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少量オーダーから受け付ける、ブレーキローターのオーダーメイド生産をご存知?

パーツが廃盤になった旧車、稀少車のためにアクレが展開

旧車、希少車オーナーにも嬉しいブレーキディスクローターのオーダーメイド生産について聞いた

 Car Watch読者の皆さんと同じように、筆者も1人のクルマ好きである。免許を取得したのは1980年年代で、そのころと言えばご存じのようにトヨタのAE86やマツダのRX-7(FC3S)、日産ではFJ20エンジンを積んだR30 スカイラインからシルビア&180SXなど魅力あるクルマが数多く登場した時代でもあった。

 ただ、当時の筆者は新車など買えるわけもなく中古車ばかり乗っていたのだが、とにかく若いころに刺激を受けたクルマは歳を取っても自分の中に当時の風景とともにいい記憶として残るので、今でも見かけるたびに注目してしまう。そして所有してみたい気持ちが湧いてくることもある。

 とはいえ、古いクルマは手間がかかることが多く、維持していくのは楽ではない。こうした旧車オーナーへのインタビューで盛り上がるのはたいてい苦労話だが、中でもよく聞くのが整備や故障時に使うパーツが入手しにくかったり、あっても高価だったりすること。そんな状況において、とくに困るのがブレーキまわりのパーツが入手困難になっていることだ。

 クルマの整備の中でブレーキは最重要項目なのだが、旧車は一部の人気車を除き、多くの車種でブレーキまわりの純正パーツおよび代用品がすでに生産終了しているのだが、ブレーキに十分な整備ができないクルマは走らせるうんぬん以前に車検を通すことが難しい。

 そんな状況に対し、日本のブレーキパッドメーカーであるアクレが行なっているのがブレーキディスクローターのオーダーメイド生産だ。従来、ディスクローターは100枚単位からしか製造できないものだったが、アクレでは製造方法を見直すことでこれを20枚から可能とした。ブレーキローターは通常左右セットで交換するものなので、つまりは10台分だ。それでも個人でオーダーするには多すぎるのだが、旧車は同じクルマに乗っている人同士でつながりがあるケースも多いので、コミュニティ内で購入希望者を募って共同購入するという手もある。実際、そういった注文は多いという。

こちらは株式会社アクレの広報・営業担当の濱田氏。ディスクローターのオーダー受付担当者でもある

 アクレが行なっているオーダーメイドのディスクローターは、国内のブレーキローター工場で製造し、素材には高純度モリブデン、銅、ニッケルを多く配合、純正同等の品質であるだけでなく強度もJIS規格を満たしている。また、回転バランスの精度も高いので「ローターの振れ」が発生する心配も無用。純正ローターの代替品として安心して使えるものということだ。

これはホンダ S660用のディスクローター。純正形状のまま大径化している
別途注文によってディスク面にスリットを入れることにも対応しているし、旧車レースなどに参加する人にはローターの大径化やインセット変更などにも対応している

 では、実際にオーダーする場合だが、その際に必要になるのが採寸用のディスクローター。クルマに付いた状態では細部の採寸ができないので、取り外した状態であることが条件。程度に関しては新品である必要はなく、実走行が可能で車検に通る程度のコンディションであれば大丈夫だ。

 アクレで採寸したのち、受注状況にもよるがおよそ1か月が納期の目安となるので、交換作業が始まる前にオーダーしておくのが作業をスムーズに進めるポイントだろう。そして気になる価格だが、これはローターサイズや形状(ソリッドorベンチレーテッドなど)によって変わるが、ほとんどの場合、純正ローターよりも安く作れるということなので、一部のスポーツ車に採用されているブレンボキャリパー仕様など、純正ディスクローターの価格が高いクルマでは仲間と共同購入するのは整備コストを減らすうえで有効なことだろう。

 このことについて、アクレでは「ディスクローターのオーダーメイド生産はパーツの生産が終了したクルマ向けに始めたものですが、最近は高性能なブレーキシステムを標準装備しているクルマが増えています。高性能なブレーキシステムは純正といえどリペアパーツは高価で、例えばスバル車のブレンボブレーキ仕様では交換用ディスクローターが1枚8万円することもあります。これを当社で作らせていただくと1枚あたりの価格が4~5万円になるので、2枚分となると純正よりかなりお安くなる計算です。そのため、そういったクルマに乗る方から交換用としてオーダーをいただくことが増えました」という。こちらも20枚(10台分)から受け付けるので、仲間を集める必要があるが値段を聞くとこれは覚えておいて損はないだろう。

製作には寸法取り用のローターが必要。新品である必要はなく中古品で構わないが、振れなどなく車検に通る程度のコンディションであることが望ましい
ローターの大径化やインセット変更もできるので、キャリパーブラケットの製作も依頼すれば大型キャリパーも製作可能。アクレはオリジナル設計の大型キャリパーもラインアップしている

 アクレではディスクローターのオーダーメイドのほかに、ブレーキパッドのリペアサービスも行なっている。パッドの座金があればそこに新しい摩材を貼り付けるというもので、摩材自体は純正同等の効きを持つものからスポーツ走行向きのものまで選べるので、リペア用だけでなく、スポーツパッドが市販されていない車種に最近の主流であるカーボンメタルパッドを作ることも可能だ。

ブレーキパッドの摩材に使用する材料の一部。予想以上に多くの材料を使っている
スポーツパッドに多い「カーボンメタル」だが、このカーボンは効きを高めるためではなく「滑らせるため」のものとのこと。効きを高める主役はメタルで、カーボンを混ぜることでタッチ感の向上やブレーキ鳴きを抑えているという
これはパッドの製造するときに使用する金型。これで固めたあとに釜に入れて焼いて仕上げていく。スポーツパッドの場合は、最後にもう一度摩材表面に熱を入れることで、いわゆる「焼き入れ不要」の状態にしている
ブレーキパッドは座金が残っていれば、そこに新しい摩材を貼ることでリペアパーツとして使用できる。このサービスも行なっているが、こちらは1台分でも受け付けできるとのこと。詳細はアクレに問い合わせていただきたい
摩材のセンターのある溝は削りカスのクリーニング用に切ってあるもの。ディスクローターに入れるスリットは摩材表面にカンナを掛けるような効果を持たせることで酸化した部分を積極的に取り除き、パッドの性能を発揮しやすい状態に保つ効果がある
アクレには車高調整式サスキットを製造販売する「スピリット」というブランドもある。こちらもワンオフ製作の対応しているので、旧車や稀少輸入車のオーナーからの注文を受けることも多いという

 アクレが行なっているこれらブレーキまわりのサービスは、単にクルマ趣味を手助けするためだけのものではない。旧車と言えども、公道を走るうえではブレーキは最も重要な部品なので、そこをしっかり整備できる環境作りに貢献するものでもある。最近は自動車メーカーも旧車用の純正部品販売を再開する動きもあるだけに、同じく旧車の整備環境を向上させるアクレの取り組みも広く知られてほしいものである。