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SUPER GT参戦タイヤメーカーに聞く ダンロップ 竹内二郎氏と今北剛史氏は、速さに加え結果を出すタイヤにと
2021年8月20日 11:30
2021年シーズンからNSX-GTが2台体制となったダンロップのGT500活動、GT300も3台から5台に増加
SUPER GT参戦タイヤメーカーインタビューとして、ダンロップブランドでタイヤ供給を行なっている住友ゴム工業 モータースポーツ部長 竹内二郎氏、同 モータースポーツ部 課長 今北剛史氏の2人に話をうかがった。
住友ゴム工業は1909年(明治42年)に創業された伝統ある企業で、創業時からイギリスのタイヤメーカーだったダンロップ社の日本工場として生産を開始した。1913年には国産第1号となる自動車用タイヤの生産を開始するなどして日本でのタイヤ生産に長い歴史をもっている。現在住友ゴム工業は、日本を含むアジア圏などでダンロップブランドを利用する使用権を保持しており、日本でダンロップブランドのタイヤを開発、販売している。
なお、住友ゴム工業はもう一つのタイヤブランドとして「ファルケン」も展開しており、欧米ではファルケンブランドも積極的に展開している。このため、欧米のモータースポーツシーンなどでは「ファルケン」ブランドを使用した活動も行なわれており、ニュルブルクリンク24時間レースなどにはファルケンで参戦。2021年も「FALKEN Motorsports」チームとして44号車 Porsche 911 GT3Rが総合4位に入るという結果を残している。
日本でのモータースポーツ活動は、今回紹介するSUPER GTや全日本ラリー選手権などへの活動が挙げられる。全日本ラリー選手権ではトヨタのワークス車両であるGR YARIS GR4 Rally(勝田範彦/木村裕介組)にタイヤ供給しており、先日の7月2日~4日に行なわれた「2021 ARK ラリー・カムイ」で初優勝を達成するなど成果を出している。ほかにも、SUPER GTのサポートレースとして行なわれているFIA-F4選手権へのワンメイクタイヤの供給をシリーズ開始当初(2015年~)から一貫して実施。今シーズンからF1にデビューした角田裕毅選手も、ダンロップタイヤを履いて2018年のFIA-F4チャンピオンに輝き海外へと巣立っていった一人だ。
そうした住友ゴムのSUPER GTでの活動は前述のようにダンロップブランドで行なわれている。GT500には2020年までは64号車 Modulo NSX-GT(伊沢拓也/大津弘樹組)の1台体制だったが、今シーズンから16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(笹原右京/大湯都史樹組)にも供給を開始したことで、久々の2台体制になった。
これまでもダンロップが2台体制になったことはあったが、同じメーカーの車両で2台というのは2005年にトヨタのKRAFTチームが2台体制で参戦していた時代以来だ。2台になるとタイヤテストなどでデータが増えるだけでなく、同じ車両なので、問題がタイヤであるのか、車両側にあるのかをすぐに答えを出すことができるという意味でメリットは大きい。
GT300に関しても昨年同様の体制だが、昨年もユーザーチームだったGAINERのうち11号車 GAINER TANAX GT-Rだけに供給する体制が見直され、もう1台の10号車 GAINER TANAX with IMPUL GT-Rにも供給されることになった。また、60号車 SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTもダンロップ陣営に加わり、継続の61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT、96号車 K-tunes RC F GT3と合わせて5台体制となり、体制が強化されていることも大きなポイントと言える。
一発の速さはすでに証明されている、次はレースペースを証明していきたいというダンロップのGT500
──2020年シーズンのSUPER GTでの活動を振り返ってみてどうか?
竹内氏:GT500に関しては64号車が第3戦鈴鹿でポールポジションを獲ることができたほか、第6戦の鈴鹿でも予選2位を記録するなどタイヤとしては進化したシーズンになった。特に第3戦でのポールポジションはベテランの伊沢選手が初のポールポジションということで、こちらも驚くほどだった。その半面、決勝レースでのタイムにはまだ課題が残っていると考えていて、結果面での課題が残っている(昨シーズンの決勝レースでの最上位は第7戦ツインリンクもてぎでの2位)。
GT300に関しては全体的にユーザーチームにがんばっていただき、3車種(BRZ、GT-R、RC F)それぞれ違うクルマに対応することができ、最終戦までチャンピオン争いができたことは合格点だと思っている。
──確かに鈴鹿での伊沢選手の自身初というポールポジションは、伊沢選手ほどのベテランが獲ったことがなかったということも意外であり印象に残る結果だった。
今北氏:昨年伊沢選手が64号車に加入してもらったことは、ダンロップとしてのタイヤ開発に大きな前進をもたらした。シーズンオフからテストをしてもらい、ベテランらしい経験を活かして、ここはクルマのせい、ここはタイヤのせいということ分かりやすく切り分けることが可能になった。すごく分かりやすいフィードバックをエンジニアに対してして行なってくれたことが大いに開発に役立った。
昨シーズンの64号車はそうしたフィードバックが正確なベテランの伊沢選手と、今伸び盛りの若手である大津弘樹選手の組み合わせですごくいいコンビだったと思う。
──2021年シーズンから16号車が加わり、同じNSX-GTが2台という体制になった。このことの意味は?
竹内氏:大きく変わっている、2台になって2倍になったと思われるかもしれないが、2倍以上の違いがある。インプットは2つだが、答えは違うし、これまでのように1台だけであれば、リタイアしてしまうとその後のデータは一切取れなくなる。しかし、2台であれば何らかのデータが残る。そして、この2チームがライバル関係とはいえ比較的いい関係の中でやってくれているので、お互いに協力してタイヤ開発を行なってくれている。
そして16号車のドライバー2人(笹原右京/大湯都史樹)はどちらも速いドライバー。若いのにベテランのような落ち着きがある笹原選手に、ただ者ではない速さを占めている大湯選手という組み合わせは非常に期待ができると考えている。
──開幕2戦を振り返ってどうか?
今北氏:これまでの岡山でのレースというといつも厳しいという印象だったが、練習走行から調子がよく例年とは違うなという印象だった。実際予選では両車ともにQ1を突破してQ2へ行くことができたことで進化を実感できた。ただ、決勝は順位を落とすことになってしまったのだが、後半スティントの最後の方では16号車はその時点で一番速いタイムで走るなど決勝のペースはわるくなかった。第2戦に関しても結果は出ていないがレース中のラップはそれなりのタイムで走れていた。
竹内氏:GT300に関しては、課題だった部分を克服することができ、よくなった。11号車 GAINER TANAX GT-Rが開幕戦でポールポジションを獲得(決勝レースは4位)、第2戦では60号車 SYNTIUM LMcorsa GR Supra GTが優勝、さらに61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTが2位などの着実な結果を残している。開幕戦では勝ちを逃したが、それはレース中でセーフティカーの入るタイミングがわるかった。
──今シーズンの開発方針を教えてほしい。
今北氏:決勝レースをきちんと走りきれるタイヤ作りが大事だ。開幕戦、第2戦ではまだそれを証明できていないので、そこをきっちりやっていきたい。また、タイヤの軽量化を目指していきたい。レーシングカーなので純粋にばね下の重量が軽くなると動きがよくなるからだ。それだけでなく軽くなればそれだけ材料を少なくすることができるので持続可能な社会へ対応したレースとしての意味があると考えている。
しかし、ただ単に軽くすればよいという話ではない。軽くしたり、薄くしたりすれば、当然タイヤの剛性などにも影響がでてくる。1レースをきちんと走りきることが基本性能なので、ドライバーがネガティブな印象を感じないようなところを、「塵も積もれば山となる」方式でやっていく必要がある。
──レーシングタイヤから市販車へのフィードバックなどはあるのか?
竹内氏:もちろん市販タイヤにもモータースポーツ由来の技術は入っている。ただ、モータースポーツのタイヤの方が10年ぐらい先に行っているので、それが徐々に市販タイヤに取り込まれていく形になる。ただ、モータースポーツで求められるニーズは高いグリップ性能だが、市販タイヤのニーズは燃費やウェット性能になっている。モータースポーツ向けのタイヤ開発でもそうしたニーズを満たせる技術の開発は進んでいるので、そうしたものを徐々に市販タイヤに使っている形になっている。
──今シーズンの目標を教えてほしい。
竹内氏:GT500に関しては16号車、64号車それぞれ一度は勝ってほしいと思っている。1台だけでなく2台というと高いハードルかもしれないが、ぜひとも実現していきたい。
GT300に関しては5台のうち1台にチャンピオンを獲ってもらいたい。10号車と11号車、2台のGAINER GT-Rはいずれも強力だし、60号車 GR Supraは第2戦で優勝しているし、61号車 BRZは第2戦で2位を獲得している。96号車 RC Fも勝てるポテンシャルを持っていると思うので、GT300には大いに期待している。
第4戦の決勝レースでは16号車が安定したレースペースを刻み4位、次戦鈴鹿は期待できるレースに
このインタビューを行なった後の第4戦ツインリンクもてぎの予選では、16号車が予選で3位に入り、64号車も6位と2台そろってQ1を突破した。竹内氏のいう「一発の速さ」を証明した形になる。しかし、今回これまでの2戦と違っていたのは、16号車がコンスタントにレースを走り、予選順位からは1つ順位を落としたものの4位に入賞したことは、レースペースの向上を目標としていたダンロップとしては、成果のあったレースと言える。
次戦の第3戦 鈴鹿は、昨年ポールポジションを獲ったサーキットだけにダンロップとしても期待がかかるところだ。特に今回のツインリンクもてぎのレースでリタイアに終わったことでサクセスウェイが軽いままになっている64号車にとっては大きなチャンスがある。
64号車は、毎年8月に行なわれていたSUPER GTの鈴鹿1000kmの、SUPER GTとしては今の所最後のレースになっている2017年のレースで優勝しており、夏の鈴鹿に強いというイメージもある。その意味で、次戦鈴鹿はビッグレースとなる可能性を秘めており期待したいところだ。