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ホンダ、聴覚障がい者の意思疎通をサポートするAI音声認識システム「Honda CAシステム」レポート

ホンダの人材多様性の取り組みの一環。9月から社内利用を本格開始

2020年12月21日 発表

Honda CA システムを使った会議のデモ

 本田技研工業は12月21日、本社において人材多様性の取り組みについて説明を行ない、そのなかでホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン(HRI-JP)が開発した聴覚障がい者と健聴者の意思疎通をサポートする「ホンダ・コミュニケーション・アシスタンス・システム(Honda CA システム)」の社内利用を9月から本格開始したと発表した。

 Honda CA システムは、ホンダの先進科学技術の研究を行なうHRI-JPが2017年から開発しているAI音声認識システム。聴覚障がい者と健聴者が会議などでリアルタイムにコミュニケーションをすることを可能にしたもので、発話を認識して画面に表示。また、手書きの文字も画面に表示して会議などを進行できる。既存の音声認識システムでは対応しにくい社内用語の対応やスピードといった問題にも対応した。

ホンダの人材多様性の取り組みは創業者本田宗一郎氏の時代から

 ホンダは以前から人材多様性の取り組みを行なっている。障がい者が働く特例子会社として、ホンダ太陽とホンダR&D太陽があり、今回のHonda CAシステムも両社での本格利用が開始されたもの。本田技研工業 人事部多様性推進室 室長の町 潤氏は両社について「人間尊重の基本理念があって設立された会社」と説明する。

本田技研工業株式会社 人事部 多様性推進室 室長 町 潤氏

 ホンダ太陽は、1978年に本田宗一郎氏が障がい者が働き生活する施設である「太陽の家」に訪問したことがきっかけ。ソニー創業者の井深大氏の招きと、医学博士で日本のパラリンピックに貢献した中村裕氏の案内で訪問したが、本田宗一郎氏は涙を流して感動。半年後に太陽の家に職業訓練科目を発足し、1981年にはホンダ太陽を設立。部品メーカーやホンダ内部からの仕事創出に対応、さらに1992年にはホンダR&D太陽を設立して現在に至っている。

ホンダフィロソフィーの基本理念
障がい者が働いて生活する施設「太陽の家」は1965年設立。本田宗一郎氏が訪問し、涙を流して感動したという
ホンダ太陽の業容

 また、町氏はホンダの人材多様性の取り組みを説明。女性の活躍に向けたキャリア形成支援、仕事の育児・介護の両立支援などを紹介した。LBGTへの取り組みも積極的に行ない、同性パートナーを配偶者として取り扱う制度改定を実施し、2020年11月には任意団体「work with Pride」が定めた「PRIDE指標」でゴールドを受賞したなどの実績も紹介した。

多様性にまつわる社会の変化とホンダの取り組み
ホンダのLGBTの取り組み
ホンダの人間尊重の基本理念に対し、アプローチとやろうとしていること

聴覚障がい者と健聴者の双方向コミュニケーションをサポート

 Honda CA システムの開発を担当したHRI-JPのプリンシパルエンジニア 住田直亮氏は、今回の開発はホンダ太陽やホンダR&D太陽を訪問した際に「コミュニケーションに課題がある。筆談が使われているが、時間がかかり、担当者の負担が多く、正しく伝わらない」と感じた開発当初を振り返り「まさに技術は人のためにある。ホンダの仲間としてサポートできないか。そこで開発したのがHonda CA システム」と説明した。

ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン プリンシパルエンジニア 住田直亮氏
ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンの紹介
ホンダ太陽、ホンダR&D太陽の理念
HRI-JPで研究していた音声認識技術を応用。聴覚障がい者と健聴者のコミュニケーションをサポートするシステムとして開発

 Honda CA システムは単なる文字起こしではないことも強調。市販の音声認識ではうまくいかなかった点を克服できるよう、専門用語、人の名前、ホンダ用語などを登録、ホンダ太陽やホンダR&D太陽と開発者が一体となった取り組みでHonda CA システムが作り上げられた。

 開発開始は2017年。最初の段階では音声認識性能は低く、現場で会議や朝礼を録音し、「正解」のデータを作り学習させていった。リアルタイム性と正確性を両立するため、試行錯誤を繰り返し、2019年には現在に近いものが完成。新型コロナウイルスの影響で少し遅れたが、2020年9月の本格利用に至った。

説明会時、登壇者の話した内容を認識して表示
Honda CA システムの特徴
ユーザーの声

 Honda CA システムはウェイクアップワードなどは不要。発話を始めてから約2秒で表示する。住田氏は「とりたてて早いわけではない」としながらも、単語誤り率は他社システムよりも優れた9%で、会議の流れやコミュニケーションを妨げる処理遅れのないものになっているという。

導入後はケースによっては筆談も必要なくなり、会議にも集中できるように
活用場所の広がり
今後の展開

 Honda CA システムは、クラウドサービスは使わず、音声認識サーバーとして高性能PCを用意、音声データを送信すると文字が表示されるようになっている。表示にはWebブラウザを用いているため、端末を選ばずに使うという発展も可能となる。また、拠点にサーバーを設置すれば、1台で5つの会議までサポートするという。

 なお、Honda CA システムについては社内向けのものとしているが、外販については「要望があれば前向きに検討したい」とした。

Honda CA システムは、さまざまな人の声を認識して表示

 説明会では、途中からHonda CA システムを使って登壇者や質疑応答の音声を画面表示させて進行。専門用語についても正確に表示することが確認できた。また、ホンダ側の人の声だけでなく、質問者の質問についても正確に表示することが確認できた。

Honda CA システムを使った会議のデモを開始

 また、実際に障がいを持つ従業員による会議のデモも行なわれたが、すぐに発言内容が画面に表示され、聴覚障がいを持つ人も発言内容をすぐ知ることができる。また、手書きもサポートしており、手元のタブレットに手書きすることで声を出さなくても発言でき、会議が進行できることが披露された。

 さらに、新型コロナウイルスの影響でマスク着用が進んだことで「口読み」が困難になったことにおいても、Honda CA システムが役立っている。軽度の聴覚障がいの場合、聞き取りと口読みを併用することで発言内容を把握していたが、マスク着用が進んだことで、口が読めないほか、音声の明瞭度も下がる。その点についてもHonda CA システムは円滑なコミュニケーションのサポートに役立ったとしている。

発言の表示画面。マイクによって色分けされる
手前側の従業員がタッチパネルで手書き入力中。手書き文字を使った筆談も交えてコミュニケーションができる