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SUPER GT参戦タイヤメーカーに聞く ミシュラン小田島広明氏はタイヤ供給GTマシンの中で最上位を目指す
2021年8月20日 11:40
SUPER GT参戦タイヤメーカーインタビューとして、フランスのタイヤメーカーであるミシュランをお届けする。ミシュランは、GT500の日産 GT-R2台に絞ってタイヤを供給する少数精鋭で戦っており、2020年シーズンは鈴鹿サーキットの2戦で2勝を挙げるという結果を残している。2021年シーズンも昨年同様の体制での参戦。
そうしたミシュランのSUPER GT活動について日本ミシュランタイヤ モータースポーツダイレクター 小田島広明氏に話しをうかがってきた。
世界的タイヤメーカーのミシュラン、SUPER GTでは10年で4度のシリーズチャンピオン獲得
ミシュランは19世紀にフランスで創業したタイヤメーカーで、日本のブリヂストンと常に売上高シェアでトップを争う世界有数のタイヤメーカーの1つだ。日本での歴史は1964年に浜松町~羽田間のモノレールにミシュランのタイヤが採用されたのが第一歩で、1975年に日本ミシュランタイヤ株式会社として法人活動がスタートして今に至っている。
日本では群馬県太田市に「ミシュラン太田サイト」と呼ばれるR&Dセンターが用意されており、ミシュラン内部ではフランス、米国と並ぶ世界三大開発拠点の1つとして機能しており、日本だけでなく世界市場向けに冬用タイヤや静寂性能に優れた基礎研究などを行なっている。
日本でのミシュランはミシュランブランドのタイヤだけでなく、BFグッドリッチブランド(ミシュランが米国企業から買収した米国初のタイヤブランド)の市販タイヤ販売を行なっており、いずれも日本のユーザーにはおなじみのブランドになっている。
日本のモータースポーツシーンでは、ミシュランとして活動を行なうことがほとんどだが、2002~2004年にはBFグッドリッチのブランドでSUPER GTの前身となる全日本GT選手権(GT300)に参戦するなどしており、日本のモータースポーツファンにはおなじみと言える。
世界的企業であるだけにミシュランのモータースポーツ活動は非常に幅広い。2001年~2006年までのF1参戦(それ以前の1970~1980年代にも供給は行なわれていた)ではブリヂストンと死闘を繰り広げたことは語り草だ。
WEC(世界耐久選手権)には、最上位カテゴリーとなるLMP1や2021年から始まったLMH(ル・マン ハイパーカー)などにタイヤを供給しており、トヨタのル・マン 3連覇(2018年、2019年、2020年、中嶋一貴選手ら)を足元から支えているのもミシュランだ。
世界選手権に昇格したEVのフォーミュラカーによるFormula Eに関してもシリーズが始まった当初からタイヤ供給。ドライ/ウェット両用タイヤを供給しており、シリーズの盛り上げに一役買っている。
そうしたミシュランのSUPER GT活動は、GT300だけの時代(2005年~2008年)の時代もあったが、2008年にGT500に復帰(全日本GT時代にはGT500のチームにタイヤ供給を行なっていた)してからは一貫してGT500、特に日産 GT-Rに供給を続けており、GT-Rとの組み合わせでは2011年、2012年、2014年、2015年とこの10年で4回GT500シリーズチャンピオンを獲得している。
2021年も昨年同様、3号車 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正組)と23号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)という2台の日産 GT-Rに供給している。昨年はGT300のユーザーチームにタイヤを供給していたが、今シーズンはGT300の活動はなく、GT500に集中する体制になっている。
コロナ禍での工場再稼働で最初に製造したのはSUPER GT用のタイヤ。ミシュランモータースポーツの最優先プロジェクトがSUPER GT
──2020年シーズンのSUPER GTの活動を振り返ってどうだったか?
小田島氏:われわれだけではないが、新型コロナに翻弄されたシーズンとなった。GTAをはじめとした関係者のご尽力でレース開催に向けて動き出したが大変なシーズンだったことは間違いない。
弊社に関して言えば、本拠地はフランスにあるが、そのフランスでは政府によるロックダウンが行なわれることになり、外出禁止や企業のオフィスなどが閉鎖、その結果工場も操業停止となった。社員の安全を最優先で守るためにそれは必要な措置だったと思う。
しかし、その一方でタイヤ工場というのは一度止めてしまうと再稼働までには時間がかかるのも事実。それこそボイラーの火入れから初めて製造に回るまで準備には時間も労力もかかる。そうした中で、クレルモン=フェランの工場が再稼働して最初に製造されたのがSUPER GTのタイヤだった。それはミシュランのモータースポーツ活動において、SUPER GTが最優先になっているという証だ。それを航空便で日本に運んで、なんとか7月に富士スピードウェイで行なわれた開幕戦に間に合わせたという状況だった。
タイヤとしては、秋口のツインリンクもてぎのレースではピックアップなどの課題はあったが、鈴鹿の2戦、そして富士の4戦ではわるくなかったと評価しているが、上位を狙えるパッケージではなかった。ただ、タイヤに対して高負荷がかかる鈴鹿で2勝できたことは、タイヤの、そしてGT-Rとのパッケージとしてうまく機能して、勝利に貢献できたと考えている。
通常の年であれば、冬季にテストがあって、その結果を反映したタイヤを供給するという仕組みで動く。2019年の末~2020年初頭にかけてはセパンなどでテストできており、冬場のテストスキームとしては進んでいた。しかし、国内でのウインターテストの続きがコロナ禍で中止になってしまい、そこからは開発が凍結している状況だ。
ただ、基礎開発は予定どおり進んでいたが、レースへのチューニングができない状況になっており、チームとも相談しながら今までの経験で作っていた。
──2020年のコロナ禍の影響ではギリギリのときもあったのか?
小田島氏:昨年のシーズンではGTAとも調整しながら準備を進めた。すでに述べたとおり、われわれにとっては再稼働したくても政府からロックダウンの指示が出ているとタイヤを作ることができないという課題があった。そこで、GTAからは常に状況を聞き取りしてもらっており、マニファクチャラー、チーム、タイヤすべてで準備が整わないと開幕させないと言っていただいていた。
──2021年シーズンでの開発の方向性などについて教えてほしい。
小田島氏:2021年シーズンに関しては海外の渡航禁止もあり、2001年からずっと定例でやっていた冬のセパンテストができなかった。そうしたこれまでのような開発ができない中で、基礎体力をつける方向に開発の方針を変更する必要があった。
冬場に国内のサーキットでやる場合には温度がシーズン中よりも低い中でテストするが、2020年シーズンはツインリンクもてぎでピックアップの問題があったので、それを解決すべくテストをした。そこが進化した部分で、もっと進化させていかないといけないと思っている。
──これまでの2戦に関して振り返ってどうか?
小田島氏:GT500に関しては各車が本当に激しい争いをしており、ちょっとしたミスがあると順位を落としてしまう結果になり、簡単に勝つことができない現状だ。ただ、決して悲観的になっているのではなく、23号車は3号車よりもウェイトが軽い分上にいってもおかしくない。今回のツインリンクもてぎの予選ではアタックの仕切り直しなどがあってQ1突破することができなかったが、GT-Rのパッケージとしては戦えるパッケージになってきており、今回のレースに関してはともかく今後はチャンスがあるだろうと思っている。
昨年のツインリンクもてぎのレースで発生したピックアップに関してはかなり解消してきており、本来のタイヤの性能が発揮できるようになっている。次戦の第3戦鈴鹿に関しては、元々の予定だった5月時点よりも温度レンジが変わってきてしまう。8月というより暑くなるであろう中でのタイヤの作り込みが重要だ。
──モータースポーツ向けタイヤ開発から市販タイヤへのフィードバックはどのように行なわれているか?
小田島氏:市販タイヤにかなり近いFormula Eほどではないが、SUPER GTも部材の優位性、ゴムの配合とかの研究室、実験場の役割を果たしている。タイヤのパフォーマンスを寿命の最後まで維持する、あるいは摩耗したり、距離を重ねたときに劣化しても最初の性能が維持できるかということに重きを置いて開発しており、そうしたことを市販車用にフィードバックしている。
また、そうした性能面や長持ちする性能も重要だが、それと同時に持続可能な自動車社会の実現に向けた開発も重視している。モータースポーツだから、そうした持続可能でなくてよいということはなく、レースタイヤでもリサイクル率を上げたりしている。ル・マン24時間に参加する水素燃料電池車にはわれわれがタイヤを供給しているが、そのタイヤは46%のサステブル素材が利用されている。
そして、ミシュラングループは2050年までにすべての製品を再生可能にするということをお約束しており、それにはレーシングタイヤも含まれているし、すでにMoto-Eタイヤも最大40%のサステナブル素材が使われている。
その第一歩として2030年までには全体の40%のリサイクル率を実現することにコミットメントしていく。
実際にそうしたリサイクル可能なタイヤを作ってみて得られた知見がある。それをやってみたら、性能や耐久性はあまり変わらなかった。ただ、リサイクルの部材を利用して製造の過程は簡単ではなかった。そうした知見を得られることがモータースポーツの価値になるし、カーボンニュートラルを実現できなければ企業の存在も怪しくなってしまうので、今後とも継続した取り組みが必要だ。
──2021年シーズンの目標を教えてほしい。
小田島氏:タイヤメーカーとしてのコミットメントとしては、タイヤを供給しているマニファクチャラーの中で最上位のタイヤメーカーになるということだ。われわれの場合は日産 GT-Rの3号車と23号車にタイヤを供給しており、その2台がともにほかのタイヤメーカーのタイヤを履くGT-Rよりも前にいることになる。あとはパッケージ次第で、それがほかの組み合わせを上回っていればチャンピオンを狙える位置にいるはずだ。
サクセスウェイトが4kgと軽いままの23号車は、次戦の第3戦鈴鹿は大きなチャンス
小田島氏のいう「供給しているマニファクチャラーの中で常に最上位の結果を目指す」という目標は、実は2011年に初めて小田島氏にインタビューしたときから小田島氏がまったく変わらず掲げている目標になる。そして、その目標は2011年から昨年までの9年間で一度も欠かさず実現されているのだから、その点はさすがというほかない。
チャンピオンになれるかどうかは、SUPER GTの場合は車両のパフォーマンスと、さらにはチームのパフォーマンス、そして最後のピースとしてタイヤの性能というパッケージで決まってくるというのはまさにそのとおりだ。その意味で、シーズン後半に向けて地力があるニスモチームや二人合わせてチャンピオン6回の松田次生選手とロニー・クインタレッリ選手というベテラン2人、さらに日産 GT-Rのパフォーマンスがどう上がってくるのか、そのあたりに期待ということができるだろう。
特に23号車 MOTUL AUTECH GT-Rに関しては、昨年2レースとも勝っている鈴鹿のレースは大きなチャンスだと言える。23号車は今回のレースで9位に入ってようやくシーズン初ポイントとなる2点を獲得しただけで、次戦の第3戦鈴鹿では4kgと比較的サクセスウェイトは軽い部類のままで、優位な状況にある。そこに、ミシュランがどんなタイヤを持ち込んでくるか、それによっては次戦でGT-Rの今シーズン初優勝が見えてきても不思議ではないだろう。