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本田技術研究所 大津啓司社長、空飛ぶハイブリッド「電動垂直離着陸機」や「小型ロケット」などホンダの新領域技術について説明

株式会社本田技術研究所 代表取締役社長 大津啓司氏とeVTOL

 本田技術研究所および本田技研工業は9月30日、ホンダの新領域の取り組みについて一部を明らかにした。その中には、電動化技術とガスタービンエンジン技術をハイブリッドで利用するeVTOL(電動垂直離着陸機)や、衛星を打ち上げ可能とする小型ロケットなど驚くべきものが含まれていた。

 これらの開発技術については、本田技術研究所 代表取締役社長 大津啓司氏らが説明。実用化を目指して開発中であることを明言した。

Honda eVTOL

「Honda eVTOL(電動垂直離着陸機)」

紹介する3つのテーマ

 大津社長によるとこれらの新領域技術発表については、2021年4月に本田技研工業社長に就任した三部敏宏氏の発表会がきっかけになっているという。この発表会において三部氏はカーボンニュートラル社会へ向けてのロードマップなど電動化への取り組みを示したが、新技術開発についてもふれていた。ホンダ自身の機構改革によって本田技術研究所はより先端的な技術開発に取り組みやすくなっており、4月の発表を受けて新技術の一部を公開するのだという。

 いずれもすぐの事業化を目指している訳でないが、数年後、十数年後の事業化を予定して開発しているとのこと。これから紹介する各技術製品は夢のようなものもあるが、ホンダはこれまでロボットやホンダジェットなど、夢のような技術をものにしてきた。ロボットは事業化というレベルには至っていないが、ホンダジェットは事業化に成功しており、世界へ向けて販売されている。

大津氏の略歴
本田技術研究所について
価値
100年に一度の変革期
研究所の改革について
4月の発表会について
人々の自由時間を創出する
研究所のミッション
ホンダのコア技術活用

 そんなホンダが次に提案するのが、「Honda eVTOL(電動垂直離着陸機)」。これは空飛ぶクルマとしても話題になっている空の電動モビリティ製品になる。その特徴は、8個の垂直電動ローター、2個の電動推進ローダーによる垂直離着陸性能にもあるのだが、電動ローターの電気供給源としてホンダ開発によるガスタービンエンジンを用いること。

 ホンダはホンダジェットにおいて軸流式ジェットエンジン「HF120」の量産化に成功しており、それらの燃焼技術を用いたガスタービンエンジンを開発。そのガスタービンエンジンにより発電し、発電した電気でローターを駆動する、いわゆるシリーズハイブリッドでの飛行を目指している。

eVTOLをコアとするモビリティエコシステム

ホンダ、Honda Jet用エンジン「HF120」試験設備など公開

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/682015.html

 開発を担当する本田技術研究所 先進技術研究所 新モビリティ研究ドメイン統括フェロー 川辺俊氏によると、小型・高効率なガスタービンエンジンを用いることで、現在多くのメーカーが開発中であるバッテリのみの空飛ぶモビリティと比べて、航続距離の延伸が可能という。都市間移動などのサービスを、Honda eVTOLを中心に構築し、モビリティサービスもホンダで構築し、システムで提供していくことも可能な構想となっている。

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 新モビリティ研究ドメイン統括フェロー 川辺俊氏
eVTOL
eVTOLは8つの垂直ローターを備える
2つの推進ファン
搭載するガスタービン発電機
eVTOLの構造
航続距離
ホンダのコア技術
2040年の社会
ホンダの目指すモビリティ
エコシステム
プロジェクトタイムライン
風洞試験の様子

バーチャルな移動を目指す「Honda アバターロボット」(分身ロボ)

ロボット

 時間や空間を超えた移動を目指す技術としては「Honda アバターロボット」(分身ロボ)を紹介。このアバターロボットはホンダのロボティクス技術である多指ハンドとAI技術を組み合わせたものになる。

 開発を担当する本田技術研究所 先進技術研究所 フロンティアロボティクス研究ドメイン統括 エグゼクティブチーフエンジニア 吉池孝英氏によると、遠隔操作でドライバーでネジを締めることや持ち替えなどができ、プルトップ缶をあけるなどができるとのこと。

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 フロンティアロボティクス研究ドメイン統括 エグゼクティブチーフエンジニア 吉池孝英氏

 これら精密な指操作は非常に難しい技術となるが、これをホンダはAIを利用することで解決していくという。具体的には、多指ハンドにやりたいことを伝え、AIがその状況を判断して細かな操作をサポートしていく。粒度の粗いコントロール情報を元に、状況を判断しながら粒度の細かいコントロール情報を付加していく形になる。

 これら繊細な多指ハンドコントロールがリモートでできるようになると、地球にいながら月面の細かな作業なども遠隔操作できるようになるなど空間を超えることも可能になる。また、これらのコントロールには信号遅延がつきものだが、AI補完によって遅延の隠蔽も可能となり、「時間・空間・能力の制約に縛られず、自己を拡張する」というアバターロボットが実現していく。

4次元モビリティとしてのロボット
時空の拡張
遠隔操作について
多指ハンドに求められるもの
人並みの能力
動作について
違和感なく操作
把持
道具を使う
プロジェクトタイムライン
Honda Avatar Robot AI supported remote control
Honda Avator Robot

小型ロケットを含む宇宙領域への挑戦

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 執行役員 小川厚氏

 3つ目として紹介されたのは宇宙領域の挑戦。すでにホンダはJAXA(宇宙航空研究開発機構)と一緒に、月面でのサステナブルなエネルギー活用に取り組んでいる。具体的には、ホンダの燃料電池技術をベースとした発電システムで、燃料電池技術に加え、高圧水電解システムと組み合わせることで、循環型再生エネルギーシステムを構築しようというもの。水素・酸素と水をクローズドで遷移させていくことで、月面におけるムダのないエネルギー発生システムを作っていく。

 この分野を担当している本田技術研究所 先進技術研究所 執行役員 小川厚氏によると、宇宙領域においてはホンダの燃焼技術を使った小型ロケットの開発も進めているとのこと。

 若手研究員の発案にもとづく小型ロケット開発は2019年から開始。すでに燃焼についての実験も始まっており、小川氏は動画を白黒で見せてくれた。ただ白黒になっているのは、燃焼色によって成分が分かってしまうためとしており、逆に言えば結構具体的なプランであることが分かる。

小型ロケットについて
燃焼映像

 以上の大きく分けて3つが今回発表された先進技術開発だが、いずれも自動車会社の枠組みから大きく離れているように見えて、ホンダが持つコアな技術がしっかり活かされていることが分かる。

 ホンダのすごいところは、これらの技術を本当に実現してしまうだろうと思わせるだけの実績を持っていることにある。かつて、ロボットの二足歩行は夢の技術と言われていたが、ホンダP2の技術公開により急速に一般化。さまざまな歩行ロボットが実現している。

 また、空を飛ぶものに関しても航空機開発は故本田宗一郎氏の夢であり、ホンダは1940年代に航空技術者の募集をし、1962年にはガスタービン研究室が発足していた。それらはホンダジェットとしての事業化につながっており、ホンダの技術力の高さを証明している。

 この3つの分野についても事業化には非常に高いハードルがあると予想されるが、それだけに超えることができた際には、ホンダだけでなく社会にも大きなインパクトを与えてくれるものになるだろう。