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2019年のSUPER GTについて、日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャー 小田島広明氏に聞く

「タイヤ業界の中で一番のライバルの会社との技術競争の場」

日本ミシュランタイヤ株式会社 モータースポーツマネージャー 小田島広明氏

 日本で最も人気のあるモータースポーツ「SUPER GT」。そのSUPER GTの開幕戦が4月13日~14日に岡山国際サーキットで開催される。今シーズンも激しい争いが予想されるが、SUPER GTで3号車 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/フレデリック・マコヴィッキィ組)や23号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)にタイヤ供給を行なう日本ミシュランタイヤのモータースポーツマネージャー 小田島広明氏に、2019年のSUPER GTについて聞いてみた。

 このインタビューは、ミシュランがワンメイク供給を行なうフォーミュラE 第5戦香港戦を視察に訪れた小田島氏に直撃したもの。そのためフォーミュラEというレースについて、SUPER GTとフォーミュラE用タイヤの違いなどについて聞いてみた。ミシュランのフォーミュラE用タイヤそのものについては、関連記事を参照していただきたい。

タイヤメーカーにとってのフォーミュラEの最大の意味は、レーシングタイヤと市販車タイヤが直接リンクしていること

──フォーミュラEを視察した感想やSUPER GTとの違いなどについて教えてほしい。

小田島氏:ミシュランにとってのモータースポーツとは最終的に我々の製品である市販タイヤに投入する技術を磨く実験場であり、ショールームです。その中でレースと言ってもいろいろな切り口があって、例えばSUPER GTではほかのメーカーさんと競いながら新しい技術を投入し、他社と比較することでその技術がよいのかわるいのかをチェックしていきます。

 もちろん勝てれば一番よいのですが、負けてもどのようにすれば勝つことができるのかを考えていきます。開発というのはタイヤそのものだけでなく、製造技術に関しても同様で、何らかの新しいアプローチが実験できる場であるラボラトリという位置づけになっています。

 それに対してこのフォーミュラEでは18インチのホイールを採用するなどより製品に近い形態になっており、最終的にお客さまに購入していただくタイヤに近い形でレースを行なうというコンセプトになっています。つまり、レースという限界に近い状況の中で、そうした最終製品に近いタイヤを使って起こり得る状況でテストするということです。そしてそれを分析に回すことができるので、SUPER GTなどとは違った意味での研究開発の場だと感じました。

 このフォーミュラEと日本のSUPER GTに関しても決して独立している訳ではなく、両方はリンクしています。SUPER GTで開発された技術はこのフォーミュラEにも活かされています。

──フォーミュラEのタイヤはドライとウェットの両対応。SUPER GTなどのレースではドライとウェットが別のタイヤになっているが、その違いは?

小田島氏:SUPER GTのようなレースではタイヤはレース専用になっておりドライとウェットは別のタイヤになっています。例えば溝のパターンもウェット専用になっています。

 それに対してフォーミュラEではドライとウェットが共用になっており、ドライでも走ることを前提にパターンを設計しないといけない、それが大きな違いです。こうしたマルチパーパスな考え方は、将来の開発に向けて重要だと考えています。というのも市販タイヤは、(フォーミュラEと)同じようにドライとウェットの両方に対応しなければいけないからです。このため、第2世代のフォーミュラEのタイヤは市販タイヤの「MICHELIN Pilot Sport 4」と似通っており、現在の第3世代のフォーミュラEのタイヤもパターンデザイナーからそうしたリクエストがあります。将来販売するタイヤはこういうものにしていきたいというリクエストがあってのことです。

 これが「MICHELIN Pilot Sport 5」になるか、「MICHELIN Pilot Sport 6」になるのか現時点では分かりませんが、タイヤの未来にとってフォーミュラEと市販車のタイヤがリンクしていることには大きな意味があります。

2018年の富士500マイルで見つけた課題を昨年後半に着実に解消していき、順調に進んでいる今オフのテスト

──SUPER GTですが、開幕戦に向けて昨年の振り返りと見通しを。

小田島氏:2018年シーズンを振り返ると、冬場のテストからクルマとタイヤの組み合わせの中で比較的順調に進められてきました。タイヤとしては第2戦の富士500kmで優勝もできて、順調に進んでいると思っていました。ですが、第5戦の富士500マイルで大きく環境が変わってしまいました。優勝した第2戦と同じサーキットということでチームも我々も楽観的に臨んでいて、予選までは上手くいったのに、決勝では課題が残る結果になりました。テストの段階では楽観視できるぐらいに余裕があったのに、レースになるとタイヤだけでない部分もありますが上手くかみ合わなくなってしまいました。

 このままでは今後も同じ問題も出てくるという可能性があると考えて、開発の方向性を少し切り替えて、レースにおける耐久性、デグラデーションを抑える方向に振っていきました。見ていた皆さんも中盤戦からどちらかというとミシュランは予選がよくないなという印象があったと思うのですが、その要因としてはまずは安定性を出すために一発のタイムよりもタイヤの耐久性というところに力を入れました。予選順位よりも、決勝で生き残るそのことを重視する方向に変えていき、徐々に最終戦に向けてよくなっていきました。開発側でそういう努力をしていきました。

 (ニスモさまの側でも)車両としてもいろいろやらないといけないことはあったと思うのですが、それは我々として関与できる部分でないのでなんとも申し上げられませんが、GT-Rに関しては我々とブリヂストンさん、ヨコハマさんがいらっしゃいますが、その中ではミシュラン勢が一応トップであるということで、タイヤメーカーとしての最低限の責務は果たすことはできたと考えています。

──2019年のタイヤの開発の方向性は? 2019年から3号車に2人の新しいドライバー(平手晃平選手、フレデリック・マコヴィッキィ選手)が加わりましたが?

小田島氏:19年シーズンに向けては、パフォーマンスを上げていくことはもちろんですが、車両も含めたパッケージを向上していかなければならないと考えています。18年後半にあった課題に関しては、新しい車両に合わせて新しい技術を導入して進歩させています。それらをセパンで行なった冬期テストで確認しており、今のところ順調に進んでいます。

 2人ともGT-Rは初めてですが、実はミシュランに関しては経験があります。マコヴィッキィ選手に関しては長い間ミシュランのドライバーをやってもらってますし、平手選手に関しても300の時代にミシュランを経験してもらっています。その意味で2人ともすぐに「ああこれはミシュランだね」という印象は持ってもらえたのですが、その当時とはクルマも違うのでまずはそこから始めている段階です。ただ、2人ともセッティングの方向性は近いものがあるので、こうしてほしいという要求は同じようなものになっています。

──マコヴィッキィ選手はミシュランの経験が長いドライバー、彼の加入はミシュランの開発加速につながるか?

小田島氏:そう思います。彼はヨーロッパでミシュランの経験が長いし、様々なメーカーの車両にも乗っており、ミシュランタイヤを軸にして車両に関して客観的な意見を言えるドライバーです。GT-Rにとってもこうした方がいいというアドバイスが出るのではないかと考えています。SUPER GTでもホンダ+ミシュランの組み合わせで乗られたことがあるし、タイヤ側にもこのクルマを活かすにはこういう特性がいいのではという提案ができるドライバーだと思うので期待しています。

──ミシュランのモータースポーツの中でSUPER GTの位置付けは?

小田島氏:言い方はちょっと乱暴ですが、会社からは何をやってもいいと言われています。もちろん会社の活動である以上、バジェット(予算)はあるので、その範囲内でという話ではあります。

 SUPER GTは他社との競争、特にタイヤ業界の中で一番のライバルの会社との技術競争の場になるので、打てる手は何を打ってもよいということです。タイヤの性能に影響する材料を使うのはもちろんこと、例えば工場の優先順位……すべてにおいて優先されています。SUPER GTのために作った新しいゴム、その新しいゴムを作るために作った機材、それが将来的にほかのカテゴリーで使われることもあります。実際、ミシュランはタイヤ製造の機械も自社で開発しているので、それがほかのカテゴリーで使われる、あるいは市販用タイヤに使われることもあります。

──ミシュランの研究所はフランスのクレルモン・フェランにあると聞いていたがそれは今も変わっていないか? SUPER GTの競争では不利にならないのか?

小田島氏:製造拠点や研究開発の拠点はフランスのクレルモン・フェランにあります。例えば製造拠点をもう少し近くに作った方が供給までの時間が短くなるかと言えば、それはその通りです。しかし、すべての研究所が1か所にあるメリットもあります。

 1つはすべてのモータースポーツの研究開発が1か所で行なわれていることで、ほかのカテゴリーと情報をシェアできるので、会社としては利益があります。タイヤの供給に関しては航空便を使っているのでコストは上がりますが、それだけのメリットがあると判断している、そういうことです。もちろん小平(筆者注:ブリヂストンの生産拠点のこと)から持ってくるのに比べれば24時間から36時間の追加と若干時間はかかりますが、オペレーションで対応できるので大きな課題はないと判断しています。

──ピックアップの問題は解決されたのか?

小田島氏:ピックアップに関しては数年前から起きてきて、その事象がなぜ起こるのか、そしてそれが起きても影響がないようにするにはどうしらいいのかという研究をしてきました。今でもゴムのデブリを含めてのピックアップというのはありますが、ドライバーのフィーリングとかラップタイムとかに影響がない範囲ではコントロールができています。


 香港での直撃共同インタビューとなったが、小田島氏は質問にていねいに答えてくれた。前述のとおり4月13日~14日に岡山国際サーキットでSUPER GTは開幕し、本格的なモータースポーツシーズンの幕開けとなる。また、最新のモータースポーツ情報のチェックのため、時間があるなら4月6日~7日に東京 お台場で開催される「MOTOR SPORT JAPAN FESTIVAL 2019」も訪れてみてほしい。ここには日本ミシュランタイヤも出展するほか、数々のGTマシンの展示、ドライバーのトークショーも実施される。