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富士通、EVのパワーモジュールへの実装も見据えた「カーボンナノチューブ接着シート」を開発

従来比3倍の高熱伝導性を実現。放熱材料としての実用化が可能に

2020年4月17日 発表

カーボンナノチューブ接着シート

 富士通研究所は4月17日、最高で100W/mKと極めて高い熱伝導性を有するカーボンナノチューブから構成された接着シートを世界で初めて開発したと発表した。

 これまでカーボンナノチューブは、高い熱伝導性を持つため、半導体素子などの熱源から熱を逃がすための放熱材料として活用が期待されるが、形状が崩れやすく扱いが困難なため実用化には“使いやすさ”の点が課題となっていた。そこで富士通研究所は、垂直方向に並んだカーボンナノチューブを、本来の特徴である高い熱伝導性と柔軟性を損なうことなく、配列を保持したままラミネート加工する技術および十分な接着性を保持したまま接合する技術の開発に成功。

 この技術により、カーボンナノチューブの裁断やハンドリングが容易になるため、例えばEV(電気自動車)向けの車載パワーモジュールへの実装など、放熱材料としての実用化が期待される。富士通研究所は、カーボンナノチューブ接着シートの使用を、材料メーカーなどへライセンスしながら実用化を目指すとしてる。

カーボンナノチューブ接着シートの積層構造と多層カーボンナノチューブ

開発の背景

 温室効果ガス削減に関する環境規制を背景にグローバルで実用化が進むEVは、ガソリン車よりも高コストかつ走行距離が十分でないことが普及の足かせとなっている。EVに装備されているパワーモジュールには、一般的にシリコンを用いた素子が使用されるが、ガソリン車並みの長い航続距離などのニーズから一層の消費電力低減が求められており、パワーモジュール向け素子としての限界も見えていた。

 そこで近年は、EV向けモジュールの小型化・軽量化・低消費電力化、かつ低コスト化が実現可能なシリコンカーバイドやガリウムナイトライドをシリコンの代替素材として適用した半導体素子の開発が進められてるが、モジュール小型化に伴う半導体素子周りに生じる発熱対策が必須の課題となり、モジュールを構成する放熱材料や接合材料などの部品にもこれまで以上の高温耐性や高熱伝導性が求められていた。

課題

 炭素原子から形成されたナノテクノロジー材料の一種であるカーボンナノチューブは、銅のおよそ10倍の高い熱伝導性を持つため、シート化することで半導体素子などの熱源から熱を逃がすための放熱材料として活用が期待される素材。富士通研究所は、カーボンナノチューブを用いた高熱伝導シートを2017年に開発したが、シート形状を保持するために2000℃以上の超高温下において焼成成形をするため、シートが硬くなり柔軟性に欠ける。硬いシートは、平坦な材料同士の接合では問題ないが、凹凸の大きい材料同士の接合には不向きであるため、シートの活用用途が限定されてしまうという課題があった。

 また、信頼性が要求される半導体素子周りにおいては、素子の動作前後に発生する熱による変形に追随するため、半導体と熱を逃がすための冷却部をカーボンナノチューブから成る放熱シートを介して接着させる必要がある。一般的にカーボンナノチューブに接着性を付与するためには、樹脂やゴムなどの粘着素材にカーボンナノチューブを混ぜ込んでシート化するような手法が用いられるが、このような粘着素材は低い熱伝導率を持つため、熱伝導性と接着性を両立させることが極めて困難だったという。

開発した技術

 今回、界面抵抗を含めた場合でも最高で100W/mKと極めて高い熱伝導率を示すカーボンナノチューブ接着シートを世界で初めて開発。開発した技術の特長は以下のとおり。

シートラミネート技術

 垂直方向に並んだカーボンナノチューブを、配列を保持したままラミネートする技術を開発。ラミネート層は、保護シートと接着層の2層で構成され、カーボンナノチューブの上下をラミネート層が保護する積層構造を有する。カーボンナノチューブは、形状が崩れやすいため放熱材料として使用するには扱いが困難だが、この技術によりカーボンナノチューブそのものがラミネート層で保護されるため形状が安定し、従来は難しかった裁断加工やハンドリングが容易となる。

シート高熱伝導接合技術

 ラミネート層を構成する接着層は、厚さ数ミクロンメートルの樹脂から形成。樹脂はわずかな量であっても大きな熱抵抗の要因となるため、樹脂による接着性の付与と熱伝導性の両立が解決すべき課題となる。そこで、富士通研究所では、長年培ったカーボンナノチューブと樹脂の境界面における熱抵抗に関する知見を活かし、カーボンナノチューブの密度、樹脂の種類や厚み、接合条件といった3つ以上の相関パラメーターの最適化を行なうことで、カーボンナノチューブの熱伝導性を損なうことなく、十分な接着性を保持したまま接合を行なうことを可能とした。

効果

 今回開発したカーボンナノチューブ接着シートは、既存の高熱伝導材料として知られるインジウムを原料とする放熱材料(インジウムシート)と界面抵抗も含めた実測値により比較した結果、最大で3倍の熱伝導率を確認。また、本シートは、接着層および保護層と一体でラミネート化されているため、容易に裁断加工やハンドリングが可能となるとともに、接着を必要とする用途への展開を可能とした。

 これらの技術により、EV向けの車載パワーモジュールをはじめとする、カーボンナノチューブの放熱材料としての実用化が可能になり、今後富士通研究所では、カーボンナノチューブ接着シートの使用を材料メーカーなどへライセンスしていくことで実用化を目指すとしている。