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書評、F1エンジニア小松礼雄著 電子書籍「エンジニアが明かすF1の世界」

電子版価格:1870円(本体1700円+税10%)

ページ数:280ページ

判型:B6版

ISBN 978-4-295-01132-3

F1エンジニア小松礼雄著 電子書籍「エンジニアが明かすF1の世界」

電子書籍「エンジニアが明かすF1の世界」

 電子書籍「エンジニアが明かすF1の世界」の著者である小松礼雄氏は、ハースF1チームのチーフレースエンジニアを務めている。チーフレースエンジニアとは、F1チームの中で2台の車両それぞれにいるレースエンジニアを束ねる役目で、F1の現場監督のようなものだと言ってよい。現在のF1チームは10チームしかないので、世界に10人しかいないチーフレースエンジニアの一人が小松氏ということだ。

 別に秘密でも何でもないが、F1というのは欧州のスポーツであり、どうしても欧州人が中心になりがちなのは否定できないだろう。そうした中に単身乗り込み、今の地位を築いたというだけでも小松氏がただ者ではないことがよく分かる。その小松氏がF1GP観戦をより面白くするために書いた「ガイド本」が本書である。

F1エンジニアの視点から現代F1を解説する参考書

 本書を「ガイド本」という表現は小松氏一流の謙遜であって、その内容は「F1で何が起きているか」を理解し、もっと言えばF1のレースエンジニアになるための参考書だと。その内容は実に多岐にわたっている。

 第1章ではF1の入門編から入り、第2章ではセッティング、第3章はタイヤ、第4章はデータ解析、第5章は実戦、第6章は戦略となっており、これを読むと、F1のレースエンジニアがレースとレースの間にどんな準備をしていて、どのようなところが競争上重要なのかが、これでもかというぐらい分かりやすく解説されている。

 おそらくF1の本場である欧州でもこんなに分かりやすくF1エンジニアの仕事について解説した本というのは存在しないのではないだろうか。

 例えば第2章「セッティング」を例にとって紹介しよう。アンダーステアやオーバーステアといったモータースポーツでは当たり前に使われている用語の説明はもちろんのこと、現代のF1で最も重要な空力のセッティングをどうするのか、車高とタイヤの関係はどうなっているのかなどが解説されている。

 キャンバーやトー、フロントウィングやリアウィングの関係などがとても分かりやすく解説されている。F1を見始めたばかりのファンにとって一番の不満はアナウンサーや解説者が当たり前のように使っている用語が分からないことだと聞いたことがある。そうしたF1を見始めたばかりのファンにとって、車高の役目はこういうことなのかなどを理解することができ、もっと深くF1を見ることができるのではないだろうか。

 小松氏の説明は本当に分かりやすい。一例を示すと、車高調整で一番重要になる10cmの「プランク」(いわゆるスキッドブロック)についての説明では、レギュレーションで1mmの誤差を説明した後で「ですから、レースウィークエンド中に何度もこの厚さを0.1mm単位で測り、フロントの車高は0.5mm単位で調節します。レースが終わって、もしプランクが9.8mmだったら車高は保守的すぎで(まだ0.8mm余裕がある)、車高を下げ切れていなかったということです。レースが終わって9.2mmあたりになっているとちょうどよく、車高は限界まで下げられていたことになります」(本文より)と具体的な数値を出しながら、何を考えてセッティングをしているのか詳しく説明してくれている。

フェルナンド・アロンソ選手の強みや、どうしたらF1エンジニアになれるかも書かれている

 第5章の「実戦」では、グランプリが開催されている週末にチーム関係者がどう動いているのかなどが詳しく解説されている。チームのエンジニアは木曜日にサーキットに入り、ドライバーと一緒にサーキットウォークを行なうことなどは、モータースポーツ専門誌などで紹介されることも少なくないが、それがレースエンジニアやドライバーにとってどういう意味を持つのかなどが説明されている。

 フリー走行、予選、決勝など各セッションでの作業については、F1放送でF1のセッションを全部見ているファンにとっては参考になることだらけだろう。

 そして、小松氏ならではのドライバー評や先輩エンジニア評も面白い。キミ・ライコネン選手、フェルナンド・アロンソ選手、ロマン・グロージャン選手など、小松氏が実際に一緒に戦ったドライバーの評は、要所要所で出てくる。フェルナンド・アロンソ選手がなぜ素晴らしいドライバーなのかを解説した部分は必読だ。

 尊敬するエンジニアの先輩としてはかつてのベネトンやルノーでテクニカルディレクターを務めていたパット・シモンズ氏、そして現在メルセデスF1 CTOのジェームス・アリソン氏などが登場する。その前後には小松氏がどのようにしてF1のレースエンジニアになったのかも解説されており、将来F1エンジニアになりたいと思う人にも必見の部分だ。

 このように本書は、現代のF1がどこで競争しており、それをエンジニアがどのようにコントロールしているのかがすべて分かる本になっている。やや大げさだが「これさえ読めば、F1のレースエンジニアになった気分でF1を見ることができる」参考書だといっても過言ではないと思う。全F1ファンが買って読むべき本だといっても褒めすぎではないと思う。