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【SUPER GTインタビュー】ダンロップ 谷川氏と今北氏に聞いた2019シーズンのタイヤ戦略

GT500クラスではまず一勝、GT300クラスは2015年以来のチャンピオンを目指す

ダンロップを装着する64号車 Modulo Epson NSX-GT

 ダンロップブランドのタイヤを日本国内で展開するのが住友ゴム工業だ。ダンロップはイギリス発祥のタイヤブランドだが、現在、日本およびグローバルでの製造販売は、一部地域を除いて住友ゴムが担っている。

 ダンロップブランドを利用した住友ゴムのモータースポーツの関わりは歴史が長く、現在のスーパーフォーミュラに相当する全日本F3000選手権では1989年と1994年にユーザーチームがチャンピオンを獲得するといった結果も残している。1995年に本社を襲った阪神・淡路大震災の影響で活動の縮小をせざるを得なかったが、2002年からSUPER GTの前身である全日本GT選手権に参戦を開始して、その活動は今に至っている。

 そうしたダンロップのSUPER GTの活動に関して住友ゴム工業 モータースポーツ部長 谷川利晴氏と、モータースポーツ部 課長 今北剛史氏にお話をうかがってきた。

住友ゴム工業株式会社 モータースポーツ部長 谷川利晴氏(右)と、モータースポーツ部 課長 今北剛史氏(左)

チーム数は変わらないが、GT300クラスの供給チームには変更も

 ダンロップのSUPER GT参戦体制は、GT500クラスが1台、GT300クラスが3台という形で2018年と同規模になるが、GT300クラスのユーザーチームは1台変更されている。

2019年 GT500クラスのダンロップ装着マシン

64号車 Modulo Epson NSX-GT(ナレイン・カーティケヤン/牧野任祐組)

 GT500クラスに関しては、2005年からのパートナー関係が実に15年目に突入したNAKAJIMA RACINGの64号車 Modulo Epson NSX-GTに供給する。2017年のSUPER GTとしては最後の鈴鹿1000kmレースで実に10年ぶりの優勝を実現した同車だが、2018年は不運などもあり、ポイントが取れないレースが続いてしまった。しかし、2019年は体制を一新し、2人の新しいドライバーで今シーズンに臨んでいる。

GT500クラスに参戦する64号車 Modulo Epson NSX-GT

 元F1ドライバーの肩書きを持つナレイン・カーティケヤン選手は、速さには定評があるインド出身のベテランドライバーだ。そしてもう1人の牧野任祐選手は、2015年にFIA-F4でランキング2位になり、2016年のタイでのSUPER GTのレースにおいて15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTでデビュー戦2位という鮮烈な印象を残したドライバーだ。その後欧州F3、FIA-F2と欧州でキャリアを積み、2019年から日本に戻ってこのSUPER GTとスーパーフォーミュラを戦っている。先日鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラの開幕戦ではデビュー戦にもかかわらずポールポジションを獲得するなど、2019年も多くの関係者に印象を残す結果を出している。

2019年 GT300クラスのダンロップ装着マシン

11号車 GAINER TANAX GT-R(平中克幸/安田裕信組)
60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3(吉本大樹/宮田莉朋組)
61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT(井口卓人/山内英輝組)

 GT300クラスは2018年と同じ3台だが、昨年までのユーザーチームだったHitotsuyama Racingのアウディが他陣営に移り、60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3(吉本大樹/宮田莉朋組)が新たにユーザーに加わっている。11号車と61号車に関しては2018年同様の体制となる。GT300クラスの2018年のランキング最上位は11号車の5位だが、11号車がタイで1勝、61号車もスポーツランドSUGOで1勝とそれぞれ勝っており、2019年は2015年以来となるチャンピオン奪還を目指す。

2018年はGT300クラス5位の11号車 GAINER TANAX GT-R
2019年からダンロップを履く60号車 SYNTIUM LMcorsa RC F GT3
2019年もダンロップを履いてGT300クラスに参戦する61号車 SUBARU BRZ R&D SPORT

GT500クラスはシーズン中に1勝を目指し、中盤戦からアップデートする計画

──2018年シーズンのGT500クラスを振り返っていかがだったでしょうか?

谷川氏:リザルトだけを見ると、2017年に比べて成績は振るわなかったシーズンになってしまいました。タイヤとしても一発のタイム、性能安定性のどちらにも課題があったと認識しています。今年はそのあたりを改善していくことが課題になっており、速さと性能のバランスを取りながら開発していきたいです。

──GT300クラスに関してはいかがでしょうか?

谷川氏:ゲイナーの11号車がシリーズ5位になり、最終戦までチャンピオン争いができたことはよかったと思っています。タイヤもそこそこの性能を発揮していたと考えています。今年はタイヤの性能を上げて上位を目指していきたいです。

2018年シーズンに活躍した11号車 GAINER TANAX GT-R

──開幕戦の岡山国際サーキットでの結果をどう評価されていますか?

谷川氏:言うまでもなくああいうコンディション(筆者注:降雨により赤旗中断、レース終了となってしまった)だったので、タイヤを評価するのはなかなか難しいです。ただ、1つだけ言えることは予選にせよレースにせよ、上位は走れていなかったので、もっとグリップを上げていかなければならないと考えています。初戦ということもありチームのセットアップの方ももう少し最適化していく余地があると考えていて、それがきちんとできていればQ1は突破できるぐらいの性能はあったのではないかというのが自己評価です。自分たちがこの冬目指してきたところはクリアできていることは確認できましたが、言うまでもなくレースは相手がいることですから、相手の進化も速い。これからも足りない部分を進化させていかなければならないと考えています。

 GT300クラスに関しては3台共に予選のQ1を突破できて狙い取りの性能を実現していました。レースのタイムに関しては雨だったのでまだ評価が難しいところです。

2018年シーズンについて語る谷川氏

──Q1で12位になった牧野選手は、「5分間停止のペナルティが無ければちゃんとタイヤを温められて、Q1に行けるぐらいのタイムは出せそうだった」とコメントしていました。牧野選手という強力なドライバーが加入したのも64号車の話題ですが、ドライバーとしての牧野選手はいかがでしょうか?

谷川氏:フィードバックもしっかりしていますし、走りも安定しています。ドライバーとしてはとてもよくやっていただけていると評価しています。

今北氏:タイヤに関するコメントがわれわれエンジニアに分かりやすく、自分の感じたことを素直に話してくれるのは開発していく上でとても重要だと考えています。また、テストで一発が欲しい、タイヤを限界まで使ってほしいという時に、キッチリタイムを出してくれるので、大変助かっています。

GT500クラスは牧野選手に期待がかかる

──今シーズンのGT500クラスの開発方針を教えてください

谷川氏:今年の開幕戦を1つのターゲットにして、構造とゴムの開発を進めてきました。開幕戦までにはこれまでの課題だった一発のタイムが改善されており、低速コーナーでのスピード改善を構造で行ない、デグラデーション(ゴムの劣化)の改善、ピックアップなどに関してはゴムの配合などにより改良を加えてきました。岡山の結果を見る限り、自分たちが設定した第1段階はクリアできているのかなと感じています。ですが、それではまだまだ十分とは言えないので、中盤以降にさらなる改良を加えていきたいと考えています。

今北氏:開幕後に行なわれた公式テストでも、よい結果が出ています。ただ、開幕戦ではまだまだ改善すべき部分があるのも事実で、今後チームともよく協議して早急に改善していかなければならないと感じています。

公式テストではよい結果が出るもまだ改善の余地があると語る今北氏

──GT300クラスの方はいかがでしょうか?

今北氏:今シーズンのGT300クラスでわれわれにとってやりやすくなったのは、3台ともに同じタイヤサイズになったことです。今年はスバルさんのJAF-GTと、GT-RなどのGT3の間でそんなに大きく性格の違いがないので、共通した技術のレンジの中で選べるようになっていると思います。

 もちろん、競合も強力なラインアップを用意されています。われわれは3チームともに実力があるチームなので、今年は常に上位に来るようなレースができるようにサポートしていきたいです。

タイヤサイズがそろったことでGT300クラスの開発がやりやすくなったという

──最後に今シーズンの目標をお願いします

谷川氏:GT500クラスは1勝を目指します。1勝するためには何回か表彰台に乗れるような位置にいることが必要です。GT300クラスに関してはチャンピオンの奪還で、3チームまんべんなく上位に入る様にしたいです。