イベントレポート

【東京モーターショー 2019】ブリヂストン、EVにワイヤレス給電。2025年にはワイヤレス給電対応タイヤの実証実験

ブリヂストン 主幹研究員 桑山氏と東京大学大学院 准教授 藤本氏がトークショー

2019年10月25日~11月4日 一般公開日

東京モーターショー 2019 南館 ブリヂストンブースで開催されたワイヤレス給電対応タイヤのトークショー。研究の最前線に携わる研究者のトークショーは楽しい

 東京モーターショー 2019では、さまざまなブースで多くのイベントが開催されている。子供から大人まで楽しめるものを多く用意しているが、出展者によっては、技術的に興味深いイベントを開催しているものもある。

 本記事で紹介するのは、10月30日に南館のブリヂストンで開催された「ワイヤレス給電対応タイヤ」に関するトークショー。東京大学大学院 新領域創成科学研究科 准教授 藤本博志氏、ブリヂストン 主幹研究員 桑山勲氏が登壇し、ワイヤレス給電対応タイヤやワイヤレス給電に対応するインホイールモーターの研究に関する最新状況を分かりやすく紹介した。

東京大学大学院 新領域創成科学研究科 准教授 藤本博志氏
株式会社ブリヂストン 主幹研究員 桑山勲氏
インホイールモーターにおけるワイヤレス給電の取り組み

 ブリヂストン 桑山主幹研究員は、トークショーの最初に「ブリヂストンも15年前にはインホイールモーターの開発をしていましたが……」と、インホイールモーターから紹介。現在の市販EV(電気自動車)のほとんどは、エンジンをモーターとインバータに置き換えた形式のオンボードモーターを採用しており、駆動にはデファレンシャルギヤなどを介している。一方、インホイールモーターは名前のとおり、ホイールの中にモーターを組み込む形式。4輪の場合、モーターは4つ必要となるものの、4輪を独立してコントロールすることができ、モーターも小さくすることができるほか、従来とは異なるクルマのコントロールもできるようになる。

 そのインホイールモーターを紹介した後、EVの電費問題に触れる。藤本准教授は、一般的なEVの航続距離は200km程度と紹介した上で、その航続距離を伸ばすためにはバッテリをたくさん積めばよいが、積めばそれだけ重くなり電費は悪化するという。そこで、現在世界各国で競争しているのが、ワイヤレス給電という方法。駐車場や道路にワイヤレス充電用のコイルを装備or埋め込み、その上をシャシー下面にコイルを装備したクルマが移動することによって充電しようというもの。これであれば、移動しているときに充電されるので、急速充電のような待ち時間もなくなる。

インホイールモーターを主役にしつつ、ワイヤレス給電について紹介
インホイールモーターのメリット
インホイールモーターに向いた給電方法とのこと
現在各国で研究されているシャシー下面のワイヤレス給電
ブリヂストンと東京大学が手がけるワイヤレス給電対応タイヤによる方式

 現在は夢の技術であるものの、藤本准教授は鉄道の例を紹介。かつて鉄道は蒸気機関車などであったものの、現在は架線から電気を受け取る電車が主流。すでに当たり前の風景になっているが、「鉄道の登場初期には電車は夢の技術だったのではないか?」と観客に問いかけ、クルマも道路のワイヤレス給電素子で充電する時代が来るのではないかという。

 そこで問題となるのがどのような方式でワイヤレス給電していくのかということ。世界のほどんどの研究開発がシャシー下面にワイヤレス充電コイルを持つのに対し、藤本准教授らが研究開発しているのが、インホイールモーターと組み合わせてタイヤの内部にコイルを持つ方式で、充電コイルとモーターが近いことから効率もよいという。

この方式が普及すると、充電作業が不要になる
EVの電費問題などを紹介
ワイヤレス給電が普及した未来
こちらはインホイールモーターの紹介
藤本准教授によるワイヤレス給電の紹介

 ただ、その際にネックとなったのがタイヤの問題。タイヤには重さを支えるなどの構造部材としてトレッド面の裏側にカーカスが貼られており、この内部に鉄が用いられている。この鉄が充電用磁界のジャマをするため、効率よく充電できなかったという。そこで友達の桑山主幹研究員に相談。ブリヂストンとして特別なタイヤを開発することになった。

 特別に開発したタイヤは、カーカス内のスチールベルトに代わり有機材料ベルトを使ったもので、充電効率アップを確認しているという。また、この新構造タイヤが充電時に発熱もしないことを確認。スチールベルトのタイヤでは、充電コイルの上を走ったときに炊飯器などに使われているIHと同じような現象となり発熱するのに対し、有機材料ベルトでは発熱もないという。

ワイヤレス給電タイヤの実証実験

 確かに、EVが充電しながら走ることの可能なワイヤレス給電が普及すれば、EVの航続距離の問題は解決へと向かう。また、同時に充電待ち時間や充電忘れという問題も消えることとなり、そちらを重視する人もいるだろう。

 ただ、問題は本当に路面に埋め込むワイヤレス給電が普及するかどうかだろう。この普及へ向けてのロードマップを藤本准教授に確認したところ「研究開発のめどはすでに立っており、2025年には実証実験に入りたい」とのこと。協力する自治体などの確認をしてみたが、まずは広大な東京大学のキャンパスの一部でできればとのことだった。また、桑山主幹研究員も「小平(東京都小平市)のブリヂストンの研究開発施設も広いので」と語り、いずれにしろ5年程度のスパンで実証実験は始まりそうだ。

 東京大学のキャンパスとなると、この時期などはいちょうの葉がものすごく多いのが印象的だが、「いちょうの葉っぱなどは問題ありません。雨や雪も大丈夫です。磁界を遮らないので。ただ、空き缶などは問題になりますが、シャシー下面のワイヤレス給電よりも、タイヤ下面のワイヤレス給電のほうがトラブルは減る傾向になります」とのことだった。

 この技術は、研究開発をインホイールモーターと同時に行なっているので、インホイールモーターとセットで見られがちな部分もあるが、ワイヤレス給電そのものはワイヤレス給電対応タイヤと、タイヤ内部まで食い込んだワイヤレス充電コイルになる。現在のハイブリッド車でも装備可能な技術で、ハイブリッド車の燃費を大幅に改善する可能性もあり、藤本准教授はその方面の可能性も視野に入れているとのことだった。

ブリヂストンブースに展示されているワイヤレス給電対応タイヤ。赤く見えるのが充電コイル

 ブリヂストンブースでは、毎日11時30分からトークショーを開催。今後も興味深いトークショーが開かれるので、東京モーターショーへ行った際は立ち寄ってみていただきたい。

ブリヂストン トークショー(予定)

10月31日(木):「SUSYM(サシム)」 アーティスト AKI INOMATA氏、ブリヂストン フェロー 会田昭二郎氏
11月1日(金):ワイヤレス給電対応タイヤ 東京大学大学院新領域創成科学研究科 特任助教 清水修氏、ブリヂストン 主幹研究員 芥川恵造氏
11月2日(土):Bridgestone World Solar Challenge(BWSC) 工学院大学教授 濱根洋人氏、工学院大学 ソーラーカーチーム キャプテン 尾崎大典氏、工学院大学 ソーラーカーチーム ドライバー 早川雄大氏、ブリヂストン ブランドコミュニケーション本部長 大山和俊氏
11月3日(日):「あなたのCHASE YOUR DREAM」 元競泳選手 松田丈志氏、競泳 萩野公介選手

編集部:谷川 潔