータではばね下重量が重くなるという問題についても藤本氏が解説した。

 インホイールモータでは細かく制駆動力を制御できるためサスペンションの上下両方向の力を制御可能とし、ばね上の上下振動を抑圧。官能評価では揺さぶりがない体感を実現できるため、すでにばね下重量の問題は解決済みとの見解を示した。

 そして、さらに道路の凸凹に起因する音や振動の改善まで、研究がすでに進んでいるとした。今後、自動運転が進化すれば走行中にドライバーが運転以外のことをする可能性があり、ピッチングやローリングの要求が厳しくなるため「自動運転時代にはピッタリだとして研究を進めている」と述べた。

インホイールモータは上下両方向に大きな力を発生可能
インホイールモータは制駆動力でヒーブ方向の力を出せ、ロール制御も可能

受電しながらの走行を公開

 発表のあとは柏キャンパス内の実験場に場所を移し、「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の走行デモンストレーションを行なった。実験車両には左右の後輪にホイール外給電タイプの「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を装着。走行しながら受電状況が分かるよう走行した。

「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を搭載した実験車
「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を搭載した実験車

 実験用車両は手動運転のため、送電側のコイルと受電側のコイルの位置が大きくずれた進路を走行すると給電ができなくなることもある。道路からの給電は将来の自動運転を想定したものなので、自動運転であれば位置ずれの問題は解決できるという。

 今回の実験では2列にコイルを並べたが、車両によって幅が異なるため、乗用車は1列で前後に受電コイルを設置。商用車は2列で受電コイルを設置するなどの検討は今後行なう。また、コイルの間隔についてもすき間なく並べるのか、少し間を開けるのかは場所によって異なるとし、それも今後の検討課題だとした。

 なお、「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を搭載した実験車は10月25日と26日に開催の「東京大学柏キャンパス一般公開2019」にてデモ走行を行なう。さらに11月8日に自動車技術会が行なう公開委員会を柏キャンパスで実施し、デモ走行を行ない広く公開していくという。

後輪に「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を搭載した
送電コイルの上に停車
両側に「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を搭載
送電、受電コイルの間隔はこのくらい
ホイール外給電のため、タイヤはブリヂストン「Playz PX」の215/40R17サイズという一般的なもの
水冷のラジエーターまでホイール内に内蔵
実験車の前輪は駆動していなかった
電気を受けている様子
給電状況はカーメイトと共同開発したアプリでも表示できる
テストコースに設置した送電コイル
実験車の運転席
解説する藤本博志氏
第2世代の実験車も展示
4輪にインホイールモーターを装着
インホイールではあるが、ホイール内からかなりはみだしている
第2世代車ではホイールと車体間もワイヤレスで送電して、伝送するケーブルの影響を抑えていることが特徴だという
リアのモーター
第2世代の実験車の運転席