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ルネサス、半導体工場火災で1か月後に自動車メーカー向け出荷に影響 影響を受ける製品の2/3が自動車向け
2021年3月21日 18:14
- 2021年3月21日 発表
300mmウェハー製造を行なう主力施設のN3が火災に
ルネサス エレクトロニクスは、半導体の生産を担当するルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリングが茨城県ひたちなか市で所有する那珂工場で3月19日発生した火災に関する詳細と今後に関する説明会を3月21日午後にオンラインで開催した。
ルネサス エレクトロニクス代表取締役社長兼CEO 柴田英利氏は、「1か月は仕掛かりなどを使って生産して出荷可能だが、その後は自動車メーカーに影響が出る。それをできるだけ少なくするために自動車メーカーなどの協力なども得ながら1か月以内の生産再開を目指す」と述べ、自動車メーカーへの出荷に影響が出ることを明らかにした。
説明会は、ルネサス エレクトロニクス代表取締役社長兼CEO 柴田英利氏、同 執行役員常務兼生産本部長 野崎雅彦氏、ルネサス セミコンダクタマニュファクチュアリング代表取締役社長 小澤英彦氏が参加して行なわれた。
ルネサスCEOの柴田氏は「近隣のみなさま、多くのお客さま、関係先にご心配をおかけしたことを深く謝罪させていただく、大変申し訳ありませんでした。また、鎮火にあたり大変なご尽力をいただいた消防署など関係各署に感謝する」と述べ、火災が発生したことへの陳謝と、鎮火に向けて協力をしてもらった消防署などに感謝の気持ちを表明した。
その上で火災の経緯と、今後の復旧に向けたロードマップなどについて説明した。柴田氏によれば、那珂工場には生産するウェハーサイズの違いで、直径200mmのウェハーで製造するN2と、直径300mmのウェハーで製造するN3の2つのサイトがあり、今回火事になったのは300mmのN3の方で、200mmのN2はまったく無傷で生産をこれからも継続できるという。なお、半導体の製造工程は、大きく分けるとウェハーを製造する前工程と、ウェハーをカットしてパッケージ封入する後工程の2つがあるが、今回火災になったのはN3の前工程のエリアだという。
柴田氏によれば、火災の影響を受けることになる製品の3分の2は自動車向けであり、生産品目のうち3分の2がマイコンで、3分1がSoC(R-Carなど)、2%がアナログ半導体だという。
火災の原因はN3棟1階のクリーンルームに設置されていたメッキ装置
火災の経緯に関しては、3月19日2時47分に火災が発生し関係機関に連絡。3月19日の朝に鎮火、3月20日9時~13時に警察消防による現場検証などが行なわれたという。
被害の状況に関しては従業員への人的被害はなく、建屋そのものにも被害がなかった。ただし純水供給装置や空調装備といった半導体製造に欠かせない装置には被害が出ているという。
消防署による現場検証などから出火元はN3の一部工程であるメッキ装置であることが判明しているという。なお、N2とWT(ウェハーテスト)に関しては影響がなく、引き続き生産が継続される。
仕掛品の被害による業績の影響などは現時点で不明で、今後1週間程度かけて被害を調べると柴田氏は説明した。
火災が発生したN3は1階、2階という2つの同じ面積(1万2000m 2 )を持つ2つのフロアがあるが、火災の影響を受けたのは600m 2 で、1階のクリーンルーム(半導体を生産するために埃や塵の影響を最小限に保った部屋のこと)の5%程度だという。火災では11台の半導体製造装置が損傷し、それはN3の2%に相当する。
火元と想定されているのは「メッキ装置」と呼ばれる装置で、ウェハーのメッキ処理を行なう装置。硫酸銅の溶液のなかにカソード、アノードという2つの電極があり、カソードにウェハーを置くことでメッキ処理が可能になる。そのメッキ装置は激しく焼損しており、装置の一部は融解してしまっている。
火元周辺装置も焼損しており、天井にあるウェハーを自動で搬送していくレールなどが床に落下している。火災に伴うすすによる汚れも発生しており、今後クリーンルーム全体からすすを取り除く作業が必要になると説明した。火災はN3のクリーンルームのうち1階に限定されており、2階への影響はないとのことだ。
柴田氏は「取引先を初め、すでに多くの方にご尽力いただき復旧に向けて動き始めている。1か月以内の生産再開に向けて尽力していきたい」と述べた。
1か月は後工程の仕掛で出荷可能、自動車メーカーへ影響が出てくるのはその後
柴田氏の説明後、記者や証券アナリストなどからの質疑応答が行なわれた。ルネサスCEOの柴田氏のほか、執行役員常務兼生産本部長 野崎雅彦氏、ルネサス セミコンダクタマニュファクチュアリング代表取締役社長 小澤英彦氏が回答している。
──稼働再開は1か月以内といっていたが、元に戻れるのか? また代替生産は可能か?
柴田氏:1か月での生産再開に向けては元の生産規模も含めてターゲットにしている。焼損している置き換えが必要な製造設備が11台ある。その製造設備がクリーンルームの回復と同じタイミングと同じならいけるが、昨今の半導体需要もあるので、不透明感は残っている。
代替生産については、300mm工場で作っている3分の2の製品は、200mmウェハー工場での生産、ファウンドリー(筆者注:TSMCなどの受託生産を行なう工場)で生産が可能。昨今の半導体逼迫という状況の中で、製造余力が限定的なので、そのまま他所で生産可能とは想像しにくい。代替生産を進めるべく検討、依頼をしている。
──生産再開が1か月以内ということだが、2階のクリーンルームも再開までに1か月かかるのか? また、自動車向けの半導体不足が起きている、半導体不足への影響は?
柴田氏:1階のクリーンルームと2階のクリーンルームでは配置している工程が異なっている、2階だけで工程を完了することはできない。このため、2階だけを稼働することは理論的には可能だが意味がない。
供給への影響は大変大きな影響になると考えている。代替生産をはじめとするありとあらゆる方策を追求して少しでも影響を小さくしていきたい。
──出荷に与える影響はどの程度か? 出荷停止の予測はどうなっているか? 経営の舵取りへの影響は?
小澤氏:300mmウェハーの生産はクリーンルームでの生産は止めているが、後工程に仕掛かっているのはお客さまに出すまで約1か月かかるので、その1か月後に影響が出てくる。
マルチファブといっていいか分からないが、弊社でもBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)を実現すべくさまざまな取り組みを進めてきた。今回のクリーンルームでの生産停止品目のうち3分の2に関してはこの工場以外で生産できるようになっている。ただ、現状はファウンダリーの工場も含めてキャパシティに空きはなく代替生産は難しい状況だ。
──メッキ装置、過電流が流れるので、過電流の保護回路は入れていなかったのか? また、スプリンクラーなどは作動したのか?
小澤氏:過電流へのブレーカー、設備に搭載されている。消防署の見解だと電流が流れているときに切れて発火している。それが使っている樹脂に燃え移り広がってしまった。
火災が発生した後、弊社の従業員が設備の上のところから煙が上がっていることを確認して、社内の消防隊メンバーが駆けつけたが、炎を確認したので非常停止ボタンを押して全員避難した。とても社内の消防隊が消せるような状況ではなかった。
──3分の1が代替生産できないというのは具体的にはどういうものか? 関係会社のヘルプというのはどれくらいの規模で入っているのか?
柴田氏:一昨日の夕刻から取引先さまから、50名ぐらいの体制で支援をいただいている。3分の1が何かということ関してはさまざまに混在している。全体として生産品目のうちマイコンが3分の2で、代替生産ができない3分の1はR-CarなどのSoCが高い。
それらの一部は鶴岡工場から移管したもので、他工場との親和性が低いので代替生産が困難になっている。
──自動車メーカーの被害はどの程度になると予想されているか? また、出火の原因は?
柴田氏:あいにく今日時点では返事を持ち合わせていない。取引先さま、多数当方においでいただいている。影響の全体像を把握すべく、全体像の把握に務めている。
小澤氏:燃えにくい材質にできないか、というところ、設備メーカーに詳細の調査を入れているところ。その返答を待っている。ワールドワイドでナンバーワンの企業が作った設備、ほぼどこの会社も持っている。設備の改善ができるなら一緒に取り組んで行きたい。詳細が分かり次第対策を打っていく。
──業績への影響、事業計画の変更はあるか?
柴田氏:那珂の300mm工場で生産している商品は月商170億となる。第1四半期に関してはあと10日間なので、影響は軽微、売上への影響はない。固定比の回収が損となって出てくる、数十億の下方のインパクトがある。
1か月後には出荷も止まることになるので、キャッチアップすべく稼働を加速していく。そこに月商170億のロスが入ってくるので、明らかになり次第情報提供に努めたい。
──増資や買収は予定どおり行なうのか?
柴田氏:現時点では影響はない。
──火災で焼損した11台の製造装置について、何の装置だったのか? 通常装置のインストールには数か月かかると思うが、1か月ですむのはなぜか?
柴田氏:全体の製造装置の割合は2%程度、すべての製品が11台ないと製造できない訳ではない。製造能力はフルのポテンシャルには達しないが、残存装置が稼働できれば再開できる。11台のうちの4台に関してはその装置を利用する製品はそれが唯一の製造装置となる。その場合はその4台が動かないと再開できない。すべてがうまく行けば1か月という計画になる。一部うまくいかなければ、そこだけが遅れる形になる。
──3.11のときは数か月で再開できたが、1か月で再開できるのか? 地震よりも復旧が大変そうだが……。
小澤氏:クリーンルームの復旧、フィルターとか天井とかをかき集めている状態。協力を得ながら部材に関しては速やかに整えられそう。部材不足にならなければ立ち上げていく。すすの清掃は人海戦術でできる。協力していただけるメーカーさんに協力してもらえる。部材の目処がついたのが一番大きい。
──1か月後に自動車メーカーに影響が出てくる状況なのか? 火災前の稼働率は? どんなメーカーが協力しているのか?
柴田氏:2月には地震の影響、フルキャパシティで操業していた。余力を残した状況にはなっていなかった。現時点では日本を代表するような自動車メーカーの方々、ティアワンの部品メーカーの方々など、5社以上がいらしていただいている。
2月の福島沖地震の影響で在庫逼迫、フル稼働の状況で火災が発生した
──消失した4台がないと作れない製品がある、それは何か。IGBTを300mmで作るという計画があったが影響はあるか?
柴田氏:後者に関してはタイミング的にはまだ後の話で、一番小さい生産ラインを作るというところにあったので影響はまったくない。ダンプ関係の所、比率にして全体のうちの15%弱ぐらい、ボリュームにして。主にはSoC、R-Carとアナログなどがそこに引っかかってくる。
──焼けてだめになった装置、カッパーのメッキ装置以外の、ほかのプロセスを担当していた装置が焼けてしまったのか?
小澤氏:カッパーの配線関係の設備群、チップの上に配線構成を作るところだ。
──メッキ装置全体における比率はどのくらいか? どのあたりが生き残っているのか?
柴田氏:7分の3が被害を受け、7分の4は無事だ。
──工場の月商は170億円、30%ぐらいの影響か? 供給、保険とかが入っているのか?
柴田氏:月商に占める割合は3割弱。保険は入っているが、これから調査と相談に入る形になる。
──自動車メーカーに対する賠償などは発生するのか?
柴田氏:現時点では断定的なことは言えないが、そうならないように努力していく。
──BCP在庫も含めて、1か月というのは後工程に入っているものじゃないかと思うけれど、それも踏まえて在庫に余裕があるのか?
野崎氏:ウェハーテストの仕掛かりが2週間分、選別工程が2週間分。これを合わせて1か月分となる。2月に発生した福島沖地震ですでに在庫を消費している。完成品在庫が、かなりなくなっているという状況である。そのあたりを出した後、仕掛かりとして1か月分しかないという状況の中で火災が起きた。
──そのほかの設備への影響は?
小澤氏:まだ影響は分かっていない。設備メーカーに来てもらっている。プロセス的にはすすを取れば大丈夫だと考えている。
──スプリンクラーなどが作動してほかの機器に影響をおよぼしていないのか?
小澤氏:スプリンクラーではなく、消防署の消火の影響がでた製造装置が11台ということだ。それ以外にはすすがかかったりしているので、調査が必要だ。
──300mmラインのプロセスノードは何か?また、ウェハー投入から完成までのリードタイムは?
野崎氏:90nmのプロセスノードを中心として、40nm近辺までの微細化を進めている。また、130nmのアルミ配線の生産を行なっている。中心となる90nmのプロセスノードでのリードタイムはおよそ70日だ。