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超々ジュラルミン製品1つから発注可能、ミスミのAI自動見積もり製品発注システム「meviy(メヴィー)」とは?

3D CADデータのアップロードでOK

AI自動見積もり製品発注システム「meviy(メヴィー)」についての話をうかがった株式会社ミスミグループ本社 常務執行役員 兼 ID企業体社長 吉田光伸氏

ミスミのメヴィー

 ミスミという企業を知っている人はいるだろうか? ものづくりにかかわっている方ならおなじみの企業で、多数の機械部品や配線部品、プレス金型部品やねじなど小さな部品からまとまった製品まで販売している。その特徴は、それらすべての部品を分厚いカタログで販売していることで、このカタログ販売により部品の価格を明朗会計、カタログという規格化することで標準化し短納期を実現している。

 1963年に設立された企業だが、1977年に部品のカタログ販売というビジネスモデルを開始したことで急成長。日本のものづくりの発展を支える企業として、取扱製品は約3300万点に増え、顧客は世界に広がって32万社になるという。

meviy事例 株式会社 デンソー

 そのミスミが新たな事業として取り組んでいるのが、オンラインで部品などのCADデータを送ると、AIが自動で見積もり、その価格でOKであればミスミが製造して発送してくれるという「meviy(メヴィー)」というシステム。部品1つから発注できるというので、今回そのメヴィー事業を担当するミスミグループ本社 常務執行役員 兼 ID企業体社長 吉田光伸氏に話をうかがった。

効率を劇的に改善するメヴィー

3D CADデータから簡単に3Dオブジェクトを生成。見積もりまで行なってくれるメヴィー。価格も1万2175円、納期6日と出ている
実際にメヴィーで製造した部品。このように3D CADデータだけで部品の製造までもっていける

 吉田氏はミスミ入社以前に、日本電信電話会社(現NTT)でインターネット黎明期からネットを活用した新規事業を数多く担当。その後、日本オラクルを経てミスミグループ本社へ入社。新規事業となるメヴィーを担当している。

 このメヴィーが目指しているのは、製造業のDX化だと吉田氏はいう。ミスミは部品のカタログ販売によって、部品の標準化、短納期化などを提供できているが、逆に言えば標準化できていないものは、従来どおりの受発注フローで製造業は回っているとのこと。

 メーカーが図面を書き、それを部品製造業者にFAXで送信、部品製造業者が図面を見て見積もり、その見積もりがOKであれば部品の製造が進む。さらにその部品に塗装などが必要だと別途塗装業者への見積もりなども必要で、時間がかかる状況になっている。

 もちろんこれはスムーズに進んだ状態で、実際は複数の部品製造業者に見積もりを出す“あいみつ”などを行なったりするため、部品製造業者もほかの仕事が忙しければすぐには見積もってくれない。また、図面が完璧であればよいが、特殊な部品であればあるほど製造が不可能な図面となることも多く、部品製造業者との調整が必要になってくる。

 記者も学生時代は、そういった一品ものの試作品を作る工場でアルバイトをしていた(なんとか発電所の制御盤とか、なんとかモーターカーの試作制御盤とか)が、若い技術者が作ってくる図面はベンディングマシンで折れないものがあり、工場長(といっても社長1人の工場)が電話で「こんなの作れないよ~、もっと考えてよ~」と嘆いていたのを覚えている。

 吉田氏によるとメヴィーは、こういった領域の効率を劇的に改善していくものという。

メヴィーの効率について語る吉田氏

AI自動見積もり

メヴィーのAI自動見積もりによるデータ検証。これは穴の位置が折り目に近いことを警告している

 メヴィーの大きな特徴として、3DのCADデータを送るとAIが自動見積もりを行なってくれることがある。吉田氏はFAXによる設計データのやりとりが続いているのは、3D CADデータにはさまざまなものがあり、多くの部品工場ではそのすべてに対応できないためFAXでのやりとりになっているとのこと。メヴィーでは3D CADデータの受け入れシステムを作り込んでおり、ほとんどのCADデータに対応するという。

 そして、メヴィーは送信された3D CADデータをすぐに3Dモデルに展開。AI自動見積もりがなされるほか、実際に製造可能かどうかの検証が行なわれる。

 この部分のデモを吉田氏が行なってくれたが、このAI自動見積もり機能はこれまでの見積もりという概念を変えるもので、すぐに価格が出てくる。図面を送れば価格がすぐに算出され、材質や仕上げを変更すればその価格もすぐに反映される。たとえば、台座などに用いられる切削プレートであれば、サイズや加工、ねじ穴の数などから基本的な価格が算出され、材質もSS400・S50C相当の鉄、A2017・A5052・A6061・A7075のアルミ、SUS303・SUS304のステンレスなどから選択&算出可能。仕上げも無処理やメッキ、アルマイトなどを選ぶことができ、選んで数秒で価格が出る。

 A2017はジュラルミンとして、A7075は超々ジュラルミンとして知られている素材だが、そういった素材でもすぐに見積もりでき、さらにアルミ系製品には欠かせないアルマイト処理までも見積もりできるのは、時間短縮・手間短縮という観点からも驚異的な機能だろう。

 さらにうれしい機能としては、AI自動見積もりの段階で製造できるかどうかが分かること。これはシンプルな部品ではあまり問題にならないが、たとえば板金ものなど、ベンディングマシンを使って何度か折りを行なう必要があるものや、折から近い距離に穴が空いているものなどには製造できないものがある。このあたりは長年の経験や勘がものをいう部分で、経験豊かな図面製作者でもケアレスミスなどはある。それを、このメヴィーではAI自動見積もりの段階で図面をチェック。製造可能な図面かどうかAIが判断、指摘をしてくれる。

 従来であればこのようなミスが起きている場合は、実際の製造業者が図面をチェックした段階で気がつくことが多いため、数日間経過した後に手戻りが発生する。しかもその際も、製造業者から丁寧に指摘されることは少なく、付き合いが深ければ深いほど愛のある言葉が返ってくる部分。発注者にも製造者にも無駄な時間が発生し、その結果ビジネスチャンスを失うことにもつながっていく。

こちらもメヴィーによるAI自動見積もりの図面データ検証。ベンディングマシンの歯の構造により、折ることのできない図面となっている。このレベルは歯の構造を頭に入れて設計できるベテラン設計者でないと検証できない。メヴィーであれば、こうやって分かりやすくデータの不備を教えてくれる

 メヴィーであれば即時に判断してくれるため無駄な時間を抑制できるほか、何度図面を送っても、何度図面を変更しても、AI自動見積もりの段階では無料のため、図面チェックや正しい図面を書くための知識の習得にも役立つ。吉田氏によると「実際にあるメーカーでは、新人教育にこの部分が活用されています」とのことだ。メヴィーの料金は実際に製造発注しなければ発生せず、このAI自動見積もりは無料で使える。そのため、このAI自動見積もりの画面で試行錯誤を行ない、図面を適切なものに追い込んでいくということが可能になっている。

スタートアップ企業にお勧めのメヴィー

 このように製造までを一貫してサポートしてくれるため、メヴィーはすでに大手企業では導入が進んでいる。たとえばパナソニックやデンソーなど、実際のものづくりの現場での導入実績も豊富にある。

 このメヴィーだが、とくに利用をお勧めしたいのはスタートアップ企業になる。たとえばプロトタイプ製品に代表されるように、なにかものづくりが伴う場合、大手企業や歴史ある企業の場合これまでのノウハウや製造ネットワークを活用することが容易だ。

 ところが歴史が浅いスタートアップ企業の場合、3D CADでの図面作りはなんとかなるかもしれないが、いざ実際にプロトタイプを製作しようとすると、どこに頼んでよいか分からないし、そもそも頼んでも付き合いがないため仕事が後回しになってしまうということもあるだろう。さらに塗装などが伴う場合、複数の業者を探す必要があり、その間に資金と時間を失ってしまう。ところがメヴィーであれば、経験の浅い図面設計者でもAIがサポートしてくれ、明朗会計。さらに納期も最短で即日出荷、さらに明確なため仕事の段取りがきちんとできる。これがどれだけメリットになるかは、実際に製造業者と交渉したことがある人なら強く実感できるだろう。

 また、メヴィーのサービスは法人向けとなるのだが、1品から製造できるので個人事業主にとっても利用しやすいものとなっている。材質としては、先述した金属のほかにポリアセタール(加工によって使える材質が異なる)、つまりジュラコン樹脂なども可能で、自動車の「シフトノブ」を作れることはすぐに思いつく。A7075の超々ジュラルミンによる軽量ステーなども製図の容易さからお勧めだ。さらにアルマイト加工も注文できるので、自分のアイディアを実際に形にできるし、仕上がりまで楽に持って行ける。アイディアのある人や企業にとって、ミスミのメヴィーは多くのビジネスチャンスを生み出してくれるサービスであるのは間違いない。